脳科学が迫る「稼ぎ続けるエリートの思考習慣」【2】
プレジデントオンライン / 2014年2月25日 12時15分
脳がいちばん喜ぶのは「変化」だ。だから、あらゆることが生々流転する現代社会は、脳にとって最高に楽しい状況だといえる。言い換えれば「変化を楽しめない人」は生き残れない──。
※第1回はこちら(http://president.jp/articles/-/11968)
■中国・インドの人材をサムスンが集める理由
【TPGキャピタル代表・津坂 純】私は大学卒業以来、約18年を米国で過ごしました。金融や投資の世界でキャリアを積み、6年前、日本に戻ってきました。帰国について、「なぜ日本なんかに戻るのか」と心配する友人が大勢いました。経済はよくないし、政治は滅茶苦茶。米国にいるほうがいいだろうというんです。いろいろな理由がありましたが、ひとつには日本人として、日本に貢献したいという気持ちがありました。
一時帰国して、いろいろなところを歩いてみると、若者の目が輝いているのに気づきました。残念ながら社会人は違った。でも若者は生き生きとしていると感じたんです。私個人としてはまだ日本では大きな仕事をなしえていません。やはり、あっと驚くようなことをしないと、影響力はないというのが日本ですから。また一方で、そういうことをすれば叩かれます。でも私はそれを恐れていないんですね。いいチャンスでは動きたい。
【脳科学者・茂木健一郎】いま日本で一番深刻だと思っているのが、電機メーカーの不振です。アップルは世界最大の時価総額を誇る企業になっています。一方、ソニーは音楽や映画といった事業を持ちながら、iPodやiPhoneのような商品を作れなかった。インターネットとグローバル化に適応できずにいる日本企業の危機は深い。海外のファンドの力で、大きな事業再編が起きたほうがいいとすら思うのです。
【津坂】私はすこし楽観的です。アップルもずっと素晴らしい会社ではありませんでしたよね。スティーブ・ジョブズというリーダーを追い出した会社で、97年には深刻な経営難に陥った会社です。わずか15年でいまの姿に成長しました。
【茂木】そうですね。でも人材を入れ替えないと無理でしょうね。
【津坂】ご指摘の通り、飛躍的な業務改革は、同じ秩序の中ではなかなかできませんよね。人材の根本的な補強が必要です。
【茂木】日本の問題は、企業や社会をマネジメントする側にあると思います。経営者などのリーダーたちが勇気を持って新しい時代を拓こうとしているかどうか。僕は「deregulation(規制緩和、自由化)」は人間の脳にもあると思っているんです。脳科学の用語で言い換えると「脱抑制」です。これはダメだ、こうすべきだ、などと抑制ばかりかけていると、ポテンシャルは開花しません。逆に何でもやっていいよとすると、ブワっと一気に開花するんです。要するに、この国がダメになるのも再生するのもマネジメント次第だと思うんです。たとえば津坂さんが日本企業への投資の是非を判断するときには、その企業の何を見るんですか。
【津坂】日本企業の場合、われわれが最も重視するのは、経営者が変化や飛躍を起こしたいと感じているかどうかです。危機感があり、外部の人材を受け入れる体制が整っていれば、私は喜んで投資します。たとえば韓国のサムスンは、中国人とインド人を大量に採用しています。将来の市場がどこにあるかといえば中国とインドなのですから、中国人とインド人の優秀なスタッフが中にいなければ、その企業が成長するはずがないのです。
■戦いを挑むのか、その前に諦めるのか
【茂木】福沢諭吉は『文明論之概略』で、幕末から明治への変化を「恰(あたか)も一身にして二生を経るが如く」と表現しています。まさにいまの日本にはインターネットとグローバル化という2つの黒船が来ていて、すべての日本人が「一身にして二生を経る」という変化への覚悟を持つべき時代です。本来、人間の脳にとって変化することは最高に楽しいことです。だから、「変化すること自体が善である」という発想に変えていかないといけません。
【津坂】世界が変化に対して必死に適応しようとしている中で、日本だけが持続可能ではなくなった古いシステムにしがみついているように思えます。
【茂木】大切なのはスピード感ですよね。僕は、「小泉改革」以来、日本の有権者が求めていることはただひとつ、「あまりにも効率の悪いパブリックセクターを何とかしてくれ」という思いです。これは大学にも同じことがいえます。大学教授と話していると、まるで市役所の窓口の人と話しているみたいだと、よく悪口を言うんです。パブリックセクターと教育の立て直しは、日本のアジェンダとして一番重要だと思います。その点で、大阪市の橋下徹市長が支持を集める理由もよくわかります。
【津坂】橋下さんは変化を起こそうとしていますよね。自分なりの仮説を立てたら、とにかく実行する。バットを振るんです。10回振って3回当たれば、3割打者です。1回も振らなければ、ゼロです。得点できません。橋下さんはともかくバットを振って点を取りにいっている。それだけでも素晴らしいことだと思います。
【茂木】外資のファンドを「ハゲタカ」と呼んだり、「小泉改革」が格差を助長したと批判したりする人たちがいますが、それ以外に方法がないんだから仕方ないだろうと思います。現状を変えないと、国が滅びてしまう。
【津坂】世界の一員として戦うかどうか。戦って勝つチャンスをもらうか、戦う前に諦めるか。現状維持では通じない時代になったのではないかと思います。
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1961年、東京都生まれ。ハーバード大学卒業。ハーバード・ビジネススクールでMBA取得。メリルリンチ、ゴールドマン・サックスなどを経て2006年からTPGキャピタル代表。TPGは運用資本4兆円以上のPEファンド。卒業生組織である日本ハーバード・クラブのディレクター(役員)も務める。
脳科学者 茂木健一郎
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授。著書に『脳と仮想』(新潮社)など。
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(茂木健一郎、TPGキャピタル代表 津坂 純 山田清機=構成 門間新弥=撮影)
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