歴史が証明!アベノミクスへ「ジム・ロジャーズの教え」
プレジデントオンライン / 2013年12月16日 8時45分
■なぜ通貨安競争は悲劇を生むのか
震災後に日本株を買っていましたが、2012年11月に安倍現首相が無制限に金融緩和を打ち出してから、さらに買い増しました。そして今年5月前半にその多くを売りました。その後、日経平均は5月23日、00年のITバブル崩壊時以来の下落率を記録。今回はバブルというほどではなく、金融緩和で市場にあふれたお金に投資家が食いつき、株価が急激に上がっただけなのです。そもそも長く続かないと見越して短期で売った。6月に入り、株価も為替も乱高下しています。農業関連株などは残していますが、大きく下がったら多少買い戻しも考えます。
日本ではいわゆるアベノミクスにより急激な円安・株高が続いていました。多くの人がこの政策をもてはやしていますが、はっきりいって災厄以外の何ものでもありません。傍目にはとても感じがよさそうに見えるこの政策によって、安倍首相率いる自民党のお仲間とごく一部の人々、たとえばトヨタ自動車などに関わる日本人の懐だけは一時的に潤うでしょう。名古屋の人にとってはいいかもしれません。でも1億2000万もいる日本人の多くの生活水準は下がっていく。何兆円ものお金を人工的に市場に送り込めば、人々は一時的に心地よく感じるものです。しかし最後には必ず苦しくなっていく。
日本は資源から食品まで、多くのものを輸入に頼っています。円が安くなれば生活必需品の値段が上がる。なぜ2%のインフレを目指すのですか?
ただし、別にデフレがいいわけではありません。インフレでもデフレでもなく、自国通貨を安定させ、健全な状態で現実的な成長を目指すべきなのです。
今、日本が抱える急激な少子化や巨額の債務、移民の拒否など根本的な問題は何1つ解決していません。もし私が日本の首相であれば、お金を刷るのをやめて債務を減らす努力をし、人口減を解決すべく、移民を増やすなどの政策をとる。日本人は外国人が好きではないことは知っていますが、それでも最大限努力をするでしょう。TPP(環太平洋経済連携協定)は実行しますよ。TPPは現在の日本政府の政策の中で私が唯一、支持できるものです。これはインフレ抑制にも役立ちます。
私は常に、投資で成功したければ哲学や歴史を学ぶべきだといってきました。いつの時代も根本的な部分で世界には何も新しいことなど起こっていません。過去に成功しえなかった政策というものは、時をおいてもうまくいった試しがないのです。大昔から、経済的に行き詰まると政治家たちはお金を刷るという手段に走ってきました。けれど歴史を紐解くと、この手の政策が長期的に、いや中期的にさえよい結果をもたらしたことはありません。自国通貨の価値を下げるということは、結局、不健全なインフレを引き起こし、自国民を苦しめることになるのです。
今、日本だけでなく、米国や欧州など世界の中央銀行が財政出動でお金を刷り続けて市場にばらまき、自国通貨を安くする競争に入っています。複数の国が同時にこういった政策をとることは歴史上初めてのことだと思いますが、ここで予想される未来は、過去よりさらに深刻です。一国で問題が起きると全世界に飛び火し、一気にどうにもならない事態に陥る可能性がある。複数の国で債務が膨らみインフレが起こり、人々は紙幣なんてもういらないというかもしれません。そうなれば世界は大混乱に陥るでしょう。
私はリーマンショック後、プレジデント誌において遠からず世界で通貨危機が起こると予言しました(「すべては、欧米からアジアへ動く」(http://president.jp/articles/-/3240))。実際、中東ではすでに起こっています。彼の地で次々に「アラブの春」と呼ばれる革命が起こった真の理由は、人々が政府の思想に反対したからではなく、自国通貨が弱くなってインフレが起こり、日用品が高騰して生活が苦しくなったからなのです。こういった混乱は通貨安競争に走る先進国でもいずれ起こる可能性があります。いや、日本ではすでに起こっているといえる。円は実際、半年で3割ほども下落しています。世界で2番目か3番目に重要なこの通貨が、ですよ。これほどまでに急激な円安はドイツや韓国など諸外国の輸出業にも影響を与え、どの国にとってもいいことはない。
日本企業も原材料の多くを海外から輸入しているのですから、ビジネスのコストもはね上がります。10年後、15年後、アベノミクスが続いたら、もっとひどい状態が予想される。
■日本人が生き残るために必要な商品
今の日本のティーンエージャーの多くは公務員になるのが夢だそうですね。でも普通、この年代の子供は、フットボール選手や俳優になりたいなどというのではないですか?
お金持ちになりたいとか成功したいという野心もなく、17歳やそこらの若者が政府で働きたいとは一体どういうことでしょうか。かつて日本はソニーやトヨタ、パナソニックなど素晴らしい企業を生み、イノベーションを起こしました。起業家は憧れの的で、若い人もそんな企業で働きたがった。でも今の若者はみな政府で働きたいという。そんな国に明るい未来はないでしょう。だって当の政府は日本を救おうとはせず、債務を膨らませているだけなのですから。
おそらく近い将来、日本は大変なことになるでしょう。子供はいない、労働力もない、債務はどんどん膨らむ、そして通貨の価値が下がり国力は落ちる。私の大好きな美しい日本の女性たちだってみな年を取ってしまうんです。
そんな中で日本人が生き残るには、やはり通貨にかわる実物資産を買っておくのがいいと思います。私は、米、砂糖などの農産物、そして銀やニッケルなどの金属に注目しています。下落基調の金についてももう少し下がったら買い増すことを考えています。
アメリカの経済についても、日本と同じく中央銀行がお金を刷ることで回復したように見せかけているだけですから一時的なものでしょう。人工的にマネーを市場にあふれさせたために米国株も上がったのです。私はアメリカの将来についてはおおむね悲観的ですが、この国が消滅するといっているのではない。経済規模は今より小さくなるかもしれませんが、日本と同じく農業といった特定の分野についてはまだポテンシャルがあると考えています。
北米に投資したいなら、私はアメリカよりカナダを勧めます。米国のような巨額の債務を抱えておらず、資源も豊富な国です。たくさんのアジア人が移民しているバンクーバーは将来的に現在のニューヨークのような場所になるのではと想像できます。私たちも移住を考えたことがあるんですよ。
一方、中国は大気汚染や伝染病の流行など非常に深刻な環境問題を抱えていますが、彼らは正しい方向を知っています。きっと環境浄化のために設備投資をするなどして解決に向かうはず。日本の技術をうまく輸出すれば大きなビジネスになりますよ。今後、中国経済が行き詰まることは何度もあるでしょうが、それは成長する際にどの国も経験すること。やはり米国に代わる21世紀の超大国は中国なのです。
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1942年、米国アラバマ州生まれ。イェール大学卒、英国オックスフォード大学ベリオールカレッジ修了。ジョージ・ソロスとともにクォンタム・ファンドを設立、10年間で4200%というリターンを実現。その後、バイクと車で2度の世界一周を果たす。2007年、米国からシンガポールに移住。著書も多数あり、最新刊は『ストリート・スマート』。
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(投資家 ジム・ロジャーズ プレジデント編集部 木下明子=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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