ニート株式会社「倒産間近?」の真相 ~愛と憎しみの焼畑農業
プレジデントオンライン / 2014年10月3日 15時15分
若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。若新ワールドhttp://wakashin.com/
■倒産間近ではなく、「爆発間近」です
全員がニートで取締役のNEET株式会社が設立されて約10カ月(会社については、連載第1回 http://president.jp/articles/-/12343 などを参照)。最近では、僕が新しく企画・提案している週休4日の「ゆるい就職」の話題なども相まって、毎日のように賛否両論が寄せられます。そんな中、先週あたりに、NEET株式会社の取締役メンバーを名乗る匿名の“暴露ブログ”を発端として、「ニート株式会社倒産間近か?」というようなニュース(?)がネット上で飛び交いました。
まず、会社の代表者として最初にお伝えしておきます。「倒産間近」は到底ありえません。借金なしで固定費もない会社です。違法なことでもしない限り、倒産しようがありません。でも、あえて言うなら、常に「爆発間近」です。
何が「爆発」しそうなのか? それは、一人ひとりがもつ、人間の感情です。
今回、取締役を名乗る一人が、無断で社内状況の一側面を“暴露”し、いろいろな意味で、世間は「ダメだこりゃ……」となったわけです。記載については、正しい部分もあったし、間違っている部分もあります。「土下座」まではしていませんが、僕が頭を下げたことはたくさんあります。とにかく、間違ったら謝る。帰り道、気分が重くて、ずっしり凹んで、チクチクする感覚を抱えながら、うじうじ反省する。それだけのことです。
それだけのことですけど、全てに「相手」が存在します。言葉、表情、感情……。全部が一つひとつ生きていて、だから辛いし、悲しいし、もちろん、だから嬉しい事もある。人間が人間として生きていくっていうのは、そういうことですよね?
騒動をうけ、“暴露ブログ”は書き換えられ、そこには「僕は会社を愛しています」と記されていました。
「じゃあ書くなよ!」って話ですが……、愛するほどに、壊したくもなるものなんでしょうか? それは執着? それともただの憎しみ? 僕たちは一体、何を求めて、何をつくって、誰に何を伝えるために生きてるんでしょうか。ちなみに、僕には「答え」はわかりません。だから、この会社をやっています。
無責任ですか? じゃあ、「答え」がわかっていることだけをやるのが、責任ある行為なんですか? そもそも、本当に、わかるんですか?
■愛と憎しみの焼畑農業
ほかのすべてのプロジェクトでもそうですが、僕は毎回みんなに、とても実験的であること、リスクがあることをきちんと伝えています。そして、僕自身がその実験台の一人です。一緒に実験台になってくれてもいいのか、それを問うています。何も隠しません。その上で、選択しているのは本人たちです。それでも、そんな「選択をさせる」ことが無責任だとでもいうのなら、そんな大人のいう責任なんて、ただのうぬぼれですよ。
この会社は、その実験の「極み」です。疑いようのないような当たり前のルールやヒエラルキーすらも全部とっぱらってみて、全部ゼロからつくってみる。一人ひとり求めるものは全然違うし、大切にすることも違う。
交錯する思惑や感情のエネルギーは、そりゃもう半端じゃないです。喜び、悲しみ、怒り、妬み……。現時点で、なんの評価にも値しないかもしれない。それでも、全部が生きてます。絶えず衝突して、時にはお互いを激しく傷つけあったりもします。
あのですね、僕だってとっても怖いですよ。「やり方」とか「セオリー」なるものに逃げたくなる時もありますよ。剥き出しの感情と向き合うのは、そして自分からも剥き出てくる感情と向き合い続けるのは、楽なことじゃないです。それでも、多少傷つけあったとしても、それでただ右往左往しているだけのように見えても、死んだように生きているやつなんかより、はるかにマシです。そこには、一人ひとりの選択と覚悟があるんです。それ以上に尊いものなんかない。
今回のニュースをふまえ、ある学者さんが僕の一連の活動を指して、「まるで焼畑農業のようなものだ」と言ったようです。
