「拉致被害者2名生存情報」今後の日朝関係にどう影響するか

NEWSポストセブン / 2019年2月27日 7時0分

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米朝首脳会談で拉致問題は進展するか(AFP=時事)

 日韓関係の停滞と対照的に、否応なく日朝関係は変化を迫られている。拉致被害者の田中実さん(失踪当時28)と金田龍光さん(同26)が北朝鮮・平壌で妻子と暮らしている──2月15日に配信された共同通信の“スクープ記事”によって、拉致問題が新たな展開を見せた。この情報は今後の日朝関係にどんな影響をもたらすのか。金正男を独占取材した“金王朝を最もよく知るジャーナリスト”の五味洋治氏が、日朝の駆け引きを解説する。

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 田中さんと金田さんの生存そのものは、北朝鮮から日本に伝えられた情報として昨年以降、すでに複数回報じられているものです。ほぼ同じ内容の記事がなぜ改めて配信されたのか。背景には、日本と北朝鮮それぞれの思惑が隠れています。

 記事ではニュースソースとして〈政府関係者が明らかにした〉と書かれていますが、私の聞くところ、共同に情報をリークしたのは外務省関係者だといいます。

 背景にあるのは米朝接近への焦りです。米朝首脳会談によって両国が公式な外交関係樹立に向けて動き出せば、日米韓で日本だけが北朝鮮と正式な政府間協議すら行なえていないことになる。このまま行けば対北朝鮮関係で孤立化してしまう。強い危機感を抱いた外務省サイドが情報を流して拉致問題に対する関心を喚起し、日露交渉に比重が置かれた現在の日本政府の外交バランスを修正したいという意図があった。

 一方の金正恩の目当てはもちろん、日本との国交正常化後に転がり込んでくる1兆円とも2兆円ともいわれる巨額の戦後補償金です。

 そのために、日本を揺さぶる最も切りやすいカードが田中さんと金田さんです。金正恩にとって、拉致被害者全員の帰国は体制そのものを危うくするためとても呑めないが、この2人は同じ養護施設の出身で、日本に家族や身寄りがいない。万が一、帰国させてもハレーションが少ない。金王朝の正統な後継者である金正恩は計算高く、交渉巧者です。その交渉戦術は“差し出すものは最小限に、実利は最大を”という、父・金正日に倣った狡知さと怜悧さを併せ持っています。

 北朝鮮は今後も2人の情報を小出しにして、更なる続報を日本のメディアが報じるよう画策する可能性があります。2人を国営テレビなどに出演させて、「日本政府は私たちのために何もしてくれなかった」と安倍政権批判の談話を発表させることもあり得ます。

 日本国民の関心を2人に引き付け、拉致問題の“主役”を替わらせるような印象操作を行ない、最終的には2人の帰国で拉致問題を決着させるのが金正恩が考えるシナリオでしょう。

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