インフルエンザの予防注射は打つべきか? 効果はあるか?
プレジデントオンライン / 2014年10月4日 12時15分
■予防接種は本当に効果があるか
皆さんは、毎年、インフルエンザの予防接種を受けているだろうか。
デング熱に対する心配がまだ渦巻いていた9月、千葉県君津市、島根県出雲市、東京都日野市、岐阜県美濃加茂市の小中高校で、早くもインフルエンザの集団感染による学級閉鎖が相次いだ。インフルエンザの流行は例年12月から翌年3月くらいまでだが、予防注射を受けるか、打つとしたらいつがいいのか悩ましい。身近にも、予防注射を打ったにも関わらずインフルエンザにかかった例がある。インフルエンザワクチンは本当に効果があるのだろうか。
実は、インフルエンザの予防注射には、感染を予防する効果はない。感染とは、ウイルスが鼻や口の粘膜から体に入り細胞内で増殖することだ。とはいえ、厚生労働省の研究班の報告によれば、インフルエンザの発症と重症化を抑える効果はあるという。そもそもインフルエンザワクチンは、接種を受けた人の体にウイルスを排除する抗体を作り、同じウイルスが入ってきたときにそれを攻撃して発症や重症化を抑えるものなのだ。
研究班の分析では、65歳以上の高齢者はインフルエンザワクチンの接種によって発症リスクを34~54%、死亡リスクを82%減らせる。また、0~15歳では1回接種で68%、2回接種で85%、16~64歳では1回接種で55%、2回接種で82%の発症予防効果があったとする報告もある。
ただ、どの年齢でも効果が100%ではないことに注意が必要だ。はしかや風疹、水ぼうそうなら、1回でもかかったことがあったり必要な回数のワクチンを接種したりしていればほぼ100%予防できる。
ところが、インフルエンザワクチンに関しては乳幼児や高齢者は抗体ができにくいうえ、インフルエンザウイルスは毎年少しずつ顔つきを変化させる。そのため、予防接種を受けていても発症したり、インフルエンザに1回かかった人でもまた翌年かかったり、同じ年にA型インフルエンザとB型の両方にかかって2回もインフルエンザに苦しんだりといった事態が起こる。
■なぜ発症率、重症化率が下がるのか
ご存知の人も多いと思うが、インフルエンザにはA、B、Cの3つの型があり、そのうち世界的な流行がみられるのがA型とB型だ。インフルエンザワクチンのウイルス株の内容は、毎年WHO(世界保健機関)が決めた推奨株の情報をもとに、日本国内の専門家がその年の流行を予測して決めている。現在の予防注射は、2009年に新型インフルエンザとして猛威をふるった「A/H1N12009」と香港A型、B型の3種類を混ぜたワクチンだ。ちなみに、H1N12009によるA型インフルエンザは昨年も大流行したが、現在では新型とは呼ばれていない。
ウイルスが変化するのは、こうした予防注射や抗ウイルス薬に撃退されずに人間の体の中で増殖して生き延びるため。予防注射や抗ウイルス薬でウイルスを撲滅しようとする人間とそれでも何とか生き延びようとするウイルスとのイタチごっこが続いているわけだ。今シーズンのインフルエンザワクチンのウイルス株と流行するウイルスに大きな違いがなければ、つまり予測がはずれなければ、それだけ発症率、重症化率も下がると考えられ、予防注射を打つ意味も大きくなる。
ワクチンの主な副反応は、注射したところの赤み、腫れ、痛みが最も多く10~20%、発熱、寒気、だるさといった症状も5~10%の人に起こる。まれに、アナフィラキシー・ショック、発疹、じんましんといったアレルギー反応が出る場合もあるので要注意だ。
インフルエンザの予防注射を受けるかどうかは接種効果の数字をどう解釈するか、そして、年齢、家族構成、職業、アレルギー体質かによっても左右されそうだ。インフルエンザによって乳幼児は脳炎・脳症、65歳以上の人は肺炎になるリスクが高いので、予防接種でできるだけ発症・重症化を抑えられるならそれに越したことはない。肺炎を予防する23価肺炎球菌ワクチンがあるが、インフルエンザワクチンを接種しただけでも肺炎の重症化と死亡率を低下させるとの報告が複数出ている。例えば、65歳以上のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を対象にした研究では、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンと併用したときはもちろん、インフルエンザの予防注射を接種しただけでも、何もしなかったときより入院のリスクを半分以下、死亡リスクは5分の1に抑えられた。
■効果の持続期間は5カ月程度
65歳以上の人と60~64歳で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能に障害を有する人(身体障害者手帳1級程度)は、国が接種を強く推奨する「定期接種」の対象になっており、一般的に、ワクチンで強い副反応が出たことがある人以外は、受けたほうがよいだろう。米国では、乳幼児や高齢者、基礎疾患のある人が家族にいる人、医療関係者などそういった人たちと接する職業の人にもインフルエンザワクチンの接種が推奨されている。
特に持病もなく元気な10代~50代なら、インフルエンザになったとしても1週間くらいで回復する。「それなら予防接種は必要ない」と考えるなら、「受けない」という選択もありだろう。受験生とその家族、仕事が忙しくて1週間も休んでいられない人は、少しでもリスクを減らすために接種を受けたほうが無難かもしれない。
接種は生後6カ月~13歳未満は2回、13歳以上の人は1回が基本。基礎疾患のある人などリスクの高い人は医師と相談のうえ2回受けたほうがいい場合もある。ワクチンで抗体ができ始めるのは接種後2週間程度経ってからなので、大流行が始まる12月くらいまでに接種を受けておいたほうがいいとされる。毎年接種が必要とされるのは、効果の持続期間は5カ月程度と短く、昨シーズンと今シーズンのワクチンは内容が異なるからだ。
費用は医療機関によって異なるが、ワクチンの内容は同じなので、私自身は近隣の医療機関のホームページを見て比較し、最も安価と思われるところで接種を受けている。定期接種の対象になっている65歳以上の人と60~64歳未満で一定の障害のある人は、市区町村で10~12月あるいは10~翌年1月くらいまで助成が受けられ自己負担が軽減される場合が多いので、住んでいる市区町村の窓口に問い合わせてみよう。例えば、東京都千代田区は定期接種の対象になっている人は期間内なら自己負担なし、新宿区は2200円(75歳以上と生活保護世帯の人は無料)で接種が受けられる。
(医療ジャーナリスト 福島 安紀)
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