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自民党の選挙公約は本当に実現されるのか

プレジデントオンライン / 2013年7月29日 8時45分

各党が参院選で掲げたキャッチフレーズ

■特色のある政策ほど結局は実現しない

7月21日に第23回参議院議員選挙の投開票が行われた。この原稿を執筆している段階(7月12日)では、結果はわからないが、自公与党の躍進、民主党の低調、共産・維新・みんなの三つ巴という基本構造は動かないまま、選挙戦を終えたものと思われる。

選挙報道は、大きく分けて、3つのパートからなっている。第1は各政党の公約比較、第2は各選挙区の情勢分析、第3は選挙後の政治情勢の予想である。

各選挙区の情勢報道については、参議院選挙は組織選挙の傾向が強いので、事前にほぼ予想が可能である。まして、今回は、争点があるようで、実はあまり争点化されていない選挙なので、大きな「風」が吹くこともなさそうだ。それでも、不確実要素があるとすれば、天候によってかなり左右される投票率だ。選挙区情勢を予想するよりも、天気予報をした方が、結果予想には役立つだろう。

選挙後の政治情勢の予想については、なぜか、あまり報道されない。普段の政治記事は、憶測に基づいた、「合従連衡」の予想が半ば飛ばし気味に報道されるのに、選挙中にはぴたりと止まる。せめて、予想される獲得議席数について複数のシナリオをつくり、それに基づく政界再編の予測記事が出てきても良さそうなものなのだが。

そこで、選挙報道の中心になるのは、いわゆるマニフェスト選挙の影響もあり、各政党の公約比較の記事になってくる。そして、少なからぬ有権者は、この公約を基に投票行動を行う。最近では、設問に答えることで、自分の考えに近い政党や候補者がわかる「ボートマッチ」というサービスを提供しているウェブサイトもある(※1)

しかしながら、私は公約を基準に投票先の政党を選んでもあまり意味がないと考えている。その理由は4点にまとめられる。

第1には、政党が選挙戦略上の「互助組合」となっており、政党の公約と個々の政治家の信条や行動は異なるため、今後も離合集散が予想されるからだ。現在の政党助成金制度や選挙制度では、少数政党ほど不利になる。このため政党は、選挙のための「互助組合」に近いものとなっている。

第2には、政党公約は選挙用に十分に検討せずに準備されているので、実現がほぼ不可能なものも含まれている。また、前述のように、選挙互助組合であるから、選挙中に党内からも政党公約に対する批判が出る始末である。

第3には、現在の日本では、特定の政治信条を元にする政党が多数派を形成し、選挙の結果に基づいて、政権を担うということが元々期待できない。というのも、日本は米英のような二大政党制ではなく、ヨーロッパ的な多党制に近い状況となっている。しかも、この連立の組み合わせは、政党間の政策の類似性というよりも、歴史的経緯や政党幹部同士の好き嫌い、さらに学校の先輩後輩などで決まってしまう。

第4には、選挙運動の規制が厳しく、自筆式の投票方法を採っているため、選挙戦略上は政策の違いを訴えるよりも、知名度を上げることが有効となる。多くの政治家もそれを知り尽くして、選挙を行っている。ある学者出身の政治家が「インテリジェンスがある人間は、鉢巻きをして自分の名前を書いたタスキを掛けて、自分の名前を連呼するなど恥ずかしくて出来ないだろう。自分がそれを出来たのは、それが最も当選に目的合理的だったからだ。構造改革のためにやむを得ずやった」と語るのを聞いたことがある。

そもそも、公約を詳細に検討するとコアの部分ではあまり違いがなく、違いがあるのは一部の極端な政策だけであることに気がつくだろう。そして、その極端な政策は、多数派を形成しにくいので結局実現しない。

■地元を駆け回るほど「票」が増える現実

なぜ、このような公約体系になるかは、選挙を消費財のマーケティングに近いものとしてとらえると理解できる。

第1に、有権者は、もはや政策体系が複雑すぎて、完全に理解することはおよそ不可能になっている。高度な専門知識がなければ、示された選択肢の意味を理解することも難しい。限られた時間のなかで、適切な選択肢を選び取るのは誰にでもできることではない。

