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アベノミクスのキーマン直撃 -ローソン代表取締役CEO 新浪剛史×田原総一朗【1】

プレジデントオンライン / 2013年8月14日 13時45分

新浪剛史 株式会社ローソン代表取締役CEO

安倍晋三首相が掲げる「アベノミクス」を成功に導くにはアベノミクスが掲げる「三本の矢」の1つである「成長戦略」が不可欠である。産業競争力会議の「論客」が、日本復活の“秘策”を語った。

【田原】ローソンのライバルであるイオンが全管理職の半分を女性にすると、最近の新聞に出ていました。ローソンは、いま女性に対して、どのような対応をしようとしているのですか。

【新浪】組織全体における人数を増やして女性の比率を高めないと、管理職になる人の数も増えないので、新しく入ってくる社員の5割以上を女性にしています。私は女性を“えこひいき”してもいいと思っているのです。ローソンのお客様といえばこれまでは男性が多数でしたが、女性のお客様をもっと増やしたい。そのためには男性だけでなく、女性の着眼点が必要になるので、社内の女性の人口密度を高めています。

【田原】日本の一部上場企業で、女性役員は1%以下です。欧米の十数%に比べて女性役員の数が少なすぎるといわれていますが、ローソンはどうですか。

【新浪】私たちは取締役が7人で、その中で社内の取締役が3人、社外の取締役が4人います。社外の取締役4人のうち2人が女性です。取締役7人中2人が女性というのは、日本の中では比率として高いでしょう。女性の役員は非常にいいです。男性はいつも聞く側になってしまうほどパワーがあります。

【田原】アベノミクスで、安倍晋三首相が、女性の育児休暇を3年にすると言っています。ローソンはどうですか。

【新浪】3年間の育児休暇は、もう1992年から導入しています。育児休暇3年に対する問題点もすでに浮き彫りになっていて、解決に向けた新制度もつくりました。

【田原】早い時期から導入しているのですね。どういう問題が起きたのですか。

【新浪】育児休暇を取得した社員の多くが復帰に躊躇していたのです。ビジネスの現場から1度離れると、気持ちとしてなかなか帰ることができなくなっていました。そのため、育休中も会社から完全に離れてしまわないように、プロの主婦として、スーパーなどでの買い物レポートを出してもらう仕組みをつくりました。これで育休中も“凧の糸が切れずに”会社とつながりを持ってもらうのです。

【田原】レポートを書かせると、みなさん、戻ってきますか?

【新浪】ええ、いまは100%復帰しています。ただレポートだけではなく、ママさんたちが集まるセクションをつくったのです。復帰後、半年から1年間、そのセクションでは、プロの主婦である彼女たちを“よりプロ化”して、商品を見てもらいます。仕事に慣れてもらった後は、最前線のセクション、場合によっては、マーケティングや商品開発に行っていただく場合もあります。会社にいるとお客様視点から売り手の意識になってしまいがちなので、フレッシュな市場の感性を持つプロのお母さんは貴重なんです。

【田原】プロの売り手では、ダメですか。

【新浪】ものをつくったら、どうしても「これを売らなければ」という発想になりがちです。育児休暇は、売る側から買う側に意識を変えられる、いいタイミングです。もちろん3年待たずに働きたい人は働いてもらえばいいし、それはそれぞれでいいと思います。

■「攻めの農業にするべきだ」

【田原】民間議員として参加する産業競争力会議についてお聞かせください。新浪さんが農業分野の提言をまとめましたが、農地の自由化は先送りされそうという報道もあります。本当ですか。

【新浪】この問題は、少し誤解があります。私たちが農地所有の自由化を主張しているかのように報道されましたが、1度も主張していません。ただ「自分の土地を売りたい農家が増えているのは事実で、その対処は必要だ」とはいいましたが、むしろ、私たちが提案したのは、「農地の集約化」です。

農業の発展には企業が入ることが重要ですが、必ずしも農地を自由化して企業が農地を持てるようにする必要はない。農地を「リース」できれば十分です。集約後は、都道府県が仲介役となって、貸出先を決めてはどうかと提案しました。今は、地元の有力農家などで構成される農業委員会が、貸出先を決めています。今後は、農協や農業委員会が、より農業法人や農業生産法人に貸し出すように機能を変えていくべきだと思います。

