なぜ、家族は介護認定調査で病状を軽く申告してしまうのか
プレジデントオンライン / 2014年4月19日 9時15分
■介護調査員に対して元気に振る舞うのは損
「そ、それは無理だよ……」
来訪したケアマネージャーはすぐさま父親(89)の寝室に向かいました。
現在の父の症状を聞き、意志の疎通ができるかなどをチェックした後、なんと父をベッドから立ち上がらせようとしました。これまでの寝たきりの状況から想像するに、立ち上がるのは困難だと思いましたが、ベッドの縁にまず座らせ、両脇から体を支えてゆっくりと持ち上げるようにすると、なんとか立ち上がれたのです。その状態から数歩歩くこともできました。
そこまで確認すると父をベッドに戻し、別室で今後の介護についての打ち合わせが始まりました。最初に出た話が要介護認定の申請です。要介護が認定されると介護保険が適用され、さまざまな介護サービスが利用料の1割負担で受けられるのです。
要介護認定は次のような流れで行われます。
申請は通常、市町村役場の介護福祉担当課の窓口で行います。渡される申請書に必要事項を書き入れ署名・捺印。この時、介護保険証の提示も必要です。ウチの場合はケアマネージャーが申請書を持参し、手続きを代行してくれました。
申請にはこのほか、利用者のかかりつけ医による意見書が必要になります。医師の目から見た健康状態の判定です。ウチの場合は突然寝たきりになり、かかりつけ医は状態を把握できていなかったので、後日、往診に来ていただき意見書を書いてもらいました。
申請をすると数日後に認定調査員がやってきます。
来訪したのは40歳前後と思われる女性でした。カバンから認定調査票を取りだし、すぐに聞き取り調査が始まりました。チェックは何十項目にもわたります。
例えば、体の状態については
「ベッドから起き上がれるか」
「食事自分で摂れるか、介助が必要か」
「排泄はどうしているか」
といった内容。また、認知症の有無のチェックとして、本人に生年月日と名前、今の季節はいつか、今日は何曜日か、といったことを聞いていきます。
後に担当ケアマネージャーに聞いたのですが、認知症がある人も調査員が来たときだけは体も意識もシャキッとするケースがあるそうです。また、調査に立ち会う家族も介護認定を受けるのは恥ずかしいという意識があるのか、現状よりも良く申告することがあるらしいのです。世間体を気にする日本人気質なのでしょうか。
そのため要介護度が軽く認定されてしまい、十分な介護サービスを受けられないこともあるといいます。父の場合、調査の時点では認知症はなかったので生年月日などはすべて明確に答えました。私も現状に見合う介護サービスを受けたいと思っていましたから、取り繕うことなくありのままを正直に話しました。
この結果をもとにコンピュータによる一次判定が行われ、次に医師の意見書などの資料を加えて認定審査会による二次判定が行われるそうです。こうした手順を踏んで調査結果が出るまで1カ月前後。結果は郵送で届きます。ウチの場合は3週間ほどで届きました。
「要介護が認定される前に介護サービスを利用した場合、利用料は全額負担になるのだろうか?」
私は認定前にそんな心配をしていましたが、そういうことはないとケアマネージャーから聞きました。認定されれば申請した日までさかのぼって適用されるのだそうです。
介護認定の話が済むと、次に介護用品を揃える話になりました。在宅で介護を行うために揃えなければならないものがたくさんあるのです。まず高さや上体の角度をスイッチひとつで自在に変えられる電動のベッドとベッド上で食事を摂るためのテーブルをレンタルすることになりました。
次いで、支えがあれば立ち上がれることが確認できたため、病院への通院やデイサービスに通うことを想定して車椅子と玄関の段差を車椅子で通るためのスロープもレンタルすることを決めました。
また、ベッドの横に介護用ポータブルトイレを置くことにしました。立ち上がれるのなら、自分で用を足した方がいい。その方が、家族に下の始末をさせる精神的苦痛がなくなるし快方に向かわせるリハビリの効果も期待できるということからです。
ただし、トイレはその用途からレンタルはできず購入することになりました。しかし介護保険による1割負担によって、ベッドや車椅子など一式のレンタル代は1カ月で2000円ちょっと。トイレの定価は約2万円でしたが、やはり1割負担により2000円ほどで購入できました。この費用で済むことを知った時は、介護保険制度のありがたみをしみじみと感じたものです。
ただし、高齢化により要介護者が増加することで財政がひっ迫。現在のような手厚い介護保険を維持するのは難しくなる、というのが現実です。実際、現行の介護保険は改正され、来年の4月には年金などで一定以上の所得がある高齢者を対象に負担が1割から2割に引き上げられる予定です。今後、利用者の負担はさらに増えることになるでしょう。この問題については改めて書きたいと思います。
(ライター 相沢 光一)
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