商売心理学のプロが伝授。嫌味なく買う気へ誘う秘策
プレジデントオンライン / 2014年7月8日 14時15分
ものが売れない時代だからこそ、知恵とアイデアで大差がつく。
“商売心理学の達人”酒井とし夫氏が、明日から実践できるテクニックを解説!
■催眠誘導トーク:同じ内容でも伝え方次第
人は命令されたり説得されたりすることを嫌います。しかし、同じ内容を提案するのでも、相手が受け入れやすくなる催眠誘導トークがあります。
「いま、何時かおわかりになりますか?」
この質問に対する答えは本来、YesかNoになるはずです。しかしこう聞かれたら大抵の人は何の抵抗感もなく時計を確認し、時間を答えるでしょう。このような言い方を会話的要求といいますが、「現在の時刻を教えよ」と直接的に命令される場合とは受け入れる側の抵抗感が全く異なります。
私自身が「商売で成功するためにはコミュニケーションが一番大切です」と言っても「何を偉そうに……」と抵抗感を持つ人が出てきます。そういう場合は心理学で言うメタファーを使うと有効です。「レイル・ラウンデスという著名な作家は、講演で『人生で成功する85%はコミュニケーション能力で決まる』と言っています。私も講演に行くとよく経験するんですが、コミュニケーション能力って本当に大切ですね」。こんなふうに話すと、私の意見として言うのとは異なり大いに感心され、興味を持ってもらえます。
また、催眠術では「あなたはいま、私の声を聞いています。そして少しずつリラックスしていきます」というふうに「事実」と「なってほしい状態」を「そして」でつなげていきます。実はこれも命令を受け入れやすくし、相手を誘導する方法です。これを応用すると「いま、御社はこういう課題で悩んでいますね」と事実を述べ、「そしてご検討されているこの製品を導入すると、このようなメリットが得られるでしょう」と話していけばよいわけです。
わざとあいまいな表現を使い、相手に自分で言葉を補ってもらう方法もあります。私は長渕剛や矢沢永吉が好きでよく聴くのですが、彼らの歌詞はどのようにも解釈できる内容が多い。たとえば「ずっとこのまま突っ走っていけばいい」(『明日へ向かって』/長渕剛)という歌詞がありますが、「このまま」というのは何も意味していません。しかし、あえてあいまいにすることで聴き手は自分の人生にあてはめて解釈します。だから同じ歌を聴いても考えていることはみんな違うのですが、「俺のことをわかっているじゃん」と感激するのです。
■目?耳?皮膚?客の秘孔発見法:物事を理解するときの「利き感覚」がある
人によって右利きと左利きがあるように、人間には物事を理解するときの「利き感覚」があります。お客様の秘孔を見抜ければそれぞれの相手に対し効果的なプレゼンができます。
人の利き感覚は「視覚型」「聴覚型」「身体感覚型」に大きく分けられます。
「南国の海を想像してください」と言われたときに、青い海や白い雲を思い浮かべるような人は視覚型。波音やカモメの鳴き声が聞こえてくるような人は聴覚型。水の冷たさや砂浜を歩く足の裏の感覚、太陽のジリジリした感覚を感じる人は身体感覚型です。
では、どうすれば人の利き感覚を見分けることができるでしょうか。
視覚型は早口の人が多いのが特徴です。映像やビジュアルは情報が多いので、そうしたとらえ方をする視覚型の人は早口になりがちなのです。また、目線が上向きになる傾向があり、高いところから視野を広げてみようとするので、わりと姿勢がよい。会話のなかに「見える」「キラキラする」といった言葉がよく出てくる傾向もあります。
聴覚型の人の話すスピードは普通で、言葉を大事にします。メールを見ると文章がしっかりしていて、改行もきちんとしている。視線はわりと左右に動くことが多く、会話のなかに「聞く」「話す」「説明する」といった言葉が多く出てきます。
身体感覚型の人は経験したことを自分が感じたように表現しようとするので、話し方はゆったりしています。目線は下向きで姿勢も下向き。「触れる」「感じる」という言葉をよく使います。プレゼンするとき、視覚型の人に対しては、映像や図、イラストで説明すると理解されやすくなります。話し方もテンポを速くして、ビジュアルを交えながらポンポンと話を進めていくとよいでしょう。
資料を用意し、それに基づいて説明するほうがよいのが聴覚型。「実際に使用したお客様は、こんな感想を持たれています」などと、話の裏付けを示してあげると効果的です。
身体感覚型の人に対しては「使ってみてください」と実際に体験してもらうのが一番伝わりやすい。話すスピードもゆっくりめにして、考える時間をつくってあげることも必要です。
■4回目ではまだ売るな:お客様との接触は「質」よりまずは「回数」
心理学では繰り返し接触することが相手に対する好意を高めるという実験結果が数多く報告されています。
R・J・モアランドらは女子学生を集め、半分には1週間に1回、同じ男の子の写真を見せ、残りの半分には毎週異なる男の子の写真を見せました。これを4週間続けた後、男の子に対する好意度の変化を調べてみると、同じ写真を見たグループは好意度も信頼度も上がる一方、異なる写真を見たグループに変化はありませんでした。つまり、第一印象さえクリアできれば、基本的に人間は会えば会うほど好きになる。これを単純接触効果と言います。
ただし、4回か5回は接触しないと、相手に対する好意は出てきません。したがって、4回目ではまだ売るな、といえます。販促予算が10万円あるとしたら、5回広告を打つにはどうしたらよいかを考えたほうがいい。お客様のアポが取れたら、どうすればこの人と5回接触できるかを考えるべきです。前述したモアランドの実験では男の子本人に会わせたわけではなく、写真を見せただけです。接触は写真でもいいし、手紙でもメールでも構いません。