【田原】農地を借りるときに、バラバラではなく集約されていたほうがいいという話ですね。ただ、リースにしても、緩和が先延ばしされる懸念があります。

【新浪】農業は2つに分けて考える必要があります。1つは、お米を中心とした、「集約していかなければいけない農業」。もう1つは、フルーツや野菜などの園芸農業です。前者は、参入しようとする企業がほとんどない状況でしょう。一方、後者は企業におけるマーケティングの技術を経営にもっと導入することで付加価値の高いものをつくっていくことができる。だから、参入したい企業も多い。この議論は、選挙(※7月の参議院選挙)が終わった後になるでしょう。

【田原】なぜ、先延ばしにするのですか。

【新浪】関係する各部門との調整やコンセンサスを形成するのに、時間が必要なのだと思います。ただ、選挙後とはいえ、「とにかく企業を入れろ」というやり方はよくない。どういう仕組みで農家と企業が信頼関係を構築して手を結んでいくか、が大切です。他の先進国では、農業に企業が入り込み、非常に産業化されていますからね。

【田原】そこです。農協や農水省は、農業の産業化を拒否している感じがする。

【新浪】いままで農家は被害者で、食料自給率が低いから守らなければいけないという“ネガティブトーン”が強かった。だから守りの意識が強いのです。

【田原】食料自給率なんてインチキでしょう。カロリーベースで自給率39%というけど、自給率をカロリーベースで計算するのは、世界でも日本だけだ。

【新浪】今回の産業競争力会議でも、私は「カロリーベースなんて意味がないからやめるべき」といっています。農水省はいまだにカロリーベースですが、せめて生産額ベースとの2本立てにしましょうと。生産額ベースだと、日本の食料自給率は66%。危機感を煽って補助金を引き出す農業政策はもういい。将来の絵を描いて、「攻めの農業にするべきだ」と強調しました。今回はその方向に動き出せると思います。

【田原】農協や農水省は、TPPにも反対していますね。

【新浪】TPPと農業は切り離して考えるべきですね。TPPがなくても、農業改革は実行しなければいけない。いま農家の平均年齢は66歳で、米作に限ると70歳前後です。10年先を考えると若い人たちに農業の担い手になってもらう必要がありますが、補助金目当ての守りの農業に、若い人たちが誇りを持って入ってくれるでしょうか。それよりも、輸出が可能で産業として将来性があるなど、若い人が可能性を感じる農業に変えることが大事です。

■「ジャパンブランド」を確立できるか

アベノミクスで「農業改革」を打ち出すことができるか(AFLO=写真)

【田原】日本はTPP交渉への参加を表明しました。ただ、TPP参加が日本経済の活性化にどうつながるのか、いまいち見えづらい。どう思いますか。

【新浪】TPPに入ることで、日本はこれから付加価値の高いものやサービス分野で勝負して、世界で圧倒的ナンバーワンになるというビジョンを明確にしたのだと思います。

【田原】ソニーやパナソニック、シャープが負けたのは値段で他社と勝負をしたからだという話があります。そうではなく、これからは値段ではなく、付加価値で勝負するということですか。

【新浪】そうです。日本のように労賃の高い国が、TPP参加国の中で低賃金の国々と値段で勝負を挑んでも無理です。グローバルにおいては、圧倒的に付加価値の高いものを生み出す機能を日本に集めて、ほかは安いところから買ってくるしかありません。重要なのは、国際分業が進む中でどのポジショニングを取るのかということ。付加価値の高いものを生み出して、世界中の中間所得層以上の人たちが憧れるような「ジャパンブランド」を確立できるかどうか。これがこれからの勝負です。

【田原】でも、アベノミクスでそこのところは見えてないですよね。

【新浪】今後、イノベーションを起こして、事業を起こしていくロードマップが明らかになるでしょう。むしろ、これからより議論をしていくべきなのは、中小企業の分野です。「グローバル・ニッチトップ」(GNT)といって、グローバルで戦えるニッチ(隙間)分野でトップを狙える中小企業を育成していかなければいけません。

【田原】日本の全企業の中で、中小企業の占める割合は99%以上です。僕が地方に行くと、「産業競争力会議では中小企業が話題にされていない」という声が多いのですが、いかがですか。

