給料がもらえる! 「学費ゼロ」の学校選び
プレジデントオンライン / 2014年4月5日 10時15分
■就職だから給与支給。職を手にして学べる
有力私大が相次いで学費値上げを発表するなど、わが子の進学費用をめぐる親の悩みは深まるばかりだ。
そんな中、学費は免除、全寮制で住居費は無料、そればかりか月々の給料やボーナスまで出る「大学」や「高校」が、世の中にはある。いずれも文部科学省の所管外にある、官庁や企業が人材育成のためにつくった学校だ。
たとえば、国土交通省所管の気象大学校の学生の給与は、採用当初月額15万円弱(昇給あり)。防衛省所管の防衛大学校や防衛医科大学校では毎月11万円弱、トヨタ工業学園高等部の生徒には1、2年生で約12万円、3年生で約14万円の給与や手当が支給される。さらに年2回のボーナスが出るのが一般的で、学校によっては扶養手当なども出る。
「これらの学校は非常に専門性が高く、組織の幹部候補や、業務に必要な専門技能を持つ人材を養成するといった明確な目的があります」と、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は説明する。
「学力試験もありますが、面接やその後のキャリアパスも含め、入試というよりは『採用』と考えたほうがいいと思います」(石渡氏)。官庁や企業への「就職」であり、勉学も「業務」の一環だから、その分の給料が支給されるというわけだ(一方で、無断欠席やアルバイトは厳禁)。そして文科省所管の学校と同様、卒業時にはちゃんと学士号や高校卒業資格がもらえる。
具体的には、どんな学校があるのか。まずは国交省系の3つの大学校、「気象大学校」「航空保安大学校」「海上保安大学校」を見てみよう。
■幼少期の夢もかなう航空保安大学校
気象大学校(千葉県柏市)[→月々約15万円の給与支給]は、国交省の外局である気象庁の幹部職員候補を養成する機関だ。教育期間は4年間で、気象関連の専門知識に加え、一般教養や防災行政などについても学ぶ。
1学年の定員にあたる「採用数」は毎年15人程度と、超少数精鋭型。試験方法は、選択式の基礎能力試験、学科試験。記述式の学科試験、作文試験のほか、面接、身体検査。学科は選択式・記述式ともに数学、物理、英語が出題される。最終的な採用者は、学力試験や面接のスコア順に、本人の意思確認などを行って決定される。
志望者は、もともと気象に強い関心を持つ者が大半。「試験はかなりの難関で、作文力や先を見通す論理能力も問われます。早慶と併願するような成績上位層の受験生でも、決して楽に入れる学校ではないでしょう」(石渡氏)。難易度は偏差値71(代々木ゼミナール数値。以下、すべて同)。
入学後は原則として、大学校の敷地内にある学生寮で生活しながら勉学に励む。教科書代や食費などは自己負担。卒業後は気象庁本庁や各地の気象台などに配属され、気象観測や予報、気象関連の各種の研究業務などに従事することになる。
「一般の大学で気象関連の学問を専攻しても、それを就職につなげることはなかなか難しいのが現実です。でも気象大学校なら、まず間違いなくその道でご飯を食べていける。気象好きのお子さんなら、魅力的な選択肢だと思います」(石渡氏)
航空機に気象情報や周辺の他の航空機の情報などを伝える「航空管制運航情報官」や、航空管制に必要な機器の設置と管理を行う「航空管制技術官」を養成するのが、関西国際空港のすぐそばにある航空保安大学校(大阪府泉佐野市)[→月々約14万円の給与支給]だ。それぞれの進路に応じ、「航空情報科」と「航空電子科」の2つのコースに分かれている。
航空管制運航情報官を養成する航空情報科のほうは、合格者の女子比率が44%以上と意外に高いのも特徴だ。いずれも2年制で、学士号は付与されないが、卒業後は国交省の職員として、各地の空港などで勤務する。14階建ての寮はすべて個室型。食費や水道光熱費などは自己負担となる。
「飛び交う航空機に次々と指示を出さねばならない業務の性質から、同時に複数のタスクをこなす能力が求められます。学生はふだんの生活でも、仲間同士でテレビゲームをしながらしりとりをするなど、いろいろな『自主トレ』をやっているようです」と石渡氏。試験は1次試験と2次試験に分かれており、1次がペーパー。選択式の基礎能力試験と学科試験で、航空情報科が数学と英語、航空電子科が数学と物理。難易度は偏差値58~57と国公立大学レベル。
なお、パイロットを目指したい場合は、「航空大学校」(宮崎県宮崎市、2年制)があり、高卒程度で入学資格がある。飛行機操縦科の募集は72人。ただし、年間100万円程度かかる。
