再就職支援の実態と3つの成功条件
プレジデントオンライン / 2014年9月30日 10時15分
これまでの経験を活かして、働き続けることはできるか──。人事を知悉する2人の助言から、雇用市場の実態が見えてきた。
■数カ月の遅れで「長期失業者」になる
35歳が「転職適齢期」といわれるように、中高年の再就職は依然として厳しい状況にある。だが、再就職は「不可能」ではない。問題は「いくら欲しいのか」という点だ。
キャリアカウンセラーの中村卓夫氏は「大企業から中小企業に移る場合には大幅な年収減を覚悟しなくてはいけませんが、退職時の年収が1000万円ならば、500万円での求人はかなりあります」と語る。
また、再就職支援大手のパソナキャリアカンパニーの渡辺尚プレジデントは「当社がお世話をしている方は40代、50代が80%を占めています。しっかりと再就職活動をしていただければ、定年後も再就職は十分に可能です」と話す。
では再就職を成功に導くにはどうすればいいのか。渡辺氏は「逆算して準備を進めることだ」という。
「すぐに活動を始めることが重要です。退職後、2週間以内には職務経歴書を書き上げたいですね。失業手当をもらって、しばらくはのんびりしたいと思うかもしれませんが、そういう人は長期失業者の予備軍になりかねない。40代、50代の人は数カ月の『休み』が命取りになります。能力が落ちるうえに、多くの企業は職務経歴での空白期間を嫌うからです。たとえば活動期間を3カ月と決め、入社日を4月1日とした場合には、3月15日までの内定が目安になります。そうやって逆算してスケジュールを決めていくのです」
渡辺氏は、再就職先を選ぶポイントとして、(1)できること、(2)やりたいこと、(3)労働マーケット、(4)制約条件(年収など)──の4点に分けて検討するべきだという。
「『年収は800万円は欲しい』とか『転勤はしたくない』といった制約条件について、それを満たす仕事が労働マーケットにあるのかを客観的に判断することです。そのうえで、保有するスキルや経験、自分がやりたいことについて検討を重ねながら最適な転職先を選ぶことです」
もちろん企業が最も重視するのはスキルなどの専門性だ。中村氏は「自分の能力を過信するな」という。
「自分の専門性を過信している人が多い。これまで自分が発揮した実績が本物なのか、偽物なのか。あらためて顧みてください。たとえば勤務していた会社の看板やブランド、優秀な上司や部下のサポート、そういったものが自分の実績にどれぐらいの影響を及ぼしていたのか。一人になったときに、これまで通りの実力を発揮できるのでしょうか」
転職先を絞り込む場合には、その企業のビジネスモデルや仕事のやり方が、自分と合っているかどうかを調べることも重要になる。とくに大企業出身者が中小企業を目指す場合、オーナーや経営トップの才覚と品格について、クチコミや各種報道などから調べてほしいと中村氏はいう。
「トップの外面と内面をよく吟味すべきです。外では『人を大事にします』などと格好のいいことをいっていても、実際の経営ではまったく違うことをしている経営者もいます。入社してから『もうあの人のポリシーについていけない』と相談に来る人は多いです。離職率などのデータは優先して集めておくべきでしょう」
■4人に1人は「挨拶回り」で就職
そもそも自分の持ち味とは何か、自分に合った会社とはどこかについて分析できる人は少ない。渡辺氏は「第3者からアドバイスを受けるべきだ」、中村氏は「『マイカウンセラー』を持つべきだ」という。
「人材紹介業」を営む企業は1万以上にのぼる。キャリアについて助言をする人間も、人材紹介会社からハローワークまで多種多様だ。いったい誰に相談すればいいのか。中村氏は「若い人よりも、事業会社でのマネジメント経験があるような人がいいでしょう」と話す。
「無料相談を標榜するカウンセラーはたくさんいますが、歩合制で紹介案件を増やすほど報酬が増えるという仕組みの人材紹介会社もあるので注意が必要です。とくに人材紹介一筋という人は、実務を把握していないケースがある。たとえば同じ『生産技術』でも化学と機械ではまったく違うんです。さらに大企業と中小企業の双方に籍を置いた経験のあるカウンセラーであれば、過大な夢を抱かせることなく適切なアドバイスができると思います」
転職先の情報は、あらゆるツールを使って集めるべきだ。まずはいろいろなサービスに触れてみることが重要だ。そのうえで、渡辺氏は「とくに有効なのが、友人関係、とくに前職での人脈です」と話す。
「会社を辞めてから3カ月以内に再就職が決まった人の約4人に1人は友人や知人の紹介がきっかけなんです。ですから会社を辞めたら、仕事の取引先を含め、あらゆる友人・知人に対して『挨拶回り』をすることです。その際、前向きな言葉で接するといいでしょう。『今回こういう事情で退職しました。元気に就職活動していますので、いい情報があったら教えてください』と溌剌とした感じで話す。そうすると場合によっては、『じゃあ、うちに来ないか』という話になるわけです」
こうした「挨拶回り」は、すぐに実行したほうが効果が高い。リストラのような状況で退職した場合には、腰が重くなりそうだが、半年、1年と間を置けば、さらに状況は悪くなる。長く決まらなければ、悲壮感が漂うようになり、相手側もなかなか声をかけられなくなる。時間を置いても、いいことは一つもない。
人脈活用については中村氏も「とにかくプライドをかなぐり捨てて、元上司を拝み倒して紹介してもらう、親類縁者に町会議員や有力者がいればそのツテを辿って探すぐらいの覚悟が必要」と指摘する。
■「米国公認会計士」は有利になることも
再就職では経験とキャリアなど専門性が重視されると前述したが、その意味で「資格」は役に立つのだろうか。渡辺、中村両氏の見解は、「評価の参考にはなるが、決定打にはならない」と共通する。
「うちのような人材サービス会社では『産業カウンセラー』は有利ですし、介護関連の会社では『介護福祉士』の保有は意味があります。でも、あくまでもそれは参考程度。たとえば『中小企業診断士』は、難しい資格ですが、取得者がとくに有利になるわけではありません。会社を辞めた後、突然資格試験の勉強を始める人がいますが、お勧めはしません。それより1日も早く再就職活動をすることが大事です」(渡辺氏)
「人事は、『資格は正味の実力とは無関係』と見ています。採用の決め手にはなりません。語学力をアピールするうえで『米国公認会計士』はプラスになりますが、『中小企業診断士』や『社会保険労務士』であれば、ないよりはあったほうがよいというレベルです」(中村氏)
再就職活動は「転職なんか一度も考えたことはない」という30代も決して無縁ではない。常在戦場。いまは、いつ会社に放り出されるかわからない時代である。中村氏は「転職すればうまくいくのではなく、日頃からうまくやっている人が転職できる」と話す。
「部下の信頼が厚く、会社での困難な課題をしっかりと解決できるマネジャーであれば、人の使い方もうまいし、自分のアピールも上手にできる。そういう人は転職もうまくいきます。会社の中で自分はどんな役割を果たし、どんな貢献をしているか。それを普段から意識できている人は、再就職でも違いますね」
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1964年生まれ。89年テンポラリーセンター(現・パソナグループ)入社。93年人材交流システム機構を設立。2010年より現職。
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(ジャーナリスト 溝上 憲文 プレジデント編集部=撮影)
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