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肺炎予防はできる?! 高齢者の肺炎球菌ワクチンが定期接種化

プレジデントオンライン / 2014年10月19日 10時15分

■死因3位・肺炎の予防ワクチン定期接種化

65歳以上の高齢者などを対象にした肺炎球菌ワクチンが10月1日から定期接種化された。このワクチンは西田敏行さんのCMでもお馴染みだ。定期接種とは、国が接種を勧める予防接種のこと。集団予防の観点からは主に小児を対象にしたBCG(結核)、麻疹(はしか)・風疹、ジフテリア、百日咳など、個人予防のためにインフルエンザ(65歳以上の高齢者など)などのワクチンが対象になっている。今回、希望者が受ける任意接種から格上げされて定期接種(インフルエンザと同じ個人予防が目的)の対象になったのは、23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン「ニューモバックスNP」で、重篤または薬の効きにくい肺炎の原因となる23種類の肺炎球菌への感染を予防する。

重症の風邪が肺炎だと思っている人もいるかもしれないが、肺炎は細菌やウイルスへの感染によって肺に炎症が起こる病気。肺炎の原因となる細菌は人の体の中に日常的に潜んでいるものもあり、加齢、インフルエンザ、糖尿病、呼吸器、心臓病などによって抵抗力が落ちたときに肺に入り込んで炎症を起こす。主な症状は、38度以上の発熱、胸痛、黄色や緑色の痰を伴う咳、息苦しさなどだ。私自身も小学生のころに肺炎にかかったことがあるが、高熱が出て胸と背中の辺りが非常に痛かった覚えがある。

肺炎による死亡者は日本人の死因のうち、がん、心臓病に次いで3番目に多く、そのうち97%は65歳以上。肺炎には乳幼児から現役世代も含めて誰でもなるが、年齢が上がれば上がるほど死亡率が高くなり、高齢者にとっては命取りになる病気だ。

肺炎の病原体には、肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ菌、クラミジア菌などさまざまな種類がある。そのうち最も多いのが肺炎球菌で、特にインフルエンザが流行する時期の肺炎の4~5割は肺炎球菌が原因との報告もある。

23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチンによる肺炎予防効果は国内外の研究で証明されている。日本の高齢者施設の入所者約1000人を対象にした研究では、ワクチン接種群は、接種していない群に比べて有意に肺炎の発症率が低かった。ワクチンによって肺炎球菌による肺炎を63.8%、肺炎全体でも44.8%も発症率を減らせることがわかっている。

■年間5115億円の医療費の削減効果

また、65歳以上のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者1898人を肺炎球菌ワクチン単独接種、インフルエンザワクチン単独接種、2つのワクチン併用群、非接種群の4つのグループに分けて比較した米国の研究では、非接種群を100とすると併用群の肺炎入院率は37%、肺炎死亡率19%で最も低かった。高齢者が入院すると、肺炎が治ったとしても認知症や寝たきりの原因になりやすいので、重症化や入院が避けられるメリットは大きいわけだ。

東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門の渡辺彰教授は、「65歳以上の高齢者や心臓、呼吸器などに病気のある人は、肺炎を予防するためにも、肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを両方接種してほしい」と強調する。

今年度、肺炎球菌ワクチンの定期接種の対象になるのは65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳以上の高齢者、そして、60~65歳未満で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害がある人だ。ただし、これまで23価肺炎球菌ワクチンを接種した経験のある人は対象外で、定期接種の対象は初回の人のみ。5年間は毎年5歳刻みで定期接種の対象となり、その後は、65歳になる年に接種することになる。厚生労働省は、65歳以上の人が全員接種すれば、ワクチン接種にかかる費用を差し引いても年間5115億円の医療費を削減する効果があると予測する。

このワクチンの費用は医療機関にもよるが、自費で接種すると一般的には8000円前後かかる。定期接種化されたことで、これまで成人用の肺炎球菌ワクチンが公費助成の対象になっていなかった市区町村でも助成が受けられる可能性が高く、1000円~6000円程度の自己負担(生活保護世帯などの人は自己負担なし)で受けられるはずだ。市区町村によっては定期接種対象年齢の人以外にも助成をしているところもある。公費助成の方法と金額は市区町村によって異なるので、市区町村の予防接種担当窓口に問い合わせていただきたい。今年度に定期接種年齢に該当する人は、来年3月31日までの5カ月の間に接種しなければ公費接種の対象にならない場合も多いので少し慌ただしいが、インフルエンザワクチンと一緒に接種を受けるとよいだろう。

■「口腔ケア」で誤嚥性肺炎を防ぐ

ところで、肺炎球菌ワクチンは接種から5年以上経つと効力が低下するため、日本感染症学会は、65歳以上や心臓や呼吸器などに疾患のある人で5年以上経過した人の再接種を推奨している。しかし、前述のように今回の定期接種化は初回の人のみで再接種の人については、今後検討するという。市区町村によっては再接種の人に対しても独自に公費助成を行うところもあるものの、一般的には再接種は自費で負担感が高いのが難点だ。

なお、肺炎にはほかの原因もあるため、肺炎球菌ワクチンを接種したからといって、全ての肺炎が100%予防できるわけではない。冬だけではなく年中発症する病気なので、時期を問わず、手洗い、うがい、インフルエンザなどの感染症が流行っている時期には人込みを避ける、といった一般的な感染症対策をしっかりすることも大切だ。

また、もう一つ、高齢者に多い誤嚥性肺炎を予防するために非常に重要なのが「口腔ケア」だ。誤嚥性肺炎は、歯周病菌などの細菌が唾液や食べ物と一緒に肺に入ることによって起こる。食事中に誤って食べ物が気道から肺へ入ってしまうイメージがあるかもしれないが、誤嚥性肺炎は、寝ている間に本人の自覚なしに唾液と共に細菌が肺へ入ることによって発症するケースも多いという。

むし歯や歯周病は治療し、歯、歯肉、舌まで磨く口腔ケアをきちんと行っている人は、していない人より肺炎発症率が低いとのデータもある。入れ歯にも細菌がつきやすいので、入れ歯の手入れも大事である。特に、具合が悪くて食べられないときほど、口の中に細菌がたまりやすく誤嚥性肺炎も起きやすい。食事がとれないときでも歯を磨き、口の中の清潔を保つようにしよう。

それまで元気で働いていた人が肺炎で命を奪われることもあるので、65歳以上になったらワクチンを上手に使って予防を心がけたいものだ。

(医療ジャーナリスト 福島 安紀)

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