オウム死刑囚・井上嘉浩 獄中記と「死後に届いた手紙」

NEWSポストセブン / 2018年12月20日 11時0分

 嘉浩に接見後、伊達は当日の夕刊を調べてみた。すると未明に降り始めた雪の影響で首都圏の鉄道、道路等の交通網が大混乱に陥ったことが報じられていた。

「中川から指示があったのは、午前八時台か九時頃。だから午後早くに帰ってくることができた。午前十一時前後に指示があっても、とても上九(上九一色村)に帰ってくることなど、できませんでした」

 嘉浩のその話が、裏づけられていたのである。假谷事件の認定事実は間違っている──中川証言に疑念が生じてきたことで、伊達を中心とする井上弁護団は、地下鉄サリン事件も含めて再審請求をおこなった。

(井上嘉浩の判決は一審の無期懲役こそ正しい)

 伊達弁護士は、そのことに確信を持ったのである。

 これを受けた東京高裁刑事八部の動きは早かった。二〇一八年五月八日、再審請求書の提出から、まだ二か月も経たないというのに、再審請求に関する「進行協議」が早くも始まったのだ。そして、さらに二回目の進行協議が、七月三日に開かれた。伊達によれば、

「検察官は、九五年三月一日の井上君の携帯電話の記録の存在を認めました。そして二週間程度でこれを開示できる、と約束しました。高裁はこれで次回の進行協議を八月六日に指定しました。いよいよ真相解明に動き出したんです」

 だが、その真相究明への道は、法務省によって突然、断ち切られた。進行協議の三日後、七月六日に嘉浩を含む麻原ら七人のオウム死刑囚に絞首刑が執行されたのである。

(そんな、バカな)

 真実究明が緒についたばかりの執行に茫然としたのは、伊達弁護士である。法治国家として、あり得ないことだった。日本の刑事裁判は、刑事訴訟法に基づいておこなわれており、その総則第一条には「事案の真相究明」が目的として謳われている。そして再審請求は、真実究明を求める受刑者の基本的権利として認められている。

「公開される井上君の通信記録とは、假谷事件における中川証言を覆す重要な証拠でした。しかし、それを法務省が葬り去った。再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は、刑の確定者に対する再審請求権を奪うものであり、また本来、死刑にされなくともよい者までも、国家が死に至らせることにもなる。とても許せるものではありません」

 執行の前夜、上川陽子法相は、安倍晋三首相も参加する「赤坂自民亭」なる議員仲間の酒席に参加し、大いに楽しんでいたことが、のちに明らかになった。厳粛であるはずの死刑制度であったとしても、実際にそれを執行する側の意識がその程度であったなら、これは、「日本の不幸」と言うべきだろう。

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