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キリン×アサヒ「プレミアム新規参入組の挑戦と本音」【2】

プレジデントオンライン / 2014年8月21日 11時15分

「進化というのは、環境の変化に常に最適化し、生き残っていくこと」という小路。発売28年目にして初めてスーパードライの中身に手を入れた。「お客様やチャネルの変化に、常にスーパードライを最適化していけばいい」。

今、活況を呈している数少ないカテゴリー「プレミアムビール」。
価格を高めに設定した高付加価値の「プレミアムビール」。サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」が主導し、サッポロ「ヱビスビール」が鎮座するこの市場に、昨年からアサヒビール、今年はキリンビールが新たに参入し、ギフトを中心に苛烈な販売競争が始まっている。
ただ、一様に“プレミアム”を名乗ってはいても、各社が持つバックグラウンドはおのおの異なる。大手4社の営業マンたちの奮闘ぶりを主眼にその違いをレポートする。

■売れ行きを決める天気、人気、景気

さて、最後に登場するのは王者・アサヒビールである。1~6月のビール系飲料のシェア、5年連続トップ。ビールに限ればシェアは約50%と断トツの強さを誇る(キリンは約25%)。主力は無論「スーパードライ」である。

そしてアサヒは昨年、このスーパードライのプレミアム版として、ギフト限定の「ドライプレミアム(ドライP)」を投入。今年2月から通年販売に切り替えて、サントリーのプレモルが牽引してきたプレミアム市場に真っ向勝負を挑んでいる。

米国のクラフトビールでよく使われるというアマリロホップや、スカイゴールデン種・サチホゴールデン種といった国産の「ゴールデン麦芽」の使用、さらに「ひと手間かけた贅沢醸造」をアピールするドライP。昨年はギフト販売のみで21万ケース。今年の上期はすでに225万ケースを売り、中元ギフトは6月の計画に対する前年比で116.9%と絶好調の売れ行きを見せる。アサヒグループホールディングス(HD)小路明善社長が言う。

「一般にビールの売れ行きは天気、人気、景気の3つで決まると言われています。では人気とは何かといえばブランド力。車のように機能性が重要な商品に比べると、嗜好品のビールはどうしてもブランド力の影響が大きい。私は、この人気と景気を徹底的に分析してからプレミアム市場に参入しないと、絶対に成功できないと考えたのです」

そもそもプレミアムと名乗り、相応の価格をつけるからには、ビールそのものの高いスペックは必須だろう。ドライPのスペックを覗いてみると、他の3社のプレミアムビールはすべて麦芽100%であり、プレミアム=麦芽100%がほぼデファクトスタンダードといえそうだ。だが、ドライPは、スーパードライと同じキレを出すべく副原料を使っている。

「そこは否定はしませんが、お客様が麦芽100%か否かでビールを選んでいるかといえばそんなことはない。もしそうなら、初年度からドライPがあれだけご支持を得るはずがありません」

無論、スペックが必ずしも売り上げに直結するとは限らない。そこから人気という不確定な要素が視野に入ってくる。

「ビールの味は酵母によってまったく変わりますが、ドライPにはスーパードライと同じ318号酵母を使っています。スーパードライのブランド力を使えば、間違いなく人気が出ると考えたのです。だって、スーパードライのプレミアムが出たといえば、誰だって一度は飲んでみようと思うでしょう」

小路はそう断じる。しかし、スーパードライをベースにしたドライPを併売すれば、ドライとドライPの間でカニバリ(共食い)を起こす危険が生じるのでは?

「実は今年、5年がかりで優良な酵母のみを抽出する技術を開発し、スーパードライの物性価値を上げたのです。スーパードライは発売28年目に入りましたが、味に手をつけたのは今回が初めて。今販売しているスーパードライは進化バージョンなのです。我々はスーパードライを進化させつつ、ドライPの通年販売に踏み切りました」

この戦略によって、カニバリを最小限に抑えることに成功した、と小路は言い切る。

■スーパードライを磨いて足したもの

大出バイヤー(右写真・左)は門間(同右)について「1回つくった売り場に満足せず、もっとよくするにはどうしたらいいかを常に考えている」と。

では、アサヒの営業マンたちは、ドライPの絶好調ぶりをいかにして実現させているのだろうか。

群馬県館林市。サントリーの利根川ビール工場が近くにあって、伝統的にサントリーが強いとされるこのエリアで、アサヒのシェアを大きく伸ばした営業マンがいるという。アサヒビール群馬支社の門間真一(33歳)である。

実は門間、某家電メーカーからの転職組だ。09年にアサヒに転じ、翌10年、このサントリーの牙城に送り込まれている。

「自分に人材としての市場価値がどれくらいあるか試してみたくて、転職を決意いたしました」

門間が担当するのは、北関東を中心に56店舗を展開するスーパー「とりせん」である。とりせんのバイヤー、大出俊幸(37歳)は、「最初は線が細そうな営業マンで大丈夫かなと思ったけど、意外に頼り甲斐がありました」と笑う。

あるとき、比較的安価な商品中心だったワイン売り場で、景気回復とともに価格の高い商材のニーズが発生した。

「じゃあ、どうやってそのステージを上げていくかに悩んで、門間さんも含めた弊社に投げかけたんです」

それらのアイデアを融合して一つの売り場にしようとしていた大出だが、門間の提案を見てその考えを一新した。

「各社に伝えたイメージを、より素晴らしい形にして提案してくれたのが門間さんだったんです。自社の商品というより、売り場を軸に考えてることをすごく感じました」

「プレミアム戦争に勝ったところがビール戦争に勝つ」とみずからデパート店頭に立つ小路。

そんな大出が言う通り、門間最大の武器は、販促提案の精度の高さだ。

「バイヤーさんから季節に合った売り場のテーマはないかと聞かれた際、バイヤーさんのイメージにピタリと合致した売り場の演出をご提案するのです。最初は精度が低かったのですが、何度もやりとりするうちにバイヤーさんのご要望と私のイメージが非常に近くなりまして、ご要望をいただく前にこんなものはいかがですかとご提案できるまでになりました」

“バイヤーが2人いる感じ”と言われるまでに大出の信頼を得た門間は、月例で行われていたとりせんとの商談を、年間で数値目標を握るところまで深化させることに成功する。「ダントツ取り組み」と銘打って、昨年は前年比107%、今年は105%という販売金額の目標を握った。

6月には大出と一緒に米国の視察に出かけ、その成果をすぐさま共有。精肉売り場でバーベキュー用のプレミアムな牛肉とドライPを関連づけて販売するという斬新な企画に結びつけた。

大出は、ドライPをどのように評価しているのだろうか。

「断トツブランドのスーパードライを否定しかねない商品を出すのは、最初ありえない話だと思いました。でも飲んでおいしいし、デザインもプロモーションも最高。これで売れないわけがないと思ったとき、これはスーパードライの否定じゃなくて、磨いて足した商品だと理解できた。だったら今売るのはこれしかない。これまで想像できなかったような数字を出してやろうと」

門間が「大成功でしたよね」と言えば、大出も笑顔を見せる。

「大成功だったね。この商品一品でビール全体の売り上げも利益も上げちゃったからね。感謝しています」

“プレミアム戦争”での勝ち残りを模索すると、どの社も最後はブランドの原点に回帰する。現場はそれを理解し、伝え、すべてのステークホルダー(利害関係者)を幸せにすべく日々奮闘する――そのあたりは、何もプレミアム商品に限ったことではなさそうだ。(文中敬称略)

(プレジデント編集部 永井 浩、石橋素幸、山口典利、村上庄吾=撮影)

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