アベノミクスで変わる老後の心構え
プレジデントオンライン / 2014年3月25日 11時45分
政権交代以降、経済の局面は大転換。いま、1年後、老後の生活はどのような影響を受けるのか。インフレに強い暮らし方を紹介する。
■経済は……
「私が選挙で当選したときよりも嬉しかった」と安倍晋三首相はジョークを飛ばした。甘利明経済再生相は「アベノミクスの第四の矢になるのではないか」と期待感をあらわにした。2020年夏季五輪の東京招致による経済効果は3兆円といわれ、日本経済はアベノミクス効果と相まって、ようやくデフレ脱却、景気回復へ向かいそうだ。
経済アナリストの森永卓郎氏も、東京招致成功は日本経済のためにはよかったと評価する。昨年のいま頃と比べて何となく世の中が明るいのは「庶民の所得は増えていないのに、将来増えることを期待して消費に走っている状況だから。もし東京招致に失敗していたら、経済にとってはマイナスの影響のほうが大きかったでしょうね」。
だからといって私たちの未来は楽観できない。
「01年から06年まで続いた小泉内閣5年間と同じことが起きる」と森永氏は警告する。
「小泉時代、ざっくり言えば株価は2倍、企業の経常利益も2倍、配当金は3倍、上場企業の役員報酬は2倍に増えたのに対し、中小企業の役員報酬は8%程度減少し、雇用者報酬も8%程度減った。それはつまり強い者と弱い者の間の格差が拡大した時代でした」
■給料は……
厚生労働省の有識者研究会は13年8月20日、労働者派遣制度の規制緩和を求める報告書をまとめた。
企業が一つの業務に派遣労働者を充てられる期間を最長3年に制限する「3年ルール」を撤廃するなど、どんな業務でも人を入れ替えれば派遣を使い続けられるように改めるのが特徴。労働者側からすると正社員が派遣に置き換えられたり、非正規雇用が増える懸念がある。
仕事や勤務地などを契約で限定する限定正社員のルール整備も検討されている。しかし森永氏は「限定社員であれば所属する営業所や工場を閉鎖すれば解雇できる」点に不安を抱く。「転勤がないからといって安易に選ぶべきではありません」。
エリート層も安心はできない。政府は1日8時間、週40時間が上限となっている労働時間の規定に当てはまらない働き方「ホワイトカラー・エグゼンプション」を14年度から試験的に導入する方針だ。
大企業の年収800万円を超えるような課長級以上や専門職の社員は繁忙期に休日返上で働き、閑散期にはまとめて休むといった働き方を選べるようになり、一定の年俸と成果に応じた給与を受け取る。うまく機能すればいいが、森永氏は「残業代なしで無制限に働かされる恐れがある」と危惧する。
アベノミクスで恩恵を受けるのは大企業、株式・不動産などの資産。潤うのは企業オーナーや資産家にすぎない。非正規雇用が増え、正社員であっても給与は抑えられるという方向性だ。
「つまり正社員も非正規社員も地獄を見ることになるかもしれません。現在は3分の1が非正規社員ですが、その割合が急速に増えて超格差社会が生まれるでしょう。ただ、経済のパイは大きくなるので見かけ上は景気が良くなり、一部の社員は何億円という報酬を受け取ることができる。その一方で大多数の人は給料が減りズルズルと貧困生活に向かって落ちていく」
■年金は……
小泉内閣時代、唯一無傷だったのは公的年金を受け取っている高齢者層だった。公的年金には持続可能な年金財政とするために、04年に導入された「マクロ経済スライド」という仕組みがある。年金を支える現役世代の減少と平均寿命の伸長には、給付の削減で対応するということ。森永氏によれば「毎年0.9%ずつ給付を削減していかなければならないのに、デフレが続いたため、マクロ経済スライドは一度も発動されないまま9年間が経過してしまった。つまり現在の年金給付額は本来の設計水準よりも8.1%ほど高い水準にあるのです」。
さらに物価が下落したにもかかわらず特例で年金額を据えおいた物価スライド特例分が2.5%あるため、合計で11%程度の歪みがある。そのため、「物価が2%上がっても年金額が増えない状況が十数年続くのではないか」。
最終的には年金の実質的な価値は「3分の2程度になる」というのが森永氏の試算だ。支給年齢の引き上げも検討されている。社会保障制度改革国民会議最終報告書は66歳以上に上げることを中長期的な課題としているが、社会保険労務士の井戸美枝氏は、高齢者が働ける体制を整える必要があるので「68歳までの引き上げが限度でしょう。その後は年金額の削減で対応することになりそう」。最悪3割削減も想定すべきだという。
「年金が減ること、リストラのリスクが高まることを考慮すれば、老後資金は貯められるだけ貯めておいたほうがいい。とはいえ貯蓄には限度があるので貧困生活に陥らない最低ラインとして1500万円は確保したい。それを取り崩しながら生活レベルを維持するのです」と森永氏。
ただ、「給料は働く側の裁量で増やすことができないので、インフレの時代には投資を考えることも必要」とFPの深野康彦氏はアドバイスする。
(ジャーナリスト 山本 信幸)
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