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「ローカル企業の年収100万円アップ」戦略【2】 -対談:経営共創基盤CEO 冨山和彦×田原総一朗

プレジデントオンライン / 2014年10月16日 11時45分

冨山和彦氏

日本が元気を取り戻すためには、グローバルよりローカル経済圏の立て直しが欠かせない――。そう主張するのは、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏。なぜローカルが日本経済復活のカギを握るのか。田原氏が核心に迫る。

■最低賃金を払えない企業は退出

【田原】安倍さんは、アベノミクスで地方を創生するといっています。僕は地方にお金をばらまくだけになるんじゃないかと心配しています。冨山さんはどう思う?

【冨山】政策担当者の頭の中には20年間のすり込みがあって、いまでも需要が不足しているという感覚が残っている可能性があります。そうすると、ばらまきになるでしょうね。法人税の減税もそうです。単純に法人税を下げればいいという話ではないですよ。

【田原】税制は変えなくていい?

【冨山】企業が生産性を高めることに対してエンカレッジする税体系に変えるならいいんですよ。いま日本で法人税を払っているのは約30%です。つまり儲かっている生産性の高い会社だけが税金を払っていて、生産性の低くて利益が出ていない会社は払っていないのです。これでは企業は生産性を高めようという気になりません。生産性が高かろうが低かろうが、みんなが薄く広く税金を払う税制にしたほうがいい。

【田原】ローカルを活性化させるのに、ほかにどんな政策が考えられますか。

【冨山】あとは賃金です。賃金はいま上がりつつありますが、最低賃金を思い切って1000円くらいにしてしまえばいい。払えない会社は退出してもらえばいい。いまは、人が足りない状況なので、失業は生まれません。海外からの観光客誘致のような話も、それが高賃金で安定した雇用を生まないと意味がない。

【田原】これも新陳代謝を促す政策ですね。

【冨山】もう一つ、「コンパクトシティ化」する必要があります。ローカル型の産業は、規模より密度の経済です。たとえばバス会社でいうと、人がパラパラと分散しているより、密集して住んでくれているほうが効率はよくなる。人口100万人の県なら、40万人の中核都市2つに集まって住んでくれると、企業の生産性も劇的に改善するでしょう。

【田原】でも、日本には住む自由がある。コンパクトシティといっても、うまくいくかな。

【冨山】もちろん力ずくで移住させることはできないので、移住してもらうためにいろいろな動機づけが必要です。昨冬、大雪で山間部の集落が孤立したことがありました。あのような天災が起きると新しく道路をつくるべきだという話になりがちですが、あれはよくない。新たに道路をつくる予算があれば、その地域の人たちが都市圏に移住するときに補助金を出してあげたほうがいいです。

■ダメな経営者にノーをつきつける

【田原】今日おうかがいしたような政策を、いまのところアベノミクスはほとんどできていません。

【冨山】供給サイドの政策って、政治的に評判がよくないんですよ。つまり選挙の票にならない。これはグローバルの話ですが、供給サイドで効果的なのは、コーポレートガバナンスの強化です。でも、これも産業界から評判がよくなくて、すんなりとはいかない。本当は腹をくくってやるべきなのですが……。

【田原】僕は、かつてドイツのシュレーダーがやったように経営者に厳しく当たるべきだと思う。

【冨山】同感です。ドイツは、経済もサッカーもあそこからよみがえった。

【田原】具体的にはどうすればいいだろう。

【冨山】少なくても上場企業に関しては、社外取締役を複数入れてガバナンスを強化することが大切です。それから、株式の持ち合いも解消したほうがいい。以前に比べて減ってきましたが、持ち合いは議決権の無責任な行使につながるのでやめさせるべきです。いま日本でもスチュワードシップコード(株式を保有する機関投資家側の行動について規範を定めたもの)の導入が検討されていますが、これは必要です。ダメな経営者にきちんとノーをつきつけてこその株主です。

【田原】日本はローカルだけでなく、グローバルでもダメな経営者が退出しない。

【冨山】世界的に見ると、グローバル競争している製造業のROEは、だいたい10%以上です。一方、日本は5%程度で低すぎます。かつて日本の経営者は、長期的な利益を重視しているから短期的な利益にはこだわらないといってきました。しかし、それが間違いだったことは、この20年が証明しています。長期的に負け続けてきたわけですから。ROEを10%程度確保できなければ、将来に向けた投資ができず、競争力をますます失います。4~5%で停滞している経営者は、株主が退場させるべきです。

【田原】労働者側はどうですか。

【冨山】シュレーダー改革の流れでいうと、労働の流動性も高めたほうがいいでしょうね。日本の解雇法制は出来が悪くて、お金で解決してはいけないようになっています。お金で解決できないと、双方にとって不幸です。

【田原】お互いが不幸って、どういうこと?

【冨山】お金で解決できないので、裁判所は職場復帰させなさいという判決を出します。ただ、これは強制執行できないので、結局は自宅待機で、給料だけが毎月振り込まれるケースが多くなります。人が余っていて仕事がないときならいざしらず、いまのように仕事がたくさんあるときに座敷牢状態になって、はたして幸せなのか。いまの解雇法制は、働き手にとってもナンセンスだと思います。

【田原】解雇法制はアベノミクスでも論点になっていますね。

【冨山】金銭による解雇自由化というからおかしな話になっていますが、要は実効的な紛争解決手段を提供しようということ。そうしないと、いい意味での流動性が高まらないでしょう。

【田原】最後に、人手不足解消のために、移民を受け入れようという議論もあります。これはどう思いますか。

【冨山】非常に難しい問題ですが、チープレイバーとして外国人労働者を入れるのは反対です。安く雇える労働力が入ってくると、企業が生産性を上げる動機が薄れて、むしろブラックな環境が拡大する方向にいってしまう。入れるなら、ディーセントレイバー(高度人材の外国人)に限り、日本人と変わらない賃金で雇うようにしっかり監督すべきでしょう。

【田原】わかりました。今日はいろいろと勉強になりました。どうもありがとうございました。

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冨山 和彦
1960年生まれ。筑波大学附属駒場高校卒。東京大学法学部在学中に司法試験に合格、85年ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。86年コーポレートディレクション社設立に参画後、代表取締役社長。90年スタンフォード大学経営学修士取得。2003年産業再生機構の設立に参画し、専務兼COOを務め、41社の支援決定を行う。07年経営共創基盤(IGPI)を設立し、CEOに。09年9月からJALの再生を担い、12年12月から現職に復帰。13年経済同友会副代表幹事として活躍。『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)など著書が多数ある。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。

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(経営共創基盤CEO 冨山 和彦、ジャーナリスト 田原 総一朗 村上 敬=構成 的野弘路=撮影)

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