海上保安庁の幹部職員を育成するのが、海上保安大学校(広島県呉市)[→月々約14万円の給与支給]だ。教育期間は本科4年、専攻科6カ月、研修科3カ月の計4年9カ月。国際法や刑法などの法律、船を動かすための知識、海難救助や海上犯罪摘発に必要な専門知識などをみっちり学ぶほか、乗船実習なども行う(専攻科では世界一周の航海実習も)。本科を修了した時点で、学士号(海上保安)も授与される。卒業後は初級幹部として巡視船に配属される。その後は陸上勤務なども経験しながら、キャリアをアップさせていくことになる。
試験内容は1次が選択式の基礎能力試験と学科試験、記述式の学科試験と作文。2次が人物試験、身体検査・測定、体力検査。筆記の科目は数学、英語、物理または化学。偏差値は56だ。
2013年度の採用試験は、倍率10倍以上の狭き門「同庁をテーマにし、映画化もされたコミックス『海猿』のヒットで一時期志望者を大きく増やしましたが、その後も安定した人気を集めているようです」(石渡氏)
海上保安庁には、一般職員を教育する海上保安学校(京都府舞鶴市)[→月々約14万円の給与支給]もあり、こちらも給与を支給されながら学ぶことができる。ただし教育期間は1~2年で、学士号は取得できず、卒業後のキャリアパスも海上保安大学校とは異なる。
■国を守りたい。使命感のある子には
続いて、防衛省が設置する2つの学校、「防衛大学校」と「防衛医科大学校」について見てみよう。
防衛大学校(神奈川県横須賀市)[→月々約11万円の給与支給]は、陸・海・空の各自衛隊の幹部自衛官候補を育成する教育機関。大学相当の各種基礎教育や教養教育、専門教育である防衛学や工学系の講座を受講するほか、自衛官として必要な体力づくりや各種の訓練も受けることになる。
「防衛大に進学した高校の後輩がいるのですが、かなりの体育会系だったにもかかわらず、『初めのうちは体力的にきつかった』と振り返っていました」と石渡氏。
「毎年恒例の開校記念祭のときに学内の売店をのぞいたのですが、大袋入りのプロテインがずらりと並んでいました。どれだけトレーニングしているのかと感心しました(笑)」
加えて、学生全員が部活動にあたる「校友会活動」に参加しているのも大きな特徴だ。
学科は人文・社会科学系が3学科、理工学系が11学科あり、第2学年進級の際に、本人の希望や成績に応じて各専攻に分かれる。また、陸・海・空のどの自衛隊に進むかも、このタイミングで決定される。成績上位の約10%の学生には、海外の士官学校への短期留学プログラムも提供される。
「海外からの交換留学生もけっこういますよ」(石渡氏)
もちろん全寮制で、国交省所管の大学校と異なり、水道光熱費や食費も国費で負担される。一方で、6時起床に始まる厳格な日課、平日は外出禁止など、一人前の自衛官と同様の規律を守る生活が求められる。
卒業後は各自衛隊の幹部候補生学校で1年ほど研修を重ねた後、幹部自衛官(3等陸・海・空尉、他国の軍隊では少尉に相当)として、部下の命を預かる指揮官としての仕事を始める。幹部候補生学校入校時の「初任給」は、21万円強。以後は年1回の昇給があるほか、勤務や職種に応じて各種手当が支給される。
難易度は人文・社会科学系が偏差値64、理工学系が59で、2013年度の一般採用試験は、12.4倍もの高倍率。
「多数の上位中高一貫校が、難関国公立大受験の力試しとして生徒に受験を勧めていることもあり、かなり難易度は高めです」(石渡氏)
この他、ボランティア活動やスポーツ・学業分野での顕著な実績がある学生向けの「総合選抜」や、各高校からの校長推薦による採用試験枠もある。
■災害時も活躍する自衛隊の医師・看護師
一方、防衛医科大学校(埼玉県所沢市)医学科は、自衛隊で働く医師(医官)を養成するための教育機関だ。[→医学科は月々約11万円の手当支給]
教育期間は6年間で、通常の大学の医学部と同様の授業に加え、自衛官としての各種訓練も行われる。卒業後は陸・海・空の各幹部候補生学校に進み、医師国家試験に合格すれば大学や自衛隊中央病院などで2年間の臨床研修。その後、各地の自衛隊病院や部隊などで勤務する。
在学中の待遇は、防衛大学校とほぼ同じ。6年間で国立大学でも350万、私立医大なら数千万円かかる学費が、すべて無料になるのは大きなメリットで、偏差値は69と受験生の人気も高い。
