エベレスト頂上 医学的には酸素ボンベないと10秒で意識喪失

NEWSポストセブン / 2012年1月27日 7時1分

白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏によると、安全に登山をするための新たなバイオマーカー、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)が発見されたことで、今後、高齢者の登山がより安全に行なえるようになるかもしれない。

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2008年5月26日、プロスキーヤーで登山家の三浦雄一郎さんは75歳の高齢でエベレスト登頂を果たした。1970年にエベレスト大滑走を成し遂げた後、70歳で登頂して以来5年ぶり。2回の心臓手御術で不整脈を克服してのエベレスト制覇という快挙だった。

エベレストの頂上は、酸素濃度が7%、地上の3分の1しかなく、人間の生存限界を示す。酸素ボンベなしでは、10秒で意識を失い、呼吸困難や肺水腫、脳浮腫になり、生命を維持できない

それではなぜ、75歳の高齢者がエベレストの頂上で酸素ボンベを手放して、カメラに向かい何十秒もコメントをして意識を失わずにいられたのだろうか。

2003年に70歳で次男の豪太さんとエベレスト親子同時登頂を果たした直後から、三浦さんの主治医だった私は、75歳での再登頂はエベレストとの闘いではなく、内なるエイジング(加齢)との闘いだろうと考えていた。

この前例のないチャレンジに立ち向かうには、新たなアンチエイジングのアプローチが必須と考えた私と豪太さんは、三浦雄一郎さんの協力を得てアタック隊がエベレスト登頂でどのように低酸素に適応するのか、その秘密を探索しようと研究計画を立てた。

三浦雄一郎さんら4名に酸素濃度が12.5%の低酸素室で1時間滞在してもらい、その前後でDNAチップを使って白血球の遺伝子発現の変化を比較検討するというものだ。DNAチップとは、ヒトゲノム上の遺伝子全てを検索できる実験装置で、遺伝子発現を調べることができる。

すると興味深いことに、ヘムオキシゲナーゼ‐1(HO-1)という遺伝子の発現が低酸素刺激で特異的に変化していることを見いだしたのである。この遺伝子は生体が低酸素に曝された時に血管を拡張したり、低酸素による酸化ストレス傷害に対して抗酸化作用を示したりする。さらに血液中のHO-1を測ってみると、エベレスト登頂経験者では、HO-1の血中濃度が遠征前から高いことが分かった。

アタック隊が6000メートルの高度で速やかに高度への順化を果たし、重篤な高山病も発症せずにエベレスト登頂できるのは、HO-1の濃度が高いため、肺や脳の血管が低酸素時にも収縮せずに拡張しやすく、そのため末梢循環が保たれているからだと考えられた。

研究で安全に登山をするための新たなバイオマーカー、HO-1が発見されたことで、今後、高齢者の登山がより安全に行なえるようになるかも知れない。登山愛好者にとっては朗報だ。

※週刊ポスト2012年2月3日号



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