サントリー×サッポロ「プレミアム先行参入組の次なる一手」【2】
プレジデントオンライン / 2014年8月19日 12時15分
今、活況を呈している数少ないカテゴリー「プレミアムビール」。
価格を高めに設定した高付加価値の「プレミアムビール」。サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」が主導し、サッポロ「ヱビスビール」が鎮座するこの市場に、昨年からアサヒビール、今年はキリンビールが新たに参入し、ギフトを中心に苛烈な販売競争が始まっている。
ただ、一様に“プレミアム”を名乗ってはいても、各社が持つバックグラウンドはおのおの異なる。大手4社の営業マンたちの奮闘ぶりを主眼にその違いをレポートする。
■生まれたときから「プレミアム」
東京・恵比寿。サッポロビールの本社地下に、「ヱビスビール記念館」という施設がある。入り口の巨大な金ヱビスの缶を横目に中に入ると、床に象られた巨大なヱビスのマークとロゴの向こうに金色の大きなタンク。茶を基調とした瀟洒な空間である。
サッポロビールの時松浩取締役・営業本部長の案内で、ヱビスビールの誕生から現在までを紹介するヱビスギャラリーを見学させてもらった。
1890年に生産が開始されたヱビスビール(当初は恵比寿麦酒)はドイツのビール純粋令(ビールづくりには麦芽とホップと酵母と水しか使ってはいけないという法律)にのっとって造られた麦芽100%ビールであり、すでに1900年にパリ万博で金賞を受賞している。時松が「ヱビスはきのう、今日生まれたプレミアムビールではありません」というのも、頷ける話だ。
展示品の中に夏目漱石の小説『210日』が並べてある。これは、登場人物が「ビールはござりませんばってん、恵比寿ならござります」と語る一節があるからだ。
サッポロビールにとってのプレミアムとは、いったい何なのか。
「ヱビスはすでに100年以上売っているビールであり、生まれたときからプレミアムなのです。同時にレギュラービールの1.5倍もの長期熟成をさせることで、深いコクを出している。100年を超える歴史とそこから生まれた文化、そして独特の深いコクは、他社さんには絶対に真似のできないものです」
時松によれば、今年のテーマはそのものズバリの「歴史とコク」。夏のギフト限定でアルコール度数が7%と高く、オンザロックで飲めるほどコクのある「夏のコク」を投入する。
ヱビスはここ数年、こうしたエクステンション商品をいくつも出している。現在も「シルクヱビス」「ヱビスプレミアムブラック」「薫り華やぐヱビス」コンビニ限定の「ロイヤルセレクション」があり、秋からは「琥珀ヱビス」が期間限定販売される。
「歴史ゆえに、敷居が高いと感じている方もおられると思うのです。一度ヱビスを飲んでみたいという気持ちはあっても、そんなにポンポン手が出るものではない。そうした方にエントリーしていただくために、ヱビスの側から新しい商品で情報発信をしているわけで、最終目的はやはり、金ヱビスをお飲みいただくことにあります」
これらのエクステンション商品は、プレモルにとっての「香るプレミアム」に似て、主ブランドたる金ヱビスへの導入役というわけだ。
「ビール類全体がコモディティー化していく中で、ビールそのものの価値をどう上げていくかは業界全体のテーマでもあります。サッポロビールとしてはヱビスにリソース(経営資源)を集中させて、広告のボリュームも3割ほど増やしていく予定です」
その甲斐あってか、今年のヱビスは昨年の「2割増し以上」の売れ行きで推移しているという。
■一にも二にも提案力に尽きる
では、サッポロの営業マンたちは、ヱビスの歴史をどのように販売に繋げているのだろうか。
千葉、埼玉、東京、茨城、栃木、群馬、長野、新潟の各生活協同組合の事業連合であるコープネット事業連合。サッポロビール広域流通本部で同事業連合を担当する伊藤寿俊(31歳)は、学生時代スキーに熱中。スキー場へ行く資金稼ぎのバイトで「サッポロ黒ラベル」と出合い、サッポロビールのファンになったという。