「ただし卒業後9年間は自衛隊に勤務する義務があり、それ以前に退官した場合は学費の返還義務が生じます」(石渡氏)。返還額は最大約5000万円で、卒業後の勤務期間に応じて減額される。
同じ防衛医科大学校の医学教育部に新設される看護学科にも注目したい。募集を終了した3年制の防衛医科大学校高等看護学院の後を引き継ぐ形で、この春、2014年4月より新設される。
看護学科は「技官コース」と「自衛官コース」に分かれており、どちらも入学資格は18歳以上で高卒程度の学力がある者(上限は技官コースが24歳未満、自衛官コースが21歳未満)。
一般教養科目のほか、「災害看護論」「感染症看護論」「公衆衛生看護学」を学ぶのも同学科ならでは。どちらのコースも学校で4年間学んだ後、保健師・看護師の国家試験を受ける。資格取得後は、技官コースは防衛医科大学校病院に看護師として勤務し、自衛官コースは、卒業後、陸・海・空の各幹部候補生学校に入校、その後自衛隊看護師として自衛隊病院などに勤務する(どちらのコースも卒業後6年未満で離職する場合は学費を償還する義務がある)。
入校と同時に特別職国家公務員となるため、授業料は無料。希望者は有料の寮に入ることもできる。手当は技官コースが時給830円程度、自衛官コースが月給11万円弱。
ほかには、1972年に都道府県が共同で設立した私立大学・自治医科大学(栃木県下野市)の医学部。給料がもらえるわけではなく、寮費月額8500円はかかるが、入学者全員に対して入学金や授業料が貸与される(卒業後の9年間を都道府県が指定するへき地の病院や診療所で勤務することが条件)。募集定員は123人。「へき地医療に生涯を捧げたい」という志の高い人材が殺到する。
さて、話を大学校に戻すと、防衛省所管では、陸上自衛隊高等工科学校(神奈川県横須賀市)も、やはり手当をもらいながら勉強できる学校だ。[→月々約9万円の手当支給]
こちらは中学卒業後に入学する高校課程相当の全寮制男子校で、通信制高校との連携で高卒資格も取得可能だ。卒業後は陸上自衛隊に入隊。1年間の教育を受けた後、3等陸曹に昇任する。卒業時に入隊せず、防衛大学校や航空学生(海上自衛隊、航空自衛隊のパイロット養成機関)の受験をするという進路も可能。
■生産現場のリーダーを育てる企業内学校
民間企業が所有する「企業内学校」の中にも、手当や給料をもらいながら学べる学校は存在する。大半は自社の社員を対象にした教育施設だが、外部からの受験が可能な学校も少数ながらある。
たとえば、トヨタ工業学園の高等部(愛知県豊田市)[→月々約12万~14万円の手当支給]は、トヨタを支えるモノづくりのプロを育てる学校。一般の工業高校の3~4倍の技能実習や、トヨタ生産方式や「カイゼン」の技法を学べる学科教育が特徴だ。科学技術学園高等学校通信科との連携で、卒業時には高卒資格が取れるほか、成績優秀者には豊田工業大学(こちらは有料)への進学の道も開かれている。トヨタ工業学園には高卒後に入学する専門部(1年制)もあり、どちらも卒業後にはトヨタの正社員となる。
ほかに自動車関連で、日野自動車が運営する日野工業高等学園(東京都日野市。募集は新規で中学卒業見込みの者。全寮制)[→月々約9万円~の給与支給]、自動車部品大手のデンソーが運営するデンソー工業学園(愛知県安城市。中卒対象3年制の工業高校課程と高卒対象1年制の高等専門課程、高卒対象2年制の短大課程の3課程があり、募集はすべて新卒者。通学が困難な場合のみ入寮)、マツダが運営するマツダ工業技術短期大学校(広島県安芸郡。新卒者のほか、社内選抜者も入校する。全寮制)なども、おおむね同様の教育システムと給与制度を持つ(教科書代や寮費など、諸費用については毎月の手当から天引きされる場合もあるので、確認が必要)。
一方、手当は出ないが、学費と寮費が学校負担で無料になるのは、日立工業専修学校(茨城県日立市。入学準備金の約11万5000円は必要)。卒業後、日立製作所や日立グループ各社に入社することができ、入社後も受験資格が得られれば、企業内学校である日立工業専門学院で学ぶこともできる。
先にあげた企業学校の中で、トヨタ工業学園と日立工業専修学校は卒業と同時に社員扱いとなるが、その他の学校は高卒や中卒で各企業に入社、社員として企業内教育を受けるという違いがある。いずれにせよ、受験の際にはハローワーク経由か、各社の人事部にコンタクトを取る必要がある。
「入校と同時に社員か、卒業と同時に社員かにかかわらず、企業内学校は就職先に困ることがないという点で安心です。ホワイトカラーの管理職にはなれませんが、将来の生産現場のリーダーを育成する学校としては良いのではないでしょうか」(石渡氏)
