うだる猛暑の激闘! ビールウォーズ2013【サッポロ】
プレジデントオンライン / 2013年8月7日 14時15分
2013年上期のビール類メーカー別シェアはアサヒビールが37.1%(前年同期比0.2 %減)、キリンビールが35.0 %(同0.6%減)、サントリー酒類が15.1%(同0.6%増)、サッポロビールが11.9%(同0.2%増)。この夏の奮闘が後半戦を左右する。
■変化の波に揺れる今年のビール業界
小路明善ビール酒造組合会長代表理事(アサヒビール社長)は言う。
「前回の酒税改正(実施は2006年5月)では、業界はバラバラだった。今回は1枚岩で臨む。酒造組合で決めた方針がアサヒの方針と異なっても、私は組合の決定に従う」
今年はビール類の新商品などでの増産が目立つ。だが、全体としてはダウントレンド。
今後は消費税増税に伴う酒税をめぐる税制改正が年末にかけて実施されるかどうかが焦点となる。さらに少子高齢化や若者のビール類離れ、ハイボールやワインの台頭、メーカーと大手流通との共同開発商品やPBなど、国内産業の代表格でもあるビール類業界は今年も大きな変化の波に直面している。こうしたなか、営業マンは日夜奮闘している。変化の波間を突きながら。
ビール類の営業には2種類ある。1つは、スーパーやコンビニなどの販売現場を攻略する営業。バイヤーを主に攻略するが、市場の7割はスーパーなどの家庭向けとなる。もう1つは、飲食店などの業務用。店主や飲食チェーンの担当者が相手であり採用されるかどうかはゼロか100かの世界だ。売り込むのはビールだ。まずは、前者を見てみよう。
■父に憧れて営業の世界へ
「作品1号と2号です。どうですか、谷口さん」
「櫻井さんが作ったの。よくできてるけど、色のついた針金とか材料はどうしたの」
「ハイ、かっぱ橋で入手しました」
窓の外は空っ風が吹いていた。赤城山から。
群馬県前橋市にあるチェーンスーパー、ベイシアの本部1階にある商談スペース。サッポロビール広域流通本部第3営業部の櫻井桃子が持ち込んだ手作りの什器を、ベイシアのバイヤー谷口剛士は思わず手に取っていた。
ほんの2週間前、「小容量のワインをもっと売りたい。だが、棚に入れると小さいから埋もれてしまう。何とかならないか」と谷口は、ボールを投げた。これを受けた櫻井が、棚のサイドに吊す什器として試作したのが、1号と2号だった。その後、3号を作るなど試行錯誤は2カ月続き昨年3月から、関東を中心に100店舗強あるベイシア全店舗に作品は採用される。
谷口は酒類を担当し今年5年目。
「櫻井さんは気づきが鋭く提案スピードが速い。そして、何とも言えない潔さがある。今夏ベイシアは全店でヱビスを積極展開しています。もともとの高級ビールであり、親戚縁者が何かと集まる地方では人気。ザ・プレミアム・モルツと違い複数の種類があるのも田舎で受ける理由でしょう。実は、櫻井さんからこうしたブランドの魅力を伝えてもらっている。だから、ヱビス中心にと私は決めた」と谷口。
櫻井は、氷河期の就職戦線をくぐり抜け2011年に入社。首都大学東京の大学院理工学研究科(修士)で遺伝子学を修めた理系女子だ。「アパレルメーカーで営業をしていた父が素敵だったので、私も営業職を志しました。サッポロを選んだのは、お酒が好きだから。研究ですか? 目標を達成できたので区切りがついてました。なので、自分がやりたいことを目指したのです」。
■なぜストライプのブラウスを着るか
![](https://president.jp/mwimgs/8/3/110/img_83055699fa915387a22c4378a66b10d532870.jpg)
櫻井さんの1日
2カ月の研修期間中、スーパーやコンビニなど大手流通のチェーン本部を担当する広域流通本部への配属を希望すると、なぜかそのまま叶う。
「どうせやるなら取引の大きな営業をやったほうが、きっとカッコイイ」と多くを考えずに希望を出した。3部の人員は5人。櫻井のほかは45歳以上の男性ばかり。
みな過去に実績を持つ辣腕だった。そんな組織に飛び込んだ紅一点の彼女に、周囲は言った。「ふざけているのか。仕事は遊びではない」と。
ベイシアグループ担当となるが、現実には何もわからず最初はついていけなかった。揚げ句には、谷口にも叱られてしまう。
取引先にも迷惑をかけるなど、無力な自分をどうすることもできず「一度だけですが、恵比寿(本社)のトイレで泣いちゃいました」と告白する。
こうした状況で、若い櫻井は自分をどう立て直していったのか。
谷口が解説する。「とにかく、櫻井さんは一生懸命を続けた。いや、いまでも続けています。全力プレーの継続が、経験の少なさを補い、気がつけば良質な企画を持ってくる形に変わった。最初の頃、悩み戸惑っていたと思います。でも、どんな仕事でも、苦境を乗り越え、やり抜くのは本人でしかない。実は、私のところに来る営業は男性のベテランばかり。女性営業マンは彼女が初めて。私は女性だからと特別扱いはしません」。
これに対し櫻井は、「自分が考えた企画が採用され、店頭で実現したときの面白さを感じるようになりました」と、行動していくうちに仕事への自信と手応えをつかんでいった様子だ。
「どうしても決めたい商談では、縦のストライプが入った白いブラウスを着ます。相手が首を縦に振りやすくなると心理学の教授が話していたのですが、これは有効です。逆に横ラインの黒い服はNG」と櫻井。前橋には、日産ADバンを運転してほぼ毎日通うこともある。本社には寄らず、両親と住む板橋区の自宅から、そのまま首都高や関越道を使うこともザラだ。都内から前橋まで片道2時間。関東を中心に車を使い、担当するベイシアや競合店の売り場を回ることも多い。営業とは、現場を巡る移動でもある。移動の効率が求められる。
谷口は「困るメーカー営業マンは、押し売りのように自社のことを優先する人。我々には、地域のお客様に、品揃えをして商品を提供する責務がある。お金ではなく、当社の来店客のためになる企画提案のできる営業マンを本当に求めているのです」と話す。
(文中敬称略)
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サッポロビール広域流通本部広域営業統括部第3営業部。首都大学東京の大学院理工学研究科で遺伝子学を学び、2011年入社。
谷口剛士
ベイシア食品事業部グロサリー部バイヤー。2005年入社。酒類をメーンに担当。写真はベイシアスーパーセンター前橋みなみモール店にて。
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(経済ジャーナリスト 永井 隆 永井 浩=撮影)
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