第2には、実は、政策は複雑化している一方で、コモディティ化が進んでいる。つまりどの政党も似たような玉虫色の政策しか提示できなくなっている。これは公約をつくるうえで、政策形成のソースが「霞が関(官僚組織)」に限られていること、財政上の制約が大きいこと、内閣支持率を考慮すると国民の多数に反対を呼ばない「中道的」な政策となること、といった条件があるからだ。

この条件下では、あらゆる政策が似通ってしまう。実際、米英の二大政党制においても、競合の政策を模倣しあった結果、互いの政策が似通ってしまい、差別化のために「増税/減税」「金持ち優遇/中間層へのアピール」などと争点を単純化させるか、逆にニッチな政策で過激な議論を吹っかける、という状況に陥っている。

こうなってくると、政党のコミュニケーション戦略は、政策を核としたものではなく、漠然としたブランドイメージの方が重要となる。このとき戦略的に合理的なのが「ワンフレーズ選挙」だ。たとえば小泉内閣が郵政解散において、「構造改革」というブランドイメージを訴求するために「郵政民営化」というワンフレーズだけを訴求したのは合理的ということになろう。

この戦略はより「消費者」に近い、選挙区のレベルでこそより有効である。私が実際に間近に見た例をあげれば、事前の予想を裏切って大臣経験者の与党幹部議員を破った新人候補が典型である。この選挙戦では、中央とのパイプが強い高齢の与党議員という競合候補のポジションを逆手にとって、新人候補は「若くて地元密着の候補が政治を変える」というのをブランドメッセージにした。競合との違いを明確にする方法、それは、地元を自転車やマラソンで駆け回りながら選挙運動をすることであった。

与党幹部議員は他エリアに応援に行くので地元にいることが少ない。また、高齢であるから、演説場所はターミナル駅などに限られ、車の上から手を振るぐらいのことしかできない。一方、新人候補は地元を駆け回り、体力を誇示し、地域密着をアピールした。これは、競合との差別化が明確で、かつ、模倣困難なので、非常に効果がある。

結局のところ、現実の選挙戦では、政策の違いを理解させるだけのアテンションを有権者から集めるのは極めて困難である。だからこそ、わずか15秒のテレビCMのような施策がとても重要なのだ。こうした観点からすると、各党のワンフレーズのキャッチコピーである「日本を、取り戻す。」「安定は、希望です。」「暮らしを守る力になる。」などに対して、「なにを訴えたいのかわからない」と批判するのではなく、どういう層をターゲットにしているのかを考えてみるのは、思考実験としても面白いだろう。

そもそも新党にとって最も重要なことは党名の認知であり、そのためには手段を選ばない。業界では、公明党は明るい選挙推進協会(明推協)の前身の「公明選挙連盟(※2)」、みんなの党は明推協や選挙管理委員会などのキャッチコピーだった「みんなの選挙」から党名を採ったという説もあるぐらいだ。

もうひとつの差別化戦略であるニッチな政策での先鋭化は、今回の参議院選挙においても鮮明であった。防衛・外交問題や原発問題といった、イデオロギー性を帯びやすい問題をより過激な形で訴求していく戦略は、消費財においてブランドロイヤリティを獲得するために、機能の合理性よりも、やや不合理なくらいのストーリー性を訴求するという戦略と完全に一致している。

以上を踏まえると、選挙において、公約が果たしている機能は、構造的に小さくならざるを得ないことがわかるだろう。むしろ、連立協議を予想して、どのような連立政権になるようにどの政党を伸ばしたら良いかといった、選挙後のシナリオから逆算した方が合理的といえる。

※1:今回の参院選では毎日新聞社が「えらぼーと」というサービスを提供していた。憲法改正や消費増税、アベノミクスなど26の設問があり、それぞれに対して賛否と関心度を記入すると、自分の考えに近い政党や候補者がわかる。
※2:1951年の統一地方選挙で6万人超の検挙者が出たことから、1952年6月に「公明選挙連盟」が発足。同年7月には政府も「選挙の公明化運動に関する件」を閣議決定した。しかし1961年に公明政治連盟(のちの公明党)が結党されたことから、1965年に名称が変更された。

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京都大学客員准教授、エンジェル投資家 瀧本哲史
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー&カンパニーへ。主にエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事する。3年の勤務を経て投資家として独立。著書に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』などがある。

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(京都大学客員准教授、エンジェル投資家 瀧本 哲史)

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