白熱90分!小泉進次郎×瀧本哲史 -アベノミクスの死角、道州制、世襲批判……すべてに答えた!
プレジデントオンライン / 2014年5月27日 12時15分
まさに夢の対談だ。総理候補ナンバー1の小泉進次郎氏と気鋭の論客瀧本哲史氏の描く恐るべき「未来予想図」が明らかに。会場大騒然! ここから新しい日本が動きはじめた──!
■自民党嫌いの友人と付き合い続ける理由
【小泉】この公開対談のテーマは「武器としての仲間」ですね。その点では、僕は政治家とつるむ機会はほとんどない。反対に友人には自民党のことが大嫌いだろうな、という人も多い。内側に閉じこもりたくないんです。僕が一番よくないと思うのは、政治のことしか話せない政治家。それはつまらない。
【瀧本】僕と小泉さんの政治信条はかなり違うと思います。しかし、付き合いの中では問題になりませんね。
【小泉】「仲間」をつくるときには、思想信条は関係ありません。それより、理屈抜きに「この人は何かすごい」という実感や、「まわりがすべて敵になっても、こいつは俺を支えてくれる」という信頼感が大事です。
僕は2009年の衆院選に神奈川11区から出馬しましたが、そのとき仲間のありがたさを実感しました。自民党が大敗した選挙で、私にも世襲批判など大変な逆風がありました。ペットボトルを投げつけられたり、名刺を目の前で破られたり、太鼓を叩き鳴らされたり……。そんな状況に耐えられたのも、仲間がいたからです。いま振り返るとあの逆風を経験できてよかったと思います。
【瀧本】2009年の総選挙では「小泉チルドレン」が相次いで落選しましたが、進次郎さんは違いましたね。
【小泉】僕は本当の子どもだから(笑)。
【瀧本】僕もタクシー大手・日本交通の経営再建を手伝ったときに、逆風を味わいました。コンサル会社から転職してきたわけのわからないやつが、3代目と一緒に会社をかき回そうとしている――。そんな反発があった一方で、再建が軌道に乗ると、今度は掌を返したように人が集まってきました。
【小泉】政権交代が確実視されるようになったとき、これまで民主党政権で権勢をふるっていた官僚が、僕に擦り寄ってきました。この人は、もし自民党が野党に戻ることがあれば、また同じことをするのでしょう。官僚は政権交代に左右されず、信念を持って仕事ができるはずですが、こういう人を見ると、人としてさみしく思います。
【瀧本】「機を見るに敏」という人たちは、長期的には損をするでしょうね。
【小泉】下野した民主党に残っている人には注目していましたが、最近の状況を見ると再建には時間がかかりそうです。
■ポスト「東京五輪」にどんな物語を描くか
【瀧本】小泉さんに対しては「言うことはすばらしい」という評価がある一方で、「何を目指しているか、よくわからない」という声も聞きます。私見では、小泉さんは、これまでの政治の役割を再定義して、より多くの人に政治に関心を持ってもらおうと行動しているように思いますが、具体的な政治課題には、火傷をしないようにあえて近付かないようにしているのでしょうか。
【小泉】政治には、現実的な問題への対応と、中長期の未来を考える、という両面があります。前者の立場では、はっきり言えば、いまの僕自身にはそんなに力がない。内閣府大臣政務官と復興大臣政務官を兼任していますが、大臣政務官とは、総理大臣、大臣、副大臣のさらに下です。ただ、力は弱くても、いい経験ができています。政府の中に入ったことで、権力の機構が見えてきました。一つの政策ができるまでに、政府、与党、官僚の中で様々な権力闘争が起きています。そこがわからなければ、いざ自分が行動を起こそうとしたときに、身動きが取れない。一方、中長期に関して言えば、一番の鍵は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終わったあとですよ。
【瀧本】祭りのあとですね。
【小泉】東京五輪のあと、日本を様々な課題が襲います。ひとつは人口減少。この5月に「日本創成会議」が発表した2040年の人口推計では、全国の地方自治体の半数が「消滅可能性都市」と名指しされました。僕の地元である三浦市も、ある小学校では今年の新入生がたったの3人でした。こうした自治体が増えています。さらに社会保障の問題があります。2025年には団塊の世代が75歳以上となります。年金、医療、介護の負担はさらに重くなる。消費税を10%に上げたとしても対応しきれません。それは誰もがわかっていることです。
2020年以降の日本は、これまで見て見ぬふりをしていた課題と、向き合わざるをえなくなります。そのとき日本の若者が、そうした時代に生まれてきたことを、ただ悲観するのか、それとも後世に対する使命だと思うのか。明治維新で活躍した20代、30代の志士たちの名前は、いまでも語り継がれています。僕は後世の日本人に「2010年代、20年代の日本の若者はすごかった」と思われるようにしたい。
【瀧本】日本の将来という点では、たとえば「道州制」についてどうお考えですか。
【小泉】これからの日本の課題は「国が全部やります」というわけにはいきません。道州制は言葉ばかりがもて囃されていますが、人口減少などの問題に対処するためには、新しい統治機構を考える必要がある。その論理的な帰結の一つとして、道州制はありうると思います。
