24年のキャリアで3度目の別居ファミリー -P&Gジャパン 執行役員 石谷桂子さん【2】
プレジデントオンライン / 2014年9月29日 9時45分
■母娘3人でのアメリカ赴任
2006年にP&Gのアメリカ本社に勤務することになり、わが家は再びスプリット・ファミリーになりました。小学校に入る長女と4歳になろうとする次女を伴っての海外母子赴任です。
そこには、神戸に赴任するよりもいいと考えた理由があります。私が働きながらでは、どうしても子守りなどのサポートが必要となる。その場合、日本国内よりアメリカのほうが、お金はかかるけれどベビーシッターなどのサポート体制がはるかに充実しているのです。
私としては、アメリカ本社で経営陣がどのように意思決定しているのか、この眼で見て勉強したいという気持ちがありました。だから主人には「2年か3年で日本に帰るから」と話して出発したのです。
シンシナティの本社では、ペットケアのグローバル戦略を担当しました。犬や猫の商品は、国による大きな違いはありません。体格の違いぐらいです。面白いことに、ペット向け商品は、私たち人間のトレンドを追いかけます。例えばオーガニック食品が人間で流行れば、ペットフードにもそのトレンドはいずれ訪れるということです。
ちょうど赴任から3年目の2009年、グローバル規模での組織変更があり、日本を含むアジアの商品開発やマーケティングの統括拠点が、シンガポールに集約されました。私のキャリアではシンガポールに移ることも考えられましたが、アメリカの上司から「もう少しいてくれ」と言われました。当初2~3年のつもりが、結局は約7年間のワーキングビザをほぼフルに使って2013年までシンシナティの本社で働くことになります。その間に1年ほど主人がアメリカ駐在となり、シンシナティとは車で行き来できる距離でしたから、家族のスプリットが少し縮まった時期もありました。
■人種の坩堝に見るダイバーシティ
私は「郷に入れば郷に従え」で、いつもその組織の人間になろうと努めます。日本人だからといって“お客様”のつもりでは働けないのです。
アメリカ本社にあったダイバーシティの取り組みにも積極的に参加し、私はアジア系アメリカ人のダイバーシティグループに所属し、若い社員が辞めないようにメンター役となったり、トレーニングに積極的に参加したりと、組織の役割も積極的に果たしました。
日本企業でダイバーシティといえば、まだ女性が主な対象ですが、アメリカではヒスパニック、アフリカンなどのマイノリティーも対象になります。例えばヒスパニックは、マイアミなどで大きなコミュニティーができて、ラテン・アメリカの文化が広がっている。彼らを深く理解し、商品に活かさなければ、シェアはのびません。
私たち日本人はモノカルチャーで育ちますから、コミュニケーションでも相手に理解されるのが当然だと思っています。同じアジア人という括りでもインド人、韓国人、中国人のハングリーさは、日本人にはなかなか理解できない。グローバル時代には、カルチャーが違う人たちにどうインフルエンスしていくかはとても重要になります。私は男女の雇用にも関心はありますが、これから日本人がどのように世界へ出ていくかにはもっと興味があります。
■執行役員となって3度目のスプリット
アメリカ勤務の7年目、日本本社でブランド・オペレーションズ担当の執行役員が転職し、日本に戻ってこいと言われました。執行役員になり、国内のマーケティングなどを統括する立場となるのです。
ここでまた1つの選択を迫られます。神戸本社に勤務するか、東京オフィスに勤務するか。以前と違って、マーケティング担当者のおよそ7割が神戸、3割が東京に勤務しています。
中学生と小学生になった子どもたちは、サンタさんにお手紙でお願いしたほど、たくさんの友達がいる住み慣れたアメリカに居続ける事を希望し、はじめは日本に戻りたがりませんでした。東京に住むにしても神戸にしてもアメリカン・スクールに通わせるという条件で何とか納得してくれました。
私は考えに考えた末、神戸へ週の何日間か単身赴任することに決めました。部門のトップとして、やはり7割のスタッフがいる本社に勤務すべきだと判断したのです。
これで3度目のスプリット。
母子赴任で神戸に住むこともできましたが、国内外の出張が多くなるのはわかっていましたから、娘たちだけで夜を過ごさせるのは避けなければならないと考えたのです。
主人はいきなりティーンエイジャーの娘2人を任されると聞いて驚きました。
「そんなの無理だよ」
「いやいやいや、赤ん坊の頃と違ってもうオムツ替えたり、寝かしつけたりしなくていいんですから。食事も身のまわりのことも自分たちでちゃんとやれますから」
そう説明して納得してもらいました。現在は週4日は神戸で一人暮らし、金曜からの3日は東京で家族と暮らすペースを守っています。
わが家は主人と私のデュアルキャリアで進んできましたが、どちらをリードキャリアにするかは決めていません。その時々でお互いの希望をできる限り満たし、折り合いがつく形、家族にとって最適な形を突き進める。そういう考え方ができたから、25年近くこの会社で働くことができたのだと思います。
女性が活躍できるP&Gでも、90年代はまだ結婚して退職した人も多くいましたし、出産後にブランドマネジャーとして戻ってきたのは私が最初でした。家族に協力してもらい、頑張ってこられたのも、やはり仕事にやりがいを感じていたからです。
■仕事は人生に組み込むもの
私は個人的には「ワークライフバランス」という言い方は好みません。それは仕事と人生をきれいに分けて等価にするようなイメージだからです。
私の実感からいえば、仕事は人生に組み込むものです。自宅に仕事を持ち帰り、リビングでパソコンに向かうこともたびたびあります。「これから仕事だから話しかけないで」と言って、テレビを観る娘たちと一緒に居ながら仕事をします。これは一般的なワークライフバランスとは違うでしょう。もちろん、一緒に旅行したり遊んだりするときは仕事のことは忘れますし、クラブ活動の試合などは応援に行きます。どうしても仕事で子どものイベントに参加できければ、前もってちゃんと話して納得してもらい、どこか別のところで埋め合わせするのです。
そうでなければ、女性でも男性でも仕事で与えられた自分の役割を全うすることはできません。
「もっと高いお給料は欲しいけど、責任ある役職に就きたくない、エキスパートを目指して血がにじむ努力なんてしたくない」
そういう“いいとこ取り”はありません。ここに男女の違いはないと思います。
マネジャーになってから自分の仕事は、部下やチームを光らせてあげることだと考えています。会社から高い目標が与えられると、自分がどれだけ盾になって部下と一緒に結果が出せるかが問われる。そこの頑張りがあるから、「この上司についていきたい」と思われる上司になれるのだと思います。
いま目標としているのは、優秀な部下の中からアジアや世界で力を発揮するブランドマネージャーが育ち、更に上の立場へ成長していってくれることです。もちろん機会があれば、私自身もまた海外へ出て世界で活躍したいと考えています。
(P&Gジャパン 執行役員 石谷 桂子 伊田欣司=構成 向井 渉=撮影)
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