柳井 正の訛り:キツイ言葉でも人を動かす「低音」の魔力
プレジデントオンライン / 2013年8月7日 11時45分
なぜ、名経営者たちは聴衆を引きつけ、人を動かせるのか。音声、しぐさ、パフォーマンスの権威が映像を徹底分析したところ、本人も気づかないような意外な事実が見えてきた。
日本を代表するカリスマ経営者のひとりでありながら、メディアでの露出が少ないファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。ネット上でも新製品発表のスピーチや、旗艦店のオープンで取材される姿がわずかに見られる程度だ。
式典のテープカットでは笑顔を見せるものの、インタビューのマイクを向けられると感情をほとんど表に出さない。
「しぐさも控えめで、慎重な方だとわかります。フォーマルな場で派手に振る舞うのは、経営者である自分の本分ではないと心得ている。ミッションやビジョンが明確な方ですから、周囲にどう思われるかといったところからは超越しているのでしょう」(デジタルハリウッド大学教授・匠英一氏)
派手な自己表現はなくても、柳井さんの話には説得力がある。言葉の意味が理解しやすく、つい聞き入ってしまうのは、低音の魅力的な声のおかげだ。
「発声がよくできた非常にいいお声です。カラオケを歌えば上手なはずですよ。人間の耳が聞きやすい周波数にぴたりと合っているので、大きな声を出さなくてもよく通ります。また、日本人が『いい声』と感じる2000Hz以下の低音がよく出ています。話速は1分間に438字と速めですが、強弱がよいので頭に入ります」(日本音響研究所所長・鈴木松美氏)
もう1つ重要な点は、山口県宇部市出身の柳井さんには少し訛りがあること。
「訛りは聞く人に親しみと安心感を与えます。何ら根拠はないのですが、方言をしゃべる人が他人を騙すはずがない、という安心感。孫さんもそうですし、好例はジャパネットたかたの高田明社長です。逆に地方の出身ではない人が、ウソの訛りを演出すると信用を落とします」(鈴木氏)
もちろん、柳井さんの話に説得力があるのは、それだけが理由ではない。
「価値観が強固で、顧客のことを真剣に考えている。曖昧なところはなく、ブレません。秘めたるパッションが強烈なことは、ロジカルな話し方に表れています」(匠氏)
理路整然と語られる内容は厳しい。あるインタビューで、日本の経済力が鈍化した原因は何だと思うかと問われ、「競争を回避しようとする」「成長に貪欲じゃない」と他社の経営者には耳の痛いことも冷静に言い放った。
「話す内容はかなり強いのに、実際はそれほどキツイ印象を与えません。小柄な体格と、顔の表情があまり変わらないせいです。意外と敵をつくらないタイプです」(日本大学芸術学部教授・佐藤綾子氏)
話している最中の柳井さんは、伏し目がちでアイコンタクトは弱い。口元の動きも小さく、威圧感がないのだ。
「まばたきが多いのも特徴です。日本人のまばたきは1分間に平均34回ですが、柳井さんはその2倍以上。途中でカウント不能になりました。そのため、相手を強く睨みつけることがないのです。普通の人がこのような表情で口元を動かさずに話すと、ほとんど内容が伝わりません。柳井さんの場合は、『いい声』がそれをカバーしているのです。ちなみに、ここまで表情筋の動きが小さい経営者は珍しく、私のパフォーマンス学30年の歴史ではミサワホーム創業者の三澤千代治さん以来、2人目です」(佐藤氏)
柳井さんの話し方を安易に真似すれば、慎重すぎて自己アピール力に欠けると見られる。「いつも浮ついている」と他人から指摘される落ち着きのないタイプなら、フォーマルな場面で参考にするのはいいだろう。
■柳井さんのマネして
うまくいくポイント、大コケするポイント
○「低い声」を心がける
×伏し目がちになる
×キツイことを言った後、フォローしない
×地方出身ではないのに方言を使う
(ライター 伊田 欣司 小倉和徳、若杉憲司、澁谷高晴=撮影)
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