「ネット炎上」が生む破壊的イノベーション
プレジデントオンライン / 2014年3月17日 8時45分
先日テレビの収録で、ある日本を代表する起業家の方とお話しした。その方は、ツイッターなどのSNSなどの利用も盛んで、時折、「炎上」している。
聴衆に「あんなに炎上して平気なのですか?」と聞かれて、その人は、「ぜんぜん平気。慣れちゃっているから」と答えていた。それで、私は、これは大切なポイントだなと改めて思った。
インターネットの登場以前から言われていることは、「実行者」と「評論家」のタイプは違うということである。何かをする人は、とにかくやってしまう。それに対して、「後だしジャンケン」でいろいろケチをつける人は、結局仕事ができない。
会社の中でも、評論家タイプは、あら探しは得意だけれども、実行力がない。評論家が多くなると、会社の活気が落ちる。コンプライアンスは大切だが、その遵守が、評論家タイプを増殖させることになってしまうと元も子もない。
結局、会社も、一つの国も、評論家タイプだけでなく、いかに真っ先に実行していく突破者を増やすかが、成長戦略の鍵となる。そのためには、冒頭に紹介した起業家のように、「炎上上等」の覚悟がある人が、必要なのだろう。
私自身は起業家ではないが、炎上は何回も経験している。その際の時間経過をふり返ると、炎上は、それほど悪いことでもないように思う。
まず、炎上するということは、それだけ世間の関心が高いということである。「炎上マーケティング」という言葉があるくらい、話題にもなる。使い方、対応のやり方によっては、すぐれた宣伝効果もあるだろう。
次に、炎上をきっかけに、社会のさまざまな立場の人たちとコミュニケーションが図れる。その中には、もちろん「アンチ」の人もいるが、反対論者とのやりとりのほうが、長期的に見ればかえって有意義な場合も多いのだ。
炎上を、一種の「デバッギング」の手段として使うことすらできる。コンピュータ・プログラムの「バグ」(欠陥) を発見し、それを是正する作業のように、ある計画やヴィジョンに対して、反対派からさまざまな異論・反論が寄せられることによって、結果として質を高いものにすることもできるのだ。
このように考えれば、炎上は、カトリック教会がある人物を聖者に列する際に、わざとそのあら探しをさせる「悪魔の代理人」を立てるように、もともとの計画やヴィジョンの質を高める、一つのエンジンと見ることさえできるだろう。
アメリカの代表的なベンチャー企業だって、その歴史の中でしばしば炎上している。フェイスブックが、プライバシーに関するポリシーの変更のたびに炎上していたのは記憶に新しい。iPhoneも、アンテナの感度をめぐって炎上したことがあった。
一般に、従来の社会のルールや制度を書き換えるような「破壊的イノベーション」の推進においては、炎上は避けられない。新しいものが社会の中に受け入れられるプロセスを考えれば、むしろ、望ましいとさえ言ってよい。
炎上は求めてするものではないし、やたらと世間をお騒がせするのも愚かである。自分のヴィジョン、プリンシプルを貫き、それをストレートに表現した際に、既存の考えや旧来のやり方と衝突するというのが、一番筋のよい炎上であると言えるだろう。
冒頭に挙げた起業家とは、実は堀江貴文さんのこと。そのお話は普遍的な意を持つ。炎上を無闇に恐れていては、新しいビジネスなどできない。
(脳科学者 茂木 健一郎 写真=AFLO)
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