「体の中と外を同時に冷やしてね」-鈴木雅夫
プレジデントオンライン / 2013年8月23日 11時15分
鈴木雅夫(すずき・まさお)1959年、横浜市生まれ。身長160センチメートル。横浜立野高校でラグビーを始める。1982年、専修大学卒(父も専修大学ラグビー部OB)。横濱市消防局勤務。NPO法人横濱ラグビーアカデミー理事。
■鈴木雅夫(横濱ラグビーアカデミー理事)
夏も忙しい。「タグラグビーのおじさん」こと鈴木雅夫は仕事が休みの日、小学校の校庭でタグラグビーを指導する。真っ黒に日焼けした顔を崩し、子どもたちに話しかける。
「熱中症はコワいからね。熱中症になりたくなかったら、体の中と外を同時に冷やしてね。そうじゃないと、思い切り走れないよ」
8月某日の炎天下。横浜市の小学校の放課後教室「はまっ子」のひとコマである。校庭の隅の木陰には、おじさんが自費で購入した大きなビニールプールがある。砕けた氷塊が水に浮いている。約50人の小学生たちが「ワァー」と歓声をあげながら、噴霧器で冷たい水を体にかけ合うのである。
自分で持ってきた飲料水をがぶがぶ飲んで、さあ練習が始まる。タグラグビーとはコンタクト(接触プレー)とタックルがないラグビー。ざっと4時間。こんなに走って大丈夫? と心配するほど、子どもたちは元気に走り回る。おじさんが説明する。
「水をこまめに飲むのは当然として、体を冷やしてあげることも大事です。子どもって体温の調節が下手なんです。初めに水を体にじゃぶじゃぶかけて、冷やしておくのです。そうすれば、まず熱中症にかからないし、判断力、集中力も鈍りません」
おじさんは実は横浜市消防局の南消防署六ツ川出張所の救急隊員だから、熱中症対策に詳しいのだった。非番の日は年中、小学校の「出前授業」や「はまっ子」でタグラグビーを教えている。もちろん報酬なしのボランティア。
「カネは出ていくけれど、返ってくるものが大きいじゃないですか。子どもたちの成長が僕の喜びですよ。ラグビーを続けていって、また周りにラグビーの楽しさを伝えていってくれる。これってサイコーです」
そうやってタグラグビーの裾野を広げるため、せっせと「タネ」を撒く。ざっと10数年。出前授業は200校を数え、延べ約12万人にタグを教えた。横濱ラグビーアカデミーでもタグを教え、汐入タグクラブ(横浜の小学生たちの名門チーム)では4度も子どもたちを全国優勝に導いている。
ついでに言えば、現在のラグビーの7人制日本代表女子の鈴木彩香や鈴木陽子、山口真理恵、鈴木実沙紀の4人は教え子である。
横浜市出身の54歳。専修大学時代はラグビー部に所属し、ポジションがフランカーだった。指導者に転じ、「けがをさせない」ことを何より大事にする。「強くなるよりうまくなれ」が口癖。下手なくせに強くなろう、勝とうとするとどうしてもけがをする、と言う。
大縄跳びのロープの下をパスしながら走らせるなど、練習には工夫を凝らす。プレッシャーを受けながらの判断力、スキルアップを促す。「絶対、試合でやらない練習をやっちゃダメだよ」とも声をかける。
「校庭には金の卵がごろごろ落ちている。それを大人が踏みつぶしているんじゃないの。ラグビーに興味を持ってもらって、ちゃんと教えれば……」。おじさんの夢は、東京が招致を目指している2020年五輪の7人制ラグビーで教え子が活躍することである。
(ノンフィクションライター 松瀬 学 小倉和徳=写真)
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