稲盛和夫が直言「伸びる人、立派になる人、いらない人」【2】
プレジデントオンライン / 2013年11月25日 16時15分
課題発見力、判断力、説得力――大復活のJAL社員は、何を学んだか。
■まずは人間としていかにあるべきか
私は、経営者という者は企業のリーダーとして「人間としてまず何が正しいのか」ということを判断基準にしなければならないと考えています。経営判断をする場合、一般的な考え方としては「損得」という利害得失で考えがちですが、真の経営者は「善悪」という基準で判断すべきなのです。しかし、善か悪かを判断するにはまず立派な人間性を持っていなければなりません。
そこで「人間としていかにあるべきか」というところまで遡(さかのぼ)って考える必要がでてきます。こうすれば、うちの会社にとってのみ都合がよく、儲かるというようなことがあったとしても、人としていかがなものかと思ったときには、それは決して選ばない。そのくらいの勇気が真の経営者には必要になるのです。
言い換えれば、目先の利益ではなく、「利他の心を判断基準にする」ということです。私たちの心にはもともと「自分だけがよければいい」と考える利己の心と、「他によかれかし」と考える利他の心があります。利己の心で判断すると、自分のことしか考えていないので、誰の協力も得られません。
自分中心ですから視野も狭くなり、間違った判断をしてしまいます。一方、利他の心で判断すると「人によかれ」という心ですから、周りの人みんなが協力してくれます。また、視野も広くなるので、正しい判断ができるのです。ですからよりよい仕事をしていくためには、自分だけのことを考えて判断するのではなく、周りの人のことを考え、思いやりに満ちた「利他の心」に立って判断すべきなのです。
しかし、多くの経営者は、どうしても自分の都合のいいように判断をしてしまいがちです。利害関係のないときには正論を吐き、立派なことを言っている人が、いざ自分の損得が絡むと態度が一変してしまう。そんな人はリーダーとしての資質を欠いています。一見自分に不利と思えるような状況にあっても「利他の心」を持って正しい判断ができることが本物のリーダーの条件です。
JALの再建にあたってこんなことがありました。JALはアメリカン航空が中心のワンワールドというアライアンス(航空連合)に加盟しているのですが、ライバルのデルタ航空を中心としたスカイチームが「うちに鞍替えしないか、それにかかる費用も負担する」と言ってきました。私は就任したばかりで、両社がどういう考え方を持っているのか、経営者がどういう人柄なのか全くわからなかったので、それぞれの経営者にお会いすることにしました。
アメリカン航空の経営者はとても温厚で真っ直ぐな心を持った方でした。対するデルタ航空の経営者はヤリ手のビジネスマンタイプで、鞍替えのメリットがいかに大きいかを一生懸命説明されました。
JALの多くの幹部もデルタ航空の申し出に賛同していました。しかし私は「今まで一緒にやってきたアメリカンを袖にして、ライバルに鞍替えするのは、人の道としていかがなものか」と言いました。
「スカイチームは強い太平洋航路を持っているだけに、JALのメリットも大きいだろう。けれども、アメリカンは一気に劣勢に追い込まれてしまう。それで人間として本当にいいのか。もういっぺんみんな考えてほしい」とお願いしました。すると10日ほど考えてもらった結果、みんなガラッと変わって、ここはやはり善悪で判断しようということになった。つまりワンワールドのままでいくと決めたのです。この決定には、アメリカン航空の人たちがとても感激してくれました。しばらくしてこの判断がJALにとっても正しかったことが皆実感としてわかってくれたようですが、その判断の要は目先の損得ではなかったのです。
では、常に正しい判断をするために必要な人間性はどう磨けばいいのでしょうか。それは、息つく暇もないぐらいに一生懸命、自分に与えられた仕事に打ち込むことです。これが1番の人間性の鍛錬だと私は考えています。
若かった頃の私は、従業員を路頭に迷わさないよう必死に仕事に打ち込んできました。ひたすら仕事をしながら、思い描いたあるべき会社の姿、人の正しい在り方などをノートの隅にちょっとずつ書き溜めていました。そのノートを読み返しながら日々反省を繰り返す中で、自分の人生や仕事に対する基本的な考え方を確立していったのです。ですから私自身、修行のための修行、勉強のための勉強をしたというわけではなく、むしろ全力で仕事に打ち込むことで自分の心を磨く機会を自然に得ることができたのだと思います。
■全力で仕事をし、課題を発見すること
自ら率先して仕事に打ち込めば、もっとうまくやる方法はないかと、創意工夫をするものです。一方、与えられたことや決められたことをただ漠然としているだけでは成長できるはずはありません。勉強も仕事も少しだけ努力して、何か壁にぶつかるとすぐにあきらめてしまう人がいますが、それでは何も得られません。必死の努力を続けること。見ている人が可哀そうだと思うほど努力を重ねること。その結果、初めて成功することができるのです。
仕事においては、上司が焚きつけても燃えない不燃性の人、焚きつけると燃える可燃性の人、そして誰から焚きつけられなくとも自ら燃える自燃性な人と、3つのタイプがあります。
火を近づけても、エネルギーを与えても燃えない者、つまり多少能力はあったとしても、ニヒルで感動することができない人は、ものごとを成し遂げられないのです。本来は自ら燃えてくれる「自燃性」の人が望ましいのですが、せめて燃えている者が周囲にいるときは、一緒に燃え上がってくれる「可燃性」の人であってほしいと思います。こうした「可燃性」の人が集まっていれば、上に立つ人間が、仕事の意義や目的、使命感といったものを諄々(じゅんじゅん)と説き「一緒に肩組んで、同じ道を歩もうではないか」と語ることで、「自分の思いを何も持たず、流れに任せて無気力に過ごすなんて人生を無駄にしてしまうだけだ。僕たちも頑張ろう」という意欲が湧いてくるはずです。
私は仕事というものは、どんなものでも自分自身の心を立派にしていくためのものだと考えています。だからこそリーダーは部下が仕事に対する誇り、働きがい、生きがいといったものを持てるようにしてほしいと思うのです。
時代を動かすのも、経済を動かしていくのも、その原動力は人間の心です。「何とかしなければならない」という強い意志を持って、何事をも恐れず必死に努力を続ける。そうすれば、自分の足りないところが自ずと見つかるはずです。
それを懸命に学んで身につけ、また新たな目標に向かって努力をする。その繰り返しが必ず人間を大きく成長させるのです。
(京セラ名誉会長 稲盛 和夫 吉田茂人=構成 小倉和徳=撮影)
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