私が講演を行うときも、当日までに必ず5回以上接触します。初めての主催者、初めての場所、初めての聴衆を前に1人で話すのはアウエーもいいところです。そこで電話やメールを使い、1週間前に「開催日が近づいてきました。張り切って準備しています」と連絡したり、当日も「いま新潟駅を出ました。予定通り移動しています」と報告を入れたりして5回接触し、相手の私に対する無意識下の抵抗感を下げていくのです。
接触頻度を増やすのに役立つツールがフェイスブックです。友達リクエストしてつながっておけば、毎日でも「いいね!」ボタンを押して私がその人の近況を読んでいることを伝えられるし、コメントを書き込めば、さらに私のことが記憶に残るでしょう。こうしたやり取りはメールや手紙ではできません。礼状を毎月続けて送ったら「こいつは下心があるな」と思われてしまうでしょう。しかしフェイスブックならそうした嫌らしさがありません。
■番号にお金を払いたい人たち:全部揃わないと気がすまない
「無料サンプルを差し上げます」と広告を打ち、消費者に実際に使ってもらい、気に入ったら購入してもらうという販売方法があります。
私の妻もある無料サンプルを申し込み、そのまま購入するようになったのですが、それを見ていると面白い工夫がなされていることに気がつきました。
最初にサンプルでもらった瓶を見ると、一つひとつに番号が振ってありました。ただし、「1、2、4、6」というようにところどころ番号が抜けている。このようになっていると、人間の心理としては全部揃わないと気がすまなくなるのです。「きっと妻は抜けている番号の瓶を買うだろうな」と思っていたら、やはりそうなりました。人は番号にお金を払いたくなるのです。おそらくこの会社では意図して瓶に数字を振っているのでしょう。
また、私のよく行く酒屋にはワインが何百種類も並んでいますが、陳列棚に1、2本しか残っていないワインを見ると「この商品は売れているのだなあ。おいしいのかもしれない」と考えてしまいます。レンタルビデオ店ですべて貸し出しになっている作品があると「多くの人が借りているから面白いのだろう」と、見てみたくなります。
こうした心の動きには、心理学的には「同調行動」と「希少・限定の原理」が関係しています。前者は人が自分の行動を他者の言動に合わせたり、近づけたりする傾向のこと。後者は希少なものや限定されたものを手に入れようとする傾向です。要するに、残りわずかの商品があると「みんなが買っているから自分も買っておこう」「残りが少ないからいまのうちに買っておかなければ」という心理が働くわけです。
そう考えると、すべての商品が整然と揃っていることが商売として必ずしもよいこととは限りません。ときには一部の棚を空け、注文が立て込んでいる様子を見せることで、お客様にその商品が売れていることを印象づけることも大切です。
■相田みつを式お礼状:50円で営業訪問と同じ効果を生み出すコツ
講演の世界でカリスマ講師と呼ばれる人たちは皆、筆まめです。お中元やお歳暮を贈るとその日のうちにFAXが入るか、2、3日以内に手書きの礼状が届きます。
それを真似て私もまめに手書きで手紙を書くようになり、年間に2000枚くらい出しています。私は同じ主催者から講演のリピート依頼を頂くことが多いのですが、講演内容の質とともに「相田みつを式お礼状」が効いているのだと思います。
私の場合、用意しているハガキには顔写真と文章を書き込むための吹き出し、住所と名前、そして「ありがとう」の言葉を印刷しています。顔写真を入れるのは単純接触効果を得るためです。
吹き出しの枠はわざと小さめにしてあり、筆ペンを使い、枠から飛び出すように大きく文字を書く。筆ペンを使用するのは文字数が少なくてもボリューム感を出せるからです。私が使っているのはぺんてるの「つみ穂」。毛先を1ミリくらいカットして文字が太くなるようにしています。
文字の書き方は基本的に逆三角形をイメージして、漢字は大きくひらがなは小さく、一つひとつを揃えないようにします。こうするとヘタウマに見えるんです。イメージしているのは相田みつをさん。もともと私は字が下手なのですが、相田さんのカレンダーの上にコピー用紙を置いてなぞる練習を100回くらいしました。
ハガキにはあいさつと感謝の言葉をしたためます。「講演会にご参加いただきありがとうございました」という具合。追伸を加えることもあります。「手書きのハガキで仕事が取れるなら誰も苦労しない」と思う方がいるかもしれません。しかし現実にはお礼の手紙を書くのは100人中3人しかいないと言われています。手紙が効果的とわかっていても、皆さん継続ができないんですね。逆に継続して手紙を書くことができれば優位に立てます。手紙ならば相手に好印象を与えながら営業訪問に何度も行っているのと同じ効果を生み出します。しかもコストは1枚50円。DMに何十万円もかけてもそんな効果は得られません。
■お客の心をわしづかみ!お礼状を書く4つのコツ
【1】必ず筆ペンを使用
太い文字のほうが上手に見える。筆ペンのペン先1ミリをカットしてさらに太くするのがおススメ
【2】吹き出し枠からはみ出す
吹き出しの枠は小さめにしておく。枠から飛び出させることで、お礼状を受け取った相手はメッセージをたくさん書いてもらったという気になる
【3】下手ウマに見える「逆三角形」
字は上手でなくても構わない。文字は逆三角形をイメージして書くことで人懐っこさが出る
【4】漢字は大きく、ひらがなは小さく
大きさを揃えないことで、メリハリがつき、読みやすくなる
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酒井 とし夫
商売心理学の達人。1962年生まれ。広告会社勤務を経て独立。米国NLP協会認定NLPプラクティショナー有資格者。
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(ファーストアドバンテージ代表 酒井 とし夫 構成=宮内 健)
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