日経平均はどこまで回復するか
プレジデントオンライン / 2014年3月24日 12時15分
「日本は2014年から見違えるほどよくなる」――13年9月のリポートで、20年の東京五輪開催決定を契機に「日経平均4万円」とした武者リサーチ・武者陵司代表が言う。
「過去最高値(終値3万8915円、1989年12月29日)を超える、ということ。米独の株価指標が最高値を更新したのに、日本だけ半値以下のままであるはずがない。過去十数年、あらゆるリスクテークを止めることで資本を眠らせてしまったが、アベノミクスは、そこが問題点だということに初めて焦点を絞った施策」
やっと日本が正常化する、と言う。
「デフレ最大の原因は、90年代初めのバブル崩壊以降のゆきすぎた円高と異常な地価安、株安。最初の約5年はバブルの反動などで仕方なかったが、それ以降の動きは明らかに市場の合理性からかけ離れていた」
“遊んでいる”資産が世界一多い日本が五輪という投資対象を得ることで、著しい需要誘発が望めると言う。
「日経平均は一時、最高値の4分の1まで下がったが、下落の半分はゆきすぎ。3000兆円あった日本人の金融資産が約1600兆円減ったのも、中央銀行・政府・学者の的外れな政策で止められるものを止められなかったから。これが“正常”な水準まで是正されるだけで約700兆円増。大きな資産効果が見込める」
マネー情報誌「ネットマネー」の窪田広実編集長も同様に強気だ。
「最高値更新に言及する証券関係者が増えた印象。ただ、89年当時とは構成銘柄が入れ替わっているので、現在に換算すると約2万4000円。14年には1万8000円が定着、押し目が入りつつも18年にピークに達するのでは」(窪田氏)
その一方で、慎重論も根強い。
「日経平均は今や、投資家や資本家の暮らしぶりのバロメーター。先行きなど想像もつかない。生活と直結する指標なら、一人当たり賃金と失業率を見たほうがいい」――民主党政権時代に内閣官房内閣審議官を務めた水野和夫・日大教授が指摘する。
「アベノミクスが目標としているインフレ率実質2%の達成は難しいとみている。政権中枢の人が東京五輪を第四の矢と言い出したりと、第三の矢=成長戦略の効果に自信を持っていないようだ。成長戦略といっても、小泉政権から民主党政権時代と比べても基本的にメニューは同じ。それらは効果がなかったばかりか、この10年間に金融資産ゼロ、年収200万円以下の人の増加ばかりが進んだ。しかし、安倍政権はこれらは“自己責任だ”というスタンスで問題視しているように見えない。そもそも成長戦略でデフレが解決できるか否かから考え直すべき」(水野氏)
■「第一の矢だけですでに十分」
政権は変われど、経済政策の主役は経済官僚。方針変更は即、公に間違いを認めることだけに、まず期待はできない。こうしてさしたる批判・検証もされぬまま“無駄”が繰り返されてきた、ということだろうか。
デフレ克服について、過去の政策と世界的な供給(生産)力過剰を問題視する点では武者・水野両氏はほぼ同じだが、「中国も含め、先進国は過剰な生産力を積み上げてきた。20年には中国も、さらに世界中がデフレになっているのでは」と言う水野氏に対し、「生活水準を上げれば、新しい需要は際限なく生まれる」とする武者氏は、「第一の矢=異次元緩和で十分。デフレは金融政策によって脱却可能」と主張する。
「第一の矢ですでに好循環は起こっている。日本は過去20年、流通をはじめ規制・制度改革を見事に進めている。改革が進んでいないからダメ、というのは問題の取り違え。第三の矢が不可欠と主張するのは、『金融政策だけではデフレ脱却は無理』という考え方が間違いだったと認めたくない人だ」(武者氏)
経済成長を期待する投資家目線の武者・窪田両氏と、成長ではなく経済全体の成熟を志向する水野氏とでは、日経平均に与える意味合いは異なり、二択での決着はつけ難い。が、この一指標の上げ下げに一喜一憂する状況は今後も変わるまい。
(プレジデント編集部 西川 修一)
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