稲盛和夫が直言「伸びる人、立派になる人、いらない人」【1】
プレジデントオンライン / 2013年11月25日 15時45分
課題発見力、判断力、説得力――大復活のJAL社員は、何を学んだか。
■リーダーの資質をいかに身につけるか
「一国は一人を以て栄え、一人を以て滅ぶ」と言います。つまり、リーダーによって組織は発展したり衰退したりするのです。いい組織には必ず素晴らしいリーダーがいます。立派なリーダーは、自分たちの組織の目的を明確にし、さらにその目的に向かうための価値観を部下と共有し集団を引っ張っていきます。
では、どうすれば素晴らしいリーダーになれるのでしょうか。
1番大事なことは「己を虚(むな)しゅうする」、つまり自分を捨てることです。リーダーが利己的な考え方を少しでも持つと組織は正しく機能しません。ですから、リーダーはフェアで公明正大な心を持ち、全身全霊で組織に命を吹き込まなければなりません。あらゆる集団のリーダーが、強い使命感を持ち自分たちのビジョンに向かって、純粋な心で打ち込めば、企業経営はもちろん、政治にしろ行政にしろ、どんな組織でもうまくいくのではないでしょうか。
2010年2月、私は日本航空(JAL)の会長に就任しましたが、当時のJALには真のリーダーがいませんでした。明確なビジョンを持たない人が、狭い仲間内の人間関係だけでリーダーに選ばれていました。会社を倒産させてしまったにもかかわらず、そのような自覚が全く感じられませんでした。
「航空会社は公共交通機関であり、赤字路線でも飛ばさなければなりません。また景気変動の波を受けやすく、世界中の航空会社の経営がなかなかうまくいかないんです」
と、他人事のように話すのです。こういう人たちに率いられる集団は本当に不幸なことだと思い、そういうビジョンを持たない幹部たちの意識を徹底的に変えなければならないと思いました。
そこで私は「JALは倒産したんですよ」と繰り返し説き、「これまでのやり方は間違っていたんだ」という自覚を幹部に徹底させることから、意識改革を始めました。
実はJAL破綻の前に私は何度も会長の就任要請を受けていたのですが、お断りしていました。年も年だし、航空業界は全く未知の世界なので、私の任ではないだろうと考えたのです。私の家族も友人も皆反対でした。
ただ、JALを再生させることは、3つの大義があると考えました。
まず、日本経済のためです。JALがこのまま倒産すれば日本経済に非常に大きなダメージを与えます。日本を象徴する企業で、売上高も2兆円ほどあり、従業員も5万人近くいたわけです。その会社が2次破綻してしまうことは、低迷している日本経済をさらに悪くしてしまうのではないかと考えました。
次は、残った社員のためです。更生計画が策定され従業員約1万6000人が削減されることになりましたが、それでも3万数千人の社員が残るわけですから、その雇用を守ることは、社会的な意義があるのではないかということです。
最後は、利用者のためです。日本にJALと全日本空輸(ANA)という2つの大きな航空会社が存在することで、健全な競争環境が生まれます。それが1社独占になると、運賃は高くなりサービスも低下してしまう。1社化によって生じる弊害を考え、JALを再生させなければならないと強く感じました。
この3つの大義に気持ちは突き動かされ、私はJAL会長を引き受けることにしました。ただし、毎日出勤できるわけでもないので無給を条件といたしました。就任直後は「JALは2次破綻するだろう」とか「稲盛は晩節を汚すことになる」など、さんざん言われましたが、JAL再建の失敗は、私が創業した京セラやKDDIで働く人の名誉にも関わってくる。
「京セラやKDDIはたまたま成功したかもしれないが、JALはあんなざまではないか」と言われたのでは、京セラ、そしてKDDIを一緒に築いてきた社員にも申し訳ないとの気持ちが強くありました。
■「アメーバ経営」とフィロソフィの力
最初から勝算があったわけではありません。しかし、引き受けたからには命をかけて再建を成功させなければならないとの覚悟ができました。
JAL再建に向けて妥協を許さない職務を遂行する日々が続き、仕事を終えるとコンビニでおにぎりを買ってホテルに帰り、寝る前にぱくつくという生活を送ることになりました。
私が京セラの同志2人とともにJALに持ってきたのは2つだけ。1つは「アメーバ経営」という会社の組織を10人前後で構成する小集団に分け、独立採算制を徹底させる「部門別採算制度」の仕組み。そして「フィロソフィ」。
フィロソフィとは、私の50年の経営者としての経験を基にした経営哲学で、経営者を含め全社員が同じ価値観を共有し行動するための指針です。その基本は「人間として正しいことをする」という、とてもプリミティブ(原則的)な考え方です。これをJALの幹部に繰り返し教育し理解してもらうことで、意識改革を図っていった。やがてJALの幹部たちの意識も変わり「JALフィロソフィをつくりたい」と言いだしたので、京セラの経営哲学である「京セラフィロソフィ」をベースに議論を重ね、「JALフィロソフィ」をつくったのです。
京セラやKDDIでは、フィロソフィが本当に浸透するまでに時間がかかりましたが、JALでは短期間で受け入れられました。破綻により自信を失っていた社員が素直な気持ちで学んでくれたからです。
フィロソフィの次に、企業の目的を示すため「企業理念」をつくりました。私は、京セラを創業したときから、会社は社員の物心両面の幸せを追求することが目的だと思ってきました。それは京セラの企業理念の冒頭にも掲げています。
そしてJALの企業理念を、京セラと同様に「全社員の物心両面の幸福を追求する」としました。それを見ておられた支援機構の弁護士などから「JALの企業理念は、社員の物心両面の幸せを追求するだけというのはおかしいのではないでしょうか。社員だけが幸せになるという理念は、会社のエゴそのものではありませんか」との指摘を受けました。
そこで私は「社員を幸せにしようという会社であれば、社員はみな自分の会社だと思って一生懸命努力をする。資本主義社会では株主価値を最大にすることが企業の目的だといわれるが、社員が喜んで仕事をし立派な業績を挙げれば、株主価値は上がる。社員すら幸せにできないで、会社がうまく運営できるわけがない」と説きました。
京セラは、私が創業して以来53年間ただの1度も赤字を出していません。さらに、アメリカで上場した際にIRのため、京セラの幹部が金融市場の本場ニューヨークへ行き「わが社の企業理念は全従業員を幸せにすることだ」と説明していますが、誰ひとり文句を言う人はいませんでした。
従業員を大切にし、世のため人のために尽くすことが経営者として大事なことだと、アメリカの金融関係者も理解しているのです。
(京セラ名誉会長 稲盛 和夫 吉田茂人=構成 小倉和徳=撮影)
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