「昨年末から、ハレの日と呼ばれる祭事などのタイミングで、高単価商材がお客様に支持されるようになっています。ずっと景気が悪かったので、お客様は節約疲れをなさっています。お祝いの日ぐらいちょっと贅沢をしてもいいんじゃないかという心理が広がっているのだと思います」(伊藤)
格好の追い風が吹いてきたわけだが、ではハレの日をどう掴むのか。
「年初から夏の最盛期にかけて、プレミアムビールにとって最大のポイントになるのが父の日、土用の丑、お盆という3つのハレの日ですが、こと土用の丑に限っては、うなぎとヱビスの親和性の高さをバイヤーさんにご理解いただいて、弊社だけで催事をやらせていただきます」(同)
なかなか斬新なこの組み合わせを、誰もが当然のように受け入れそうだと思わせる源泉は、ほかならぬ“ヱビスの歴史”だと伊藤は言う。
「1971年にヱビスが復活したとき、われわれの先輩たちは徹底的に和食屋さんに営業をかけていきました。そうした昔からの積み重ねが、お客様の潜在意識の中に『和食にはヱビス』という組み合わせを浸透させてきたのだと思います」
バイヤー側はどう見るのか。同事業連合の佐藤裕之バイヤー(46歳)は、
「土用の丑になぜヱビスかといいますと、パッケージなんです。要するに鯛を抱えたヱビス様の、あのラベルですね。つまりヱビスは、和にピッタリという印象が一番強い。今年で3年目になりますが、私は自信を持って、土用の丑にはヱビスを使っています」
しかし伊藤は、決してヱビスの歴史の上にあぐらをかいているわけではない。佐藤によれば、伊藤の良さは一にも二にもその提案力に尽きるという。
「毎月持参する提案書が非常にシンプルでわかりやすく、今月売りたいものが明確。月間の計画が一目でわかる書き方なのです」
実は伊藤は、以前宣伝部にいてメディアが出してくる提案書を精査する立場にいた。「『この人の話ってすごいな』とパパッと感じるポイントがどこかを、肌で何となく感じていました。佐藤さんも多くの営業マンから1日何件も提案をもらうから疲れると思いますし、各社が出してくる過去のデータはだいたい似たようなものですから、よほど特筆すべきものしか付けません」。
そんな伊藤のパーソナリティを佐藤は、「フットワークがよく、言ったことをすぐ実現させる。ミスしても修正が速い」と評する。どんなミスを? と水を向けると、「たくさんありすぎて……」と2人して笑った。
「欠品に対するフォローが速い。その時点でしか手に入らない商品が品切れになったときに、こちらの無理をきいて、全国から追加分をかき集めてくれたこともある」と佐藤。伊藤は言う。「欠品は一番やっちゃいけないこと。社内でも奪い合いですが、その調整を行う部署とは『こういうときだけ言ってくるな!』と言われぬよう、日頃からコンタクトを取っています」。
今年、伊藤は佐藤にまったく新しい提案を行った。全国9万8000以上の小売店のチラシがスマホやパソコンで閲覧できる電子チラシポータルサイトShufoo!を使い、お盆(8月10日)に行うヱビスの推奨販売の告知を行う。
「販売だけでなく、集客までお手伝いしようということです。実験的な企画でコープネット様だけにご提案していますが、発案したのは社内のヱビスブランド担当部署なんです」
「新鮮な企画」と佐藤も絶賛するこの提案。過去に囚われている組織からはなかなか出てこないアイデアだろう。
「伝統、伝統といっても、新しいことをいろいろとやりながらの百何十年だと思いますので。今もそれは変わっていないところじゃないでしょうか」
控えめながら、佐藤はそう誇った。(文中敬称略)
(プレジデント編集部 永井 浩、石橋素幸、山口典利、村上庄吾=撮影)
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