新興国への赴任命令に家族が反対。説得するには
プレジデントオンライン / 2014年7月31日 10時15分
■トラブルに遭うのは観光客のほうが多い
はじめて新興国に赴任すると聞いて不安に駆られる家族の気持ちはよくわかります。私が日商岩井(現・双日)に入社した1976年当時も、東南アジア諸国などではテロがあり、反日暴動が起きていました。そんななか私は、20年間、アジア、中近東、アフリカ、東欧向けの機械やプラントなどの営業を担当し、85年からはインドネシアのジャカルタ、その後はスリランカのコロンボにそれぞれ4年間ずつ駐在しました。帰国後は広報室で、ペルー人質事件や9.11テロなどでの危機管理にもあたりました。
忘れられない言葉があります。Low Profile――目立たない行動を心がけるように。ジャカルタへの赴任前に研修で教えられました。駐在員と家族は、現地スタッフや運転手のほか、ハウスキーパーや近隣住人、買い物先の店員など、多くの人たちと接します。付き合いには適度な距離感が必要です。横柄な態度をとれば反感を買いますし、友達のような関係ではトラブルを招きます。
いまも新興国では「日本人は金持ち」というイメージがあります。駐在員は立場をわきまえ、目立つ行動は控え、あらゆるルートで現地の情報を集めることです。自分の頭で考え行動すれば、ほとんどのトラブルは避けられます。だから長期滞在の駐在員より、短期滞在の観光客のほうが、トラブルに遭いがちです。駐在員が犯罪やテロに巻き込まれるのはあくまで例外的なものです。
とはいえ、私自身、あわやという体験をしたことはあります。ジャカルタでは事務所隣のホテルから日本赤軍メンバーが日本大使館にロケット弾を撃ち込みました。ガス爆発のようなものすごい発射音を聞き、テロ事件をとても身近に感じました。
コロンボでは93年5月に大統領が自爆テロで殺されました。その日、私は家族を連れて遠くのリゾートホテルに避難していました。実は、現地の取引先から「5月1日に大事件が起こる。コロンボから離れなさい」と忠告されていたんです。情報収集と適切な行動の大切さを痛感した出来事でした。ほかにも事務所のすぐ近くで海軍司令官の車が自爆テロにあったり、自宅から徒歩10分ほどの政府の庁舎が爆破されたり……。でも怪我ひとつしていません。
「日本は安全、海外は危険」という考えは間違いです。どんな国や地域にも危険は存在します。ただしやるべきことをやっていれば、過剰に神経質になる必要はありません。83年から26年間続いた民族紛争で7万人以上が犠牲になったスリランカでも、毎日コロンボでテロが起きていたわけではありません。日常はいたって平穏。私も家族も知人の駐在員も、テロに巻き込まれ、怪我を負うことはありませんでした。
日本では考えられないような新興国での体験は間違いなくプラスになる。駐在員を経験した人は、そう口を揃えるはずです。家族を説得する材料は、ほかにいくつもあります。
新興国への赴任では、日本よりも大きな権限が与えられ、環境の厳しい国では「ハードシップ手当」が支給されます。さらに物価の安い新興国では、日本では想像もできないような暮らしができます。スリランカの自宅は7LDKの一戸建て。運転手と3人のハウスキーパーがいました。子どもたちは全校30人の日本人学校でのびのびと過ごし、休暇には毎年、家族で海外旅行をしました。休日には友人たちとゴルフやテニス、ダイビングを楽しんだり、自宅でパーティを開いたりもしました。
何より効果的な説得は、赴任経験者の体験談を聞くこと。当会でも赴任経験をもつ専門家によるセミナーを開いています。日本では危険な情報ばかりに目がいきがちですが、多くの駐在員と家族は赴任先での生活を十分楽しんでいますよ。
(科学技術国際交流センター(JISTEC)上席調査研究員 西川 裕治 構成=山川 徹 撮影=プレジデント編集部)
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