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成長しない限り存在意義はない -ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正氏

プレジデントオンライン / 2014年1月9日 14時15分

柳井正●1949年、山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。84年、実家の小郡商事社長に就任。91年、ファーストリテイリングに社名変更。2002年から会長兼社長。

 ビジネスがグローバル化し、商品がコモディティ化する時代にあって、多くの経営者から「生き残るために」とか「ざるをえない」という言葉が聞こえてくる。曰く、「生き残るために中国に進出する」「社内の英語スキルを高めざるをえない」と。かつてトランジスタラジオを開発した井深大と盛田昭夫は「ソニーが生き残るためにはアメリカで売らざるをえない」などと考えていただろうか。むしろ「こんないいもの、アメリカ人にも使わせてやろう」ぐらいの勢いで海を渡ったのだろうと思う。本田宗一郎も然り。ソニーやホンダが世界企業になりえたのは、自ら世界を志向し続けたからである。
 自分で決めたことを守り通して、物事を成し遂げる。マーケットプル(消費者の潜在的ニーズを具現化)かプロダクトアウト(消費者のニーズより生産者側の都合を優先)かという観点でいえば、「やり抜く力」とはプロダクトアウトに宿るものだ。もっとわかりやすく言えば「自分アウト」である。他者との相対的な関係性で動く「他人イン」ではなく、自分の内側から湧き出てくる絶対的な信念、あるいは大志や夢、つまり「自分アウト」が「やり抜く力」の源泉になる。

■成長しない限り存在意義はない -柳井 正

ユニクロは2010年に売り上げを1兆円にすると言いました。そう言った以上は達成しなくてはならない。ですが、1兆円は終着点ではありません。あくまで過程です。1兆円を超えても成長し続ける会社にすることが目的で、1兆円を達成したら、そこで終わりという意味ではない。会社は無限の成長をしない限り存在意義はない。私はそう考えています。そうでないといつのまにか組織が老化し、腐敗してしまう。

ヒットする商品をどう作るかに関していえば、ユニクロでは日々、開発しています。開発部隊がいますし、むろん僕や社員も考えている。なかなか難しいことですが……。世の中には商品が溢れ返っています。ほとんどの商品は売れないと思ったほうがいい(笑)。

では、どんなものが売れているかといえば、売る側が信じて売っているものです。「これ買ってください。これは絶対いいものです」。そう断言できる商品は売れます。反対に「これ、ちょっとまずいな」と感じた商品は売れません。

(2007年2月12日号 当時・会長兼社長 構成=野地秩嘉)

僕は常日頃から、「全員経営」ということを言っています。もともとは松下幸之助さんの言葉ですが、「全員が経営者マインドを持つ」という意味で僕は使っています。今の時代、あらゆる階層の人にとってリーダーシップがなければ仕事はできません。

不幸なことに、これまでの会社は軍隊や官僚の組織を見本にしてきたところがあります。そういう組織では、上の人が言ったことを下の人が実行する、といったかたちで、意思も責任も分断されていた。そういう時代はもう終わったのです。

今のような「平時が危機」の時代では、最新の情報を持っている現場の人間が、その都度関係者と協議しながら、その場で判断していかないと物事が進みません。また、現場の人が自律的に判断していこうと思ったら、まず自分はこういうふうにやりたい、やるのだという意思を持たなくてはなりません。組織を構成する1人ひとりにリーダーシップがなければ、会社はまわっていかないのです。

(09年9月14日号 当時・会長兼社長 構成=野崎稚恵)

■楠木 建教授が分析・解説

私自身、個人的なお付き合いのある柳井氏について、2つの記事をもとに解説しよう。

まず最初の記事。普通、人がなぜやり抜けるかといえば終わりが見えるからである。マラソンも「あと2キロでゴール」と思うから最後の力を振り絞れる。しかし柳井氏に言わせれば、ゴールに寄りかかるのは本物ではない。「いつまでにいくらの売り上げを達成しよう」と日付や数字などの具体的な目標に寄りかかると、それが不可能だとわかった(思い込んだ)時点でやり抜けなくなってしまうからだ。

本当にやり抜くためにはもっと抽象的な理念やコンセプトを設定する必要がある。ユニクロの場合であれば、「服を変え、常識を変え、世界を変える」というコンセプトに向かってやり抜く。それが結果的に「無限の成長」につながっていくのだろう。

たとえばヒートテックという商品は単なるヒット商品を超えて、ファッションや人々の生活スタイルを確実に変え、世の中を変えた。これを「ヒートテックを何万点売ろう」という数字的な目標だけで動いたら、ここまでの大ヒットにつながったかどうかわからない。

柳井氏は「ほとんどの商品は売れないと思ったほうがいい」と言う。なぜ売れないかといえば、客のニーズを当てにいくからである。客のニーズは会社の外にあるから、誰でもアクセス可能。皆がマーケットインで開発するからどこも同じような商品になる。だから売れない。

柳井氏の考え方というのは究極のプロダクトアウトであり、自分アウトだ。

「これはお客さんにとって絶対に価値がある」と自分が信じた商品だけを売る。売れないとしたら、自分で本当にいいと思っていないから。ユニクロという会社に私がやり抜く強さを感じるのは、そうした信念を組織で共有しているからだ。

次に2つ目の記事について。「全員経営」に続くフレーズで「1人ひとりが独立自尊の商売人でなければならない」と柳井氏はよく言う。

1人で仕事はできないから結果的に分業するにしても、自分の仕事だけではなく、常に経営全体に関心が向いていなければならない。

1人ひとりが独立自尊の商売人として、「店舗をどうやって運営していくのか」という小さなレベルから「グローバルなユニクロとはいかにあるべきか」という大きなレベルまで、それぞれ全体に関心を持つ。

組織には経理、営業、企画といったセクションごとの水平的な分業と、役職ごとの垂直的な分業が存在する。しかし分業は結果的に生じるものであって、事前にジグソーパズルの1ピースのように定義された「担当者の仕事」はないというのが柳井氏の哲学なのだと思う。つまりそれが全員経営である。

これは「やり抜く力」に大いに関係してくる。マルクスは分業の効率を説いたアダム・スミスに対して「『あなたはこれだけやって』と言われて面白いか?」と批判した。有名な疎外論である。機械的な分業でも経済的なインセンティブがあれば頑張るかもしれないが、それは本当のやり抜く力ではない。スペイン・サグラダファミリアの石工は、ガウディが何百年かけた構想に自分が関与しているという誇りがあるから、目の前の石を削るのに寸分の妥協も許さないのではないだろうか。

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一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授 楠木 建
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。

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(一橋ビジネススクール 教授 楠木 建 総括、分析・解説=楠木 建 構成=小川 剛)

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