二次会を断って筋トレを続ける理由 -ローソンCEO 新浪剛史氏

プレジデントオンライン / 2014年4月24日 10時15分

新浪剛史氏

私は43歳のときにローソンの社長になりました。その就任前後の1年間で、体重が10キロも増えました。86キロから96キロです。

最大の原因は試食です。コンビニエンスストアの店づくりは、新商品の開発と一体。主要な新商品については社内で必ず試食します。さらに社外に出て店舗を視察するときにも試食が付き物です。私が三菱商事からローソンにきたとき、正直にいって会社は潰れそうな状態にありました。だから、必死に働きました。そうすると、必然的に試食が増えます。土日も正月も返上で食べました。もちろん運動をする暇はありませんでした。

しかし、体重が増えると、体を動かすこと自体が億劫になります。そうなると精神面にもよくありません。いつもイライラしていました。自分でも「これはいかんな」と思っていたときに、社外取締役をお願いしているザ・アールの奥谷禮子社長に、ずばりと言われました。

「あなた、ずいぶん太ったわね。顔色もよくない。健康管理はトップの義務よ。いまの新浪社長は、はっきり言って見苦しい。上に立つ人間は格好よくなければダメよ。格好いいとは、『この人は鍛練しているな』と感じられる人。これから大変な改革を進めようという経営者が、そんな体つきでは困ります」

奥谷さんの指摘をきっかけに、週2回はジムに通って、体を動かすようにしました。同時に、専門家の指導を受けながら、炭水化物を減らし、タンパク質を増やすなどの食事制限を行いました。その結果、2カ月で20キロを減らしました。96キロから76キロです。ところが奥谷さんには、こう言われました。

「健康維持というのは極端にやってはダメなの。いまの顔は、痩せすぎて貧相だわ。トップは、健康で明るく、常に元気さを発散していないとね。そうでないと、加盟店の人たちも不安に思うわよ」

どんなことも、やりすぎはよくありませんね。極端な食事制限は見直して、体重は80キロ程度に戻しました。

これ以来、週2回のジム通いを、11年間欠かさず続けています。時間は夜9時から11時までの約2時間。専属のトレーナーに付き添ってもらいながら、ストレッチや筋力トレーニング、ランニングなどを行っています。一人では甘えが出ることもありますが、トレーナーがいると自分の限界の少し先まで追い込まれます。ときには、米軍式の「ブートキャンプ」のような激しいメニューで、体をいじめることもあります。

トレーニングは大変きついのですが、終えた後はとても爽快です。汗をかいて、シャワーを浴びれば、ストレスも発散します。なにより体を動かしたあとは、物事に対して前向きになり、仕事の生産性も上がるように感じます。

ローソンでは、玉塚元一COOをはじめ、トレーニング好きの役員が少なくありません。私もジム通いを奨励しています。一方、部長級以上で「メタボ気味」の社員には、週1~2回の「ブートキャンプ」を受けるように指示しています。現在は20人程度が定期的に通っています。当初は嫌がっていても、通い始めると癖になるようですね。業務で多忙ななか、貴重な時間を割くことにはなりますが、定期的な運動は、生活のリズムをつくるうえで重要なことだと思います。

いまローソンには1万1067店(2012年11月末時点)の店舗があります。密接なコミュニケーションをとるには、気力と体力が欠かせません。ジムでパワーリフティングをするとき、最後のひと踏ん張りでは大きな声が出ます。仕事で大声を出す機会はありませんが、トレーニングで鍛えていれば、普段も元気で張りのある声が出せる。加盟店の皆さんと触れ合える時間は限られていますが、そのときに張りのある声を出すことで、現場の活気を盛り上げたいと思うのです。

■ビジネスでの勝負は「論理」より「主観」

企業経営とは、決断の連続です。とくに小売りはスピードが非常に速い。経営者は、重要な意思決定を次々と迫られることになります。それも24時間365日。休んでいる暇はありません。だから、健康管理は非常に重要ですし、常に心身がフレッシュでなければいけません。