【新浪】企業の“新陳代謝”を促すために、どのような構造をつくろうかという議論は行っています。

【田原】新陳代謝、できるかなあ。いままで政府は中小企業を守るために、彼らにお金を貸せと金融機関にいってきたし、借入金の返済を猶予してもらえる「中小企業金融円滑化法」(モラトリアム法)も実質的に延長した。行っていることは延命措置ばかりでしょう。

【新浪】モラトリアム法の実質的な延長は、たしかに甘すぎますね。潰れざるをえない企業をゾンビのように生き永らえさせるのではなく、速やかに市場から退出していただく。その一方で新しい会社がどんどん出てくるのが重要ですね。それが新陳代謝です。

【田原】潰れる企業と、そうでない企業は、どうやって見極めるのですか。

【新浪】それは、銀行さんにお任せするべきです。いまは町工場のおじさんに「もうやめましょうよ」という機能が、公的サポートが存在するために使えない。本当は銀行さんが貸し出し要件を判断して、企業を育てる、もしくは退出させる機能を担わないといけないのではないでしょうか。銀行の機能を前向きにもう1度見直すべきです。

【田原】経済学者のシュンペーターは、「資本主義社会では不況がときどき起こり、時代に合わなくなった企業は倒産していく、だから社会は健全になる」といっていますね。ところが日本は、倒産させない。どうしたらいいですか。

【新浪】倒産した会社で働いていた方々の雇用を吸収できるような、新しい産業をどう育てていくのかいう視点が必要でしょう。新陳代謝は、新しいものをつくり、古いものをなくすという“合わせ技”です。まず市場に新しい産業が生まれないと、市場から退出していただくことも難しい。そこをいま、産業競争力会議で議論しているのです。

【田原】アベノミクスでは、新しい産業が出てきそうですか。まだ具体的なものが見えてこないのですが。

■医療にも“競争原理”を持ち込む

【新浪】今回の成長戦略では、安倍首相は「スピーディに実行する」といって、自ら陣頭指揮を執っています。実行力を伴うのが、以前と大きく違います。エネルギー、農業、そしてヘルスケアの3つをずっと言い続けておられます。それに少子化対策で産業が生まれてくる。これは福祉にもいえますね。

【田原】ヘルスケアでいえばいまは混合診療もできない。たとえばがん治療のために、保険適用さい新しい治療法を行うと、本がきくはずの検査まで保険適用外となり、全額が自由診療として自費扱いです。そうではなく、保険適用部分は保険を使わせてあげるというのが混合診療です。医師会はこれに反対していますね。

【新浪】混合診療という名前ではないのですが、じつは一部の自由診療に限って保険適用部分の保険適用が認められています。認められる自由診療は、“保険外併用療養費”として、少しずつ増えてはいますが、いまはこのスピードが遅い。もっとこのスピードを上げるためにどうすればいいのかという議論をしています。

【田原】医師会は保守的で、とにかく何でも反対です。いい方法はありますか。

【新浪】医療にも“競争原理”を持ち込んで発展していってほしい。私は、お医者さんたちは“昔ながらの蕎麦屋”ではなく“ラーメン屋”になるべきだと思います。最近は変わりつつあるものの、多くの蕎麦屋さんは伝統を守って、11時ぐらいから始めて8時ぐらいに終わりますよね。でも、新規参入が多いラーメン屋さんには熾烈な競争があって、イノベーションが次々と起きている。医療も24時間でかかりつけに対応できるようなイノベーティブなサービスを提供すればいいのです。

【田原】なるほど。でも、いま日本は産婦人科や小児科は医者が減っています。これらの科は24時間対応の必要があるから、みんな敬遠する。みんなラーメン屋は、つらいから嫌なんですよ。

【新浪】私の息子と娘は、たまたまアメリカで生まれたのですが、発熱したときなどは電話をしたら医者がすぐに来てくれました。私はそこで医者が特別なチャージを取ってもいいと考えています。そうやって優遇しないと、医者のなり手が不足するからです。そのかわり、特別なチャージが払えない場合、子育ての分野に関しては、国も含めた全体で支援していく。そうしたバランスが大事だと思います。

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新浪剛史 株式会社ローソン代表取締役CEO
1959年、神奈川県生まれ。県立横浜翠嵐高校卒。81年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。2002年3月ローソン顧問就任。02年5月同社社長執行役員。05年社長兼CEO。13年5月から現職。

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(サントリーホールディングス 代表取締役社長 新浪 剛史、ジャーナリスト 田原 総一朗 村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影 AFLO=写真)

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