物価:とどまるところを知らない輸入品の「値上げドミノ」 -脱デフレの「8大落とし穴」【6】
プレジデントオンライン / 2014年3月13日 10時15分
アベノミクスの一翼を担う日本銀行の黒田東彦総裁と岩田規久男副総裁は「2年以内に消費者物価を2%に引き上げる」との目標を掲げ、そのためには「あらゆる手段を講じていく」として、大胆な金融緩和に踏み切る姿勢を示している。市中に出回るお金が増えれば円の価値は下がる。12年12月26日の安倍晋三政権発足以降、為替相場は1ドル=85円台から100円台へと急激な円安に振れている。
それを受けて始まったのが輸入品値上げの“ドミノ現象”だ。高級輸入車の「ポルシェ」が13年1月から約30万~40万円の値上げを行った。続いてフランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン」が13年2月15日からバッグや財布などの価格を平均12%引き上げた。さらに「シャネル」も、13年3月1日から時計や宝飾品の日本での販売価格を約5~6%上げた。
こうした動きは、輸入品を原材料にする食料品や日用品にまで波及し始めた。日清オイリオグループは、13年4月1日の納入分からサラダ油をはじめとする食用油で、メーカー希望小売価格を1割以上値上げした。また、農林水産省は13年4月から輸入小麦の政府売り渡し価格を平均で9.7%引き上げている。このほかトイレットペーパーや缶詰などの値上げも発表され、少しずつ一般家庭の家計に重くのしかかる。
では、黒田総裁がいうように消費者物価が2%にすんなりアップするのかというと、簡単でもなさそうだ。第一生命経済研究所の首席エコノミストの熊野英生さんは次のように分析する。
「円安の振れ幅から見ると、輸入物価はまだ上昇する余地があって、消費者物価が1%に近づくことはありえるでしょう。しかし、2%になるかというと、かなり難しいといわざるをえません。物価に占めるウエートの大きい電化製品は、5年で半額というような値下がり傾向に歯止めがかかっておらず、物価押し上げの面での足かせになる可能性が高いからです」
さらに熊野さんは、黒田総裁が消費者物価2%の上昇に消費税の引き上げ分は含まないとしている点に注目している。実際に達成した場合は14年4月以降に極めて大きな物価上昇になってしまうからだ(図7参照)。
「14年3月時点の生鮮食品を除いた消費者物価の指数を100として、消費税の引き上げ分がフルに転嫁されたと仮定したら、14年4月には103になります。そして、目標である2年後の15年4月には2%上昇なので105になるわけです。さらに2%の物価上昇が続くと、半年後の15年10月には1%の上昇と消費税の引き上げ分を加えて108になり、後は機械的に16年10月が110、17年4月には111という計算になります」
正確にいうと非課税品目があるために、消費税が5%上がっても消費者物価は3.8%の上昇にとどまり、17年4月までの累計では11%ではなくプラス10%になるそうだ。それでもすさまじい数字で、熊野さんは「日本の物価上昇率が3年間でプラス10%以上になった時期は、第二次オイルショックの直後の83年までさかのぼらなければ見つかりません。計画の意気込みは買うにしても、実現は難しいでしょう」と指摘する。
また、年金や医療など社会保障の面からアベノミクスに懐疑的な見方を示しているのが社会保険労務士の北村庄吾さんだ。
「物価が上昇していくのには消費にお金が回る必要があります。しかし、税金や社会保障の負担増で極端な話、給与から天引きされた後の手取りが4割という時代がやってくるかもしれない。そうしたことを薄々感じとっているので、現役世代はお金をつかうことができないのです。引退世代も先々のことを考えたら、余分な出費は避けたいところでしょう。デフレ脱却を掲げたアベノミクスが成功するかどうか、私は疑問に思えてなりません」
(プレジデント編集部 伊藤 博之)
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