そうなると「2日酔い」では務まりません。私は夜の会合があっても、二次会にはほとんど付き合いません。ローソンに来たばかりの2年ぐらいは、周囲との融和を図るために付き合っていましたが、いまでは二次会とは縁を切りました。夜の会合は9時半まで。その後は自宅で、書類に目を通したり、メールを返したり、明日のための仕事をします。飲めないわけではないのですが、酒量はワイン1杯程度にしています。

社長に就任して10年が過ぎました。これからは徐々に意思決定を役員などに譲っていくつもりです。仮に役員などの責任ある立場の人間だとすれば、夜を徹して酒を飲むようなことは避けたほうがいいでしょう。意思決定は真剣勝負。明晰な頭脳と溌剌とした体調でなければ、取り組めません。2日酔いでは、真剣勝負の仕事はできないでしょう。

ビジネスとは結局のところ、論理よりも主観の勝負です。

ビジネスの現場では、論理的には甲乙をつけられない複数の選択肢から、1つの選択を迫られることがよくあります。お互いの選択肢が異なるときには、主観がぶつかり合うことになる。その際、最終的に「この人の言うとおりだな」と納得したり、「この人についていこう」と思ったりするのは、その人の持っている「エモーション(感情)」や「パッション(情熱)」によります。

相手や周囲を説得するには言葉に力が必要です。言葉にパッションが感じられるかどうか。だからこそ、健康管理が重要になるのです。寝不足や2日酔いはビジネスの大敵です。

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ローソンの海外展開

ローソンはいま海外展開を加速させています。中国、インドネシア、米国(ハワイ)に続き、今後はタイやミャンマーでの展開も計画しています。このため、この1年は3分の1を海外で過ごしました。特にアジアではトップ同士の交渉でなければ話が進みません。これから進出先は増える一方ですから、私の海外出張も、増えることはあっても、当分減ることはなさそうです。

海外出張の場合でも、週2回のジム通いを続けるように心がけています。1泊程度の出張では、無理に運動することはありませんが、可能ならば、あらかじめ現地での運動を日程に組み込むようにしています。普段より激しいトレーニングをすることもありますね。ストレス発散になるからです。海外のジムを訪ねることも、ひとつの楽しみです。

いまのところ私の健康管理上の課題は、歩く時間が少ないことです。健康管理のためには、ウオーキングは最適です。私の普段の生活では、執務や会議のほか、自動車や飛行機での移動など、座っている時間がほとんど。1日の歩数は、2000歩程度です。座る時間が長いと、腰にも負担がかかります。激しいトレーニングより、ゆっくりと歩くほうが体にいいことはわかっているのですが、なかなかできません。先輩の経営者では早朝のウオーキングを日課にしている人が多いですね。健康管理のうえでは、とてもよいことだと思います。

夜、家に帰って就寝するのは午前1時頃になります。帰るのは早いのですが、書類整理などをしていると、これぐらいになってしまう。起きるのは6時頃です。社外の人との朝食会などに参加することが多く、家を出るのは8時頃。それを考えて早朝にトレーニングをするとなると朝5時から7時ぐらいになります。トレーナーに無理強いはしたくないので、夜型が続いていますね。読者の方には、朝型の運動をお勧めします。

「やり過ぎ」にも注意が必要です。1年ほど前に膝の半月板を痛めてしまったことがありました。学生時代に運動をしていた人は、自分の体力を過信する傾向があります。私も学生時代にバスケットをやっていたのですが、学校での部活動とジムでのトレーニングはまったく別のものです。トレーナーから助言を受けながら、無理のない範囲でやりましょう。

■「五輪招致」が拓く日本の2つの活路

元気が大切なのは、日本の景気も同じでしょう。もっとパワーを漲らせなければいけません。消費環境は依然として厳しい。しかし何かパッと明るいニュースがあれば劇的に変化するはずです。そのためのイベントとして、私は「東京オリンピック・パラリンピック」の開催がベストではないかと思っています。

五輪誘致には、「いまさらまた日本で五輪か」とか「もう発展途上国ではないのだから、五輪があっても経済効果は薄い」といった声も聞きました。しかし、違うのです。ポイントは2つ。1つには若い世代のため、2つめにはソフトの遺産を残すためです。