はっきり言います。僕がやっているのはまさに「焼畑農業」です。
「うね」もなければ、栽培計画もない。肥料もないし、水のまき方も分からない。それでも、笑うかもしれませんけどね、バカにするかもしれませんけど、自然の回復力を、人間の原始的な生命力を信じてるんですよ。根と根がつながる日を、信じているんです。それに、僕自身がその農地の一部です。焼かれれば熱くて痛いし、芽が出なければ、不安で孤独です。でも、まだまだ人間を辞めたくない。
この騒ぎの影で、コツコツと仕事を始め、前向きな相談にくるメンバーもいます。これを機に、いろいろ立てなおそうと奮闘するメンバーもたくさんいます。そしてもちろん、これからのことが不安だったり、今なおめちゃくちゃ怒ってるメンバーもいたりします。壊れるものがあって、そして産まれるものもある。いずれにしても、明確な答えや出口なんてわかりません。繰り返しますが、だから、わからないから、やってるんです。それでもやり続けることが、僕の責任です。当事者たちは、ここにいるんですから。
はっきり言います。答えを知ってるかのように振る舞ってるやつなんか、リスクがわかってるかのように振る舞ってるやつなんか、やり方を、やるべき方法をわかってるように振る舞ってるやつなんか、僕は1ミリも信じてません。勝手に、ふわふわ踊ってればいい。
愛も憎しみも、僕たちが生きている、生きようとしている実態そのものです。
■人間のリアルに怯える弱虫たちへ
笑えばいいし、バカにすればいい。でも、そんなに気になってしかたないなら、一度来ればいいじゃないですか。そんな遠いところからキャンキャン吠えてないで、僕たちのリアルを、その場で、面と向かってけなしに来ればいいじゃないですか。
無理でしょうね。怖いでしょうね。ここでは、立場やルールや常識なんてものは、何も守ってくれませんよ。あるのは、あまりに生々しく、痛くて、愚かで醜くて、時には美しい、人間の生き様そのものです。「消化試合」を抜けだして、不安で、険しくても、確かな感触のある時間を、それぞれが覚悟して生きているリアルです。「ニート」とか、「JK」とか、もっと言えば「若者」とかいった”総称”では何も語れませんょ。何一つわかりませんよ。一人ひとりの「人間」が生きてるんです。
それはただの感情論? ただの精神論? 僕たちは、「わかったつもり」でいるために、学んだり、教養を身につけてきたりしたんですかね? 理屈や理論の牙城に閉じこもって、そこからしかものを言わないなんてのは、人間に、人間らしさに、一人ひとりの人間が生きるというリアルに怯えた弱虫のすることですよ。そのことに気づいてもいない、そんなやつらのいう「妥当性」や「信頼性」なんて、クソ喰らえですよ。
そして、何を隠そう、僕もその弱虫の一人でしたよ。いや、弱虫の一人ですよ。だから、わかろうとしたし、ずっとわかったつもりになろうとしてたし、今もなお、それは葛藤の最中です。中途半端な理屈しかないけど、それはいつか、このリアルの中に少しでも還元させてもらことができたら、それでいい。
ある時までは豊かで幸せだった僕たちの日常も、どんどん変化して、ぬるま湯の中で生かされて、安全で窮屈な枠に飼い殺されて、このままじゃ未来がないってことは、誰だって気づき始めてるはずです。それでもなお、理屈で塗り固められた虚白の世界をグルグルループして、始める前の答え探しばっかりやって、これじゃあ、いつまでたっても弱くてさみしいままです。
僕に、僕の一連の活動に、誰かのセーフティネットをつくってあげようなんて気持ちは微塵もありません。そんな偉くはないし、なにより僕自身が、この弱さや苦しみから救われたくて、報われたくて、未熟さを、愚かさをなんとかしたくてたまらない。だから、一緒に生きて、向き合って、戦ってくれる人を集めているんです。僕も、当事者の一人です。
千切れそうになっても、目を背けません。まだまだ、もっともっと、弱く、醜く、人間らしく生きてみせますよ。
(慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役 若新 雄純)
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