ニートを信じ、女子高生をリスペクトするということ
プレジデントオンライン / 2014年4月18日 15時15分
若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。NEET株式会社代表取締役会長、鯖江市役所JK課プロデューサー。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。様々な企業の人材・組織コンサルティングやコミュニケーション開発を行う一方で、全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プログラムや広報プロジェクトを多数企画・実施中。若新ワールドhttp://wakashin.com/NEET株式会社http://neet.co.jp/鯖江市役所JK課http://sabae-jk.jp/
■「教えてあげる」「助けてあげる」という勘違い
僕たちが昨年11月に設立したNEET株式会社には、全国から300人以上の二ートの若者が集まり、最終的には166人が取締役に就任しました(NEET株式会社については、インタビュー記事 http://president.jp/articles/-/12263 を参照)。「怪しい」と言われ続けた前例のない取り組みに、これだけの若者を集めることができたのは、「これは自分たちのプロジェクトだ」と思ってもらえたからだと思います。そう思ってもらうには、いまのメインストリームである大人たちとの目線のズレを解消しなければなりません。そのためには彼らと対等、もしくはこちらが「学ばせてほしい」というくらいの関係をつくる必要がありました。
じつは会社設立にあたって、「ニートが取締役になる」というコンセプトを打ち出したとき、「いきなり経営者の肩書きだけを与えても無意味だ」とか、「ニートに何ができるんだ?」という上から目線の意見や批判がたくさんありました。世の中の多くの人たちは、「ニート」について、「会社や組織に適応できない人」=「能力が劣っている」「弱者」、さらには「よくわからない不気味な人たち」とひとくくりにして捉えてしまっているようです。なので、「ニート」と呼ばれる若者たちに対して、「君たちを助けてあげよう」「社会に戻してあげよう」「就労支援してあげよう」などという態度になりがちです。これが一番の大きなズレだと思います。なぜ社会や大人たちが「正しく」て、ニートと呼ばれる彼らは「間違っている」「劣っている」というのが前提なのでしょうか。
実際に彼らに会ってみると、高学歴の人や高度なスキルや特殊な能力をもった人、趣味がマニアックすぎる人、価値観の偏った人、極端にマイペースでユニークすぎる人など、とにかく多様な若者がいます。ニートとは、その言葉の定義どおり、会社に雇用された社会人や学生ではない、「その他」の人たちです。つまりはっきりしているのは、既存の組織や働き方の枠組みからはみ出した、現時点での少数派(マイノリティ)だということだけです。
成功した経営者や芸術家のなかには、「会社の、一社員だったらヒドイよね」と言われるような人も少なくありません。極端な話それと同じで、従業員になれなかった人が事業主になれないとは限りません。世の中の”一般”や”普通”といった多数派からはみ出すことは別に悪ではないし、それが必ずしも”劣っている”ということでもないのだと思います。むしろ社会の変わり目においては、得体の知れないところにおもしろさがある。彼らのような体制からはみ出したマイノリティこそが世の中を変えていく可能性があるというのは、過去の歴史を振り返っても明らかです。
今年4月、鯖江市役所に女子高生ばかりの「JK課」を設置した際にも、「未成年の女子高生たちに何ができるのか」と懐疑的な声がありました(鯖江市役所JK課については、インタビュー記事 http://president.jp/articles/-/12263 を参照)。「未成年だから無理だ」と決めつけるのは大人たちの目線と勘違いであり、それが新しい町づくりや行政改革を限界づけていると思います。普段からまちづくりなどに関わっていない「プロの素人」である未成年の彼女たちだからこそ、素朴な疑問や違和感を素直に投げかけることができる。そして従来の「整備する」というだけの役割を超えた、まちを楽しくおもしろくするためのさまざまなアイデアを出すことができるはずです。さらには、それまでの利害関係などに左右されず、地域のさまざまな人たちを巻き込んでいってくれます。
そんな可能性をもったニートの若者たちや女子高生たちと一緒に活動していくにあたり、僕は、この「目線のズレ」と硬直した関係性をリセットすることを何より大切にしてきました。
■主役の座を渡す
NEET株式会社のメンバー募集の際、一番大きく打ち出したメッセージは、「救世主、求む。」でした。既存の社会の枠組みに違和感を覚え、はみ出しているニートたちだからこそ、いまの企業社会のあり方や働き方への問題意識も高いはず。NEET株式会社の設立を通して、「仕事のやり方や組織づくりについてヒントをください」とメッセージを送ったのです。
それを見たニートの若者のなかには、「救世主」という極端な表現に最初は半信半疑だった人も多かったようです。「はみ出し者だけれども日々違和感を覚えていて、それでも何かを変えたいと考えている俺たちの可能性を信じてくれているのかな」という期待半分。そしてもう半分は、「この若新ってヤツは怪しくて胡散臭い。俺らを取締役にすると言って持ちあげておきながら、本当は騙すつもりなんじゃないか」という懐疑心や不安。それでも僕は「みんなが主役じゃないと意味がない」と主張し続けました。少しずつそれが伝わったのか、「自分たちが取締役になれるなら」「本当に自分たちの会社にできるなら」と趣旨に賛同してくれた若者たちがたくさん残ってくれました。
同じように、女子高生たちにも、「これは本当に私たちのプロジェクトなんだ」と思ってほしかった。一つには「JK課」というネーミングです。「JK」という言葉をネガティブに捉える大人が多いのは承知ですが、彼女たちの世代にとっては、ものすごく身近で馴染みのある普通の言葉です。それだけのことにも大きなズレがあります。今回は、あえて彼女たちの立場や感覚を最優先にして「JK」という言葉を使い、「自分たちが主役だ」と感じてもらいたかったのです。それがうまく伝わったのか、プロジェクト開始前から、口コミでたくさんの女子高生が集まってくれました。彼女たちは、もし「女子高生まちづくり課」というような名称だったら参加しなかった、と口を揃えて言います。彼女たちは大人の目線や態度に敏感です。まずは彼女たちを信じ、徹底的にリスペクトすること、それがこのプロジェクトの成功の鍵を握っていると思います。
僕も含めて、大人たちには、自分よりも知識や経験の少ない人たちを悪気なく見下す傾向があると思います。「未熟なのだから、ちゃんと教えてうまく使ってあげないといけない」などと考えがちですが、「教える・教えられる」「使う・使われる」といった関係性に限界がきているのだと感じます。そうやって一方的に人の可能性を計り、うまく調整・管理していこうとするやり方が、いまの日本社会をイマイチにしているのではないかと。今回、鯖江市役所JK課を始めるにあたり、牧野百男・鯖江市長の言葉がとても印象的でした。「このプロジェクトをやることで、彼女たちが大人を変えてくれるかもしれない」。まずは一人ひとりの可能性を信じ、知識や経験、スキル、年齢などにかかわらず対等な関係を築き、徹底的に相手をリスペクトする。そこから「新しい何か」が生まれるのだと僕は信じています。
(慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役 若新 雄純)
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