いま高齢世代は比較的元気です。それは政治を動かすのも、経済的利益を享受するのも高齢世代だからです。一方で、若年世代の元気が失われているように感じます。それは日本の将来への道筋が示されていないからでしょう。

日本の未来を考えれば、40代以下の人たちの元気が失われたままでは、困ります。若年世代が将来に希望を見出すうえで、具体的に手の届くところにあり、「これだ!」と思えるもの。そのひとつが、五輪開催だと思います。

いまの若年世代は、ほかの世代に比べて社会的貢献への意識が特徴的に強いのではないでしょうか。東日本大震災では、ローソンとしてもさまざまな復興支援に携わりましたが、その際、若い人を中心としたボランティア活動に触れ、大変な刺激を受けました。「世の中の役に立ちたい」という気持ちの若者が、日本にはたくさんいます。優しさや助け合いの精神を持ちながら、それを生かす場がないと感じている若者がいるのです。

だから、たとえばオリンピックだけではなく、続いて開催されるパラリンピックに、若いボランティアの力を大胆に導入する。その姿は、日本人の特性を、あらためて世界にアピールすることになるはずです。出場選手から企業やNPO、ボランティアまで、あらゆる形で日本の力が結集するステージとして、東京五輪には大きな可能性があると思います。

■全力でやり遂げて「好転」を呼び起こせ

ロンドン五輪の開会式。テーマは「驚きの島々」。(PANA=写真)

それは第二のポイントである「ソフト遺産」にも繋がります。前回の1964年の東京五輪では、新幹線や高速道路網などのハードが遺産でした。「もうそんな時代ではない」という批判は理解します。しかし「だから五輪は要らない」ではなく「だから今度はソフト」なのです。

オリンピックでは世界各国から選手や観客が訪れるため、各国の言葉を操れる人材が必要です。交通機関の案内表示も多言語対応を図ることになる。その結果、海外観光客を迎える意識と態勢が整うはずです。そうした「ソフト遺産」は、日本が「観光立国」として生きていく道を拓くことになる。どこに行っても清潔。料理は世界一。人々は親切で、おもてなしの心がある――。そうした利点をさらに磨き上げ、「ジャパン・ブランド」を復活させるわけです。

なかでも東京は、世界有数のエフィシェンシー(効率)を持った都市です。2012年夏、私はプライベートでロンドンを訪ねました。開会式ではポール・マッカートニーが、素晴らしい歌声を披露し、感動を覚ました。イギリスの文化資産は大変レベルが高い。ところが、競技の観戦では、とても不便な思いをしました。会場間のアクセスが非常に悪かったのです。サッカーの「なでしこジャパン」の試合を観るために、市内の移動でも1時間半かかり、試合開始には間に合いませんでした。東京ではこのような事態にはならないでしょう。そしてイギリスに負けない文化遺産もある。日本と東京の魅力を世界にアピールする絶好の機会です。

日本には、魅力的な成長戦略が必要です。戦略を練る時間はあります。これはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)についての議論にも共通すると思います。当初から「参加拒否」では、世界から取り残されるだけです。まずは議論のテーブルに着き、そこから対処法を探る。変化を恐れるだけでは、成長は生まれません。成長は変化のなかにある。TPPについて言えば、具体的な影響が出るまでには10年程度の猶予があるはずです。それを見越したうえで、戦略を練るのです。

忙しくて疲れていても、運動をして汗を流すと、その前とは気分がガラリと変わります。日本も、心理状況を変えることが必要なのです。トレーニングは、始めるには覚悟が要る。最初は辛い。でも終わったら気持ちがいい。大変なことをやり遂げないと、好転も起こりません。東京五輪にしろ、TPPにしろ、何かを全力でやり遂げて国の気分を変えることが、いまこそ必要だと思います。

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ローソンCEO、経済同友会 副代表幹事
新浪剛史

1959年、神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業。同年、三菱商事入社。配属は砂糖部。91年ハーバード大学経営大学院修了、MBA取得。95年ソデックス創業のため出向。2000年ローソンプロジェクト統括室長。02年ローソン顧問から社長に。10年より経済同友会副代表幹事。

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(サントリーホールディングス 代表取締役社長 新浪 剛史 小山唯史=構成 小原孝博、飯田安国=撮影 写真=PANA)

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