笑福亭たま 桂米朝しかやらない大ネタでブレイクの兆し

NEWSポストセブン / 2018年10月20日 7時0分

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笑福亭たまの魅力とは

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、上方落語の笑福亭たまの、ブレイクの兆しについてお届けする。

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 上方の若手爆笑派、笑福亭たま。早くから積極的に東京に進出、パワフルな芸風で人気だ。8月23日、彼が隔月開催する「笑福亭たま日本橋劇場独演会」に出掛けた。前回は「芸歴20周年」をサブタイトルに掲げていたが、今回は「花形演芸会大賞受賞記念」としてある。

 たまの1席目は『近日息子』。三代目桂三木助が東京に持ってきた噺だが、もちろん元は上方落語。バカ息子が父親の葬式の準備を始めたのを見て町内の連中があれこれ噂をする場面での「いつも言い間違いをする男」のくだりは東京版にはないが、この脱線の可笑しさにこそ上方版『近日息子』の真髄がある。たまはここを重点的に描き、エピソードを膨らませて爆笑を呼ぶ。

 この日のゲストは落語芸術協会から2人。まずは瀧川鯉朝が『ペコとマリアとゆかいな仲間』。不二家のペコちゃん人形が喋る新作落語『街角のあの娘』の続編だ。

 続いてたまが演じたのは『土橋萬歳』。上方の大ネタだが、あまり聴けない珍しい演目だ。1991年の桂米朝の高座を収録したDVDの解説には「今は米朝しかやらない」と書かれており、その米朝にしても「滅多にやらない古風な噺」と言っていた。

 遊びが過ぎて離れに閉じ込められた大店の若旦那が、見張りの丁稚を言いくるめて逃げ出した。丁稚から行先を聞き出した番頭、若旦那を連れ戻そうとするが聞く耳を持たず、蹴倒されて追い返されてしまう。

 ひとしきり宴会に興じた若旦那が「河岸を変えよう」と芸妓・幇間を引き連れて出たところを追い剥ぎが襲う。追い剥ぎの正体は番頭で、なんとか諌めようという苦肉の策だったがそれも効かず、遂に番頭が若旦那を刺し殺すという事態に……。

 米朝が30分以上かけていた噺を、たまは枝葉を刈り取って20分足らずに再構成。大仰な人情噺テイストを取り除き、あくまで軽やかにテンポ良く聴かせる。ラストのドンデン返しにも工夫があり、従来のわかりにくいサゲを排してスッキリさせた。たまの「古典の現代風アレンジ」の才が遺憾なく発揮された逸品だ。

 もう1人のゲスト桂文治が柳家喬太郎が掘り起こした『擬宝珠』を演じた後、たまはショート落語(オリジナル小咄)を幾つか披露してから、トリネタは最新作落語『プロレス』。プロレス好きな先輩がプロレス博物館に後輩を連れて行って啓蒙する噺で、プロレスの本質を突きながらあくまでバカバカしく笑わせる。

 10月からたまは東京での定例独演会の場を深川江戸資料館に移し、毎月開催する。いよいよブレイクか!?

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2018年10月26日号

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