【瀧本】私は人を惹きつけるにはストーリーが重要だと考えています。ビジョンと言ってもいい。国や自治体がひとつのプロジェクトだとすれば、そこに懸けてみたいと思えるようなストーリーが必要だと思うんです。
【小泉】いまの日本ほどストーリーのある国はないと思いますよ。東日本大震災と原発事故、急速な高齢化と人口減少、世界最悪の財政赤字。さて、この国の未来はどうなるのか――。
■アベノミクスは時間稼ぎに過ぎない
【瀧本】なるほど。これからの政治は「皆さんに残念なお知らせがあります」というアナウンスが多くなりますよね。ただ、バブル景気を知っている世代は、景気さえ上向けば何とかなる、と考えている節がありますね。
【小泉】このままで何とかなるという勘違いをしている人は多いですね。アベノミクスで株価は上がり、円高から円安となり、失業率は3.6%まで下がり、有効求人倍率はリーマンショック後の0.42倍から1.07倍まで上がりました。そうしたデータを見れば、間違いなく経済は回復しています。しかしアベノミクスは時間稼ぎに過ぎません。どの政党が政権をとっても、誰が総理になっても、取り組まなければならない構造的な課題がある。アベノミクスはゴールではない。
【瀧本】今年5月、T・クーンの「パラダイム論」を日本に紹介した科学史家の中山茂先生が亡くなりました。クーンの研究によれば、「天動説と地動説」のように支配的な学説が一気に変わる要因は、論争による勝利より、学者の世代交代です。
ある考え方に縛られた人は、考え方を変えられない。明治維新で若い世代が活躍できたのは、上の世代が下の世代にチャンスを与えたからです。自分たちの考え方は変えられないから、若い人に任せてみようと決断した。たとえば伊藤博文は44歳で初代の総理大臣となっています。これは現在まで最年少の記録です。もしかすると、小泉さんがこの記録を破るかもしれませんが。
【小泉】託されたチャンスは一度でも失敗すれば即退場です。僕は野党の1回生議員のとき、NHKの全国中継がある予算委員会で、何度も質問に立ちました。先輩議員を差し置いて、異例の抜擢です。党内には「新人の小泉がここで失敗すればおしまいだ」という思惑もあったようです。だから僕は党の指示を尊重し、質問を選びませんでした。周りを黙らせるには、結果を出すしかなかったからです。
【瀧本】小泉さんのやり方は起業家のようです。初当選でも、猛烈な逆風の中で出馬して勝っている。ここで失敗すればゲームオーバーという状況を何度もくぐり抜けている。リスクを取り続けてきたからこそ、成長も速い。
【小泉】政治家はリスクだらけです。言葉をひとつ間違えただけで、政治生命が終わることがある。僕はそれをわかったうえで、人前で話しています。厳しい世界ですが、若い人たちにもぜひチャレンジをしてほしい。
【瀧本】ここで小泉さんの話を聞いて、「小泉さんはすごい。小泉さんについていこう」と考えてしまったとすれば、今日の対談は失敗です。持ち帰ってほしいことは「目の前の課題は、自分がリーダーとなって変えていこう」という姿勢です。これからの課題は、ひとつの「根本原因」があるわけではなくより複雑です。だから一人ひとりの試行錯誤が欠かせません。
【小泉】困難な課題と直面せざるをえない時代に、政治に求められることは論理だけではないと思います。「この人が言うならやってみよう」という無形の説得や納得感、信頼が必要になる。それらを取り戻し、育める政治家を増やさなくてはいけません。最終的には、その人が本気かどうか、全力で走り続けているかどうか。そこに尽きると思います。
僕は本物の仲間についてきてほしい。自分一人の力では何もできない。それが政治家ですから。
※本稿は、2014年5月18日開催の小泉進次郎氏×瀧本哲史氏トークセッション「武器としての仲間」(東京瀧本ゼミ主催)を編集部の責任において要約、再構成しました。
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小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)
内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。1981年生まれ。2004年関東学院大学経済学部卒業。06年米国コロンビア大学大学院にて政治学修士号を取得。父である小泉純一郎元首相の秘書を経て、09年衆院選に神奈川11区から出馬し、初当選。当選2回。
京都大学客員准教授、エンジェル投資家
瀧本哲史(たきもと・てつふみ)
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼー&カンパニーへ。主にエレクトロニクス業界のコンサルティングに従事する。3年の勤務を経て投資家として独立。著書に『君に友だちはいらない』などがある。
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(衆議院議員 小泉 進次郎、京都大学客員准教授、エンジェル投資家 瀧本 哲史 唐仁原俊博=構成 小倉和徳=撮影)
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