■志の高い人が多いので、安易な気持ちは捨てる
それでは、これまで見てきたような給料をもらえる学校に進学する際の留意点などはあるだろうか。
「学校ごとの目的や専門性がはっきりしていますので、それらが受験生本人の適性や将来設計に合っているかどうかが、何よりも重要です」と石渡氏。「経済的理由で入った学生さんも多少はいると思いますが、大半の人ははっきりした目的意識を持ってこの道を選んでいます。親や先生に勧められて、というパターンはそれほど多くはありません」
訓練や勉学のハードさ、24時間の集団生活に適応できずに中退するケースもある。「入ってみないと合う、合わないがわからない部分はどうしてもあります」(石渡氏)
また、大学校の場合は受験としてみた場合、入試の難易度は相当に高い。「気象大学校の試験の英語は東大より難しいという噂がもっぱら。防衛大学校は旧帝大を除く国公立大上位クラス、防衛医大は、やはり国公立大医学部の中でも上位に入ります」(石渡氏)
試験申し込みの締め切りが、通常の大学よりかなり早いことも、「入試難度」を上げる要因となっているようだ。たとえば、防衛大学校の一般採用試験の前期日程は、9月末に願書提出締め切り、11月に試験実施というスケジュールだ。
面接がある大学校もあるが、「基本的には公務員採用試験と同じと考えてください。ときどき勘違いしてふだんの私服で受けにいく人がいますが、スーツか、高校の制服で臨むのが常識です」(石渡氏)。
さらに学校によっては、身体検査で視力などに厳しい基準を設けている場合もあり、受験資格を満たしているかの注意も必要だ。
と、ここまでハードルの高さをあげてきたが、何より大変なのは、学習や訓練の厳しさだろう。
「とくに海上保安や航空保安、自衛隊は訓練がハードです。土日も勉学や自主トレは当たり前。休みの日ぐらいのんびり、といった心構えでは、とてもついていけないでしょう。目的がないと、つらいだけです」と石渡氏。
人命を守る仕事だけにやむをえない部分はあるが、一定の覚悟はしておいたほうがよさそうだ。退学する子がいる一方で、体力にあまり自信がなかった子が逆三角形の体形に変わって問題なく対応しているケースも多いと聞くから、努力しだいともいえるのかもしれない。
学生生活は、アルバイトが禁止されていることを除けば、それなりに学生らしい生活はちゃんと送れるという。大学によっては部活も活発だし、ときには合コンすらある。「とくに防衛大生は、地元では人気のようですよ」(石渡氏)
寮生活の学校が多いため、やっていけるのか心配というご家庭もあるだろう。「その点は心配ないのではないでしょうか。集団生活に不慣れなうちはお互いに摩擦もあるようですが、実際に進学した人の話を聞いてみると、一緒に暮らしているうちにいやでも仲良くなるようですよ」(石渡氏)
厳しい規律や訓練にともに耐え抜く結果、同期の仲間同士の結束意識は一般的な中高、大学の比ではないのかもしれない。
一般的な学校と比べ、これらの学校は通常時はあまり外部との交流がない(業務中と考えれば納得がいく)。また、就職とセットであるために、卒業後の進路変更も容易ではない。
「私の後輩や友人で、防衛大学を卒業して民間企業に就職したり、親と大ゲンカをして家を飛び出し航空保安大学校に行き、そこでお金をためてから早稲田大学に進学した例も実際にあります。とはいえ、毎日の厳しい訓練や勉強をしながら、難関大受験や民間企業への就職活動を行うというのは、相当に険しい道でしょう」(石渡氏)
しかし、授業料がかからず、多くの学校で給料がもらえ、しかも仕事と一生の仲間まで手に入る。もしその仕事がわが子の志向にマッチするなら、進学先の選択肢として考慮する価値は十分にある。
「これらの学校に関心がある場合は、いきなりテストを受けるのではなく、まずオープンキャンパスや学園祭などの機会を逃さず利用することです。入学と同時に将来が決まるわけですから、キャンパスや学生の雰囲気をつかんでみて検討してください」(石渡氏)
※本文中のデータは以下のもの以外は2013年4月のもの。
海上保安学校は2012年度現在。トヨタ工業学園高等部は2014年2月現在。
デンソー工業学園は2012年度実績。手当、給与額の詳細が公表されている場合は千円単位四捨五入で表記。
(雑誌エディター/ライター 川口 昌人 市来朋久=撮影)
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