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リクルート出身者は本当に優秀なのか

プレジデントオンライン / 2014年10月16日 10時15分

筆者が注目する「元リク」10人

■独立しやすい制度が「目立つOB」を生んだ

私は、「元リク」だ。大学を卒業後、97年にリクルートへ入社し、05年に退職した。「元リク」とカミングアウトするときは、少しだけ緊張する。世代やスタンスなど、相手によって反応がまるで違うからだ。

世間には「リクルート信者」と呼ぶべき人たちがいる。社会人から学生まで、いまの自分の立場に不満を持っている人が多いようだ。彼らは目をキラキラとさせて「リクルート出身なのですね。すごい! その頃の話を聞かせてください!」などと言ってくる。ただ、こういう人たちは、驚くほど実態を知らない。

いまやリクルートは「普通の日本の大企業」である。グループ従業員数は約2万8000人。昨年度の連結売上高は1兆1915億円。このうち海外部門は2800億円と23%を占め、グローバル化が進む。20年前には約1兆4000億円の有利子負債があったが、完済している。「人材輩出企業」という評価も聞く。「元リクは優秀な人ばかり」というのだが、これは本当だろうか。OBの一人としてあえて言おう、カスである、と。いや、それは幻想である、と。

たしかに、著名人は多い。最近の「元リク」界では、東の横綱がJリーグチェアマンの村井満氏、西の横綱が西宮市長の今村岳司氏だろう。

村井氏は人事担当の執行役員やリクルートエージェント(現リクルートキャリア)の社長などを歴任した人物である。Jリーグでは元日本代表選手だった川淵三郎氏が初代チェアマンを務めて以後、Jクラブ経営者が就任しており、外部からの登用は村井氏が初めてだ。駆け出しのころに「◯◯屋」という個人商店に電話をかけまくっていたら、高島屋社長のアポがとれてしまったという話をはじめ、人間味のあるエピソードには事欠かない。

「西の横綱」の今村氏は、私と同じ1997年入社だ。99年、26歳の時に西宮市議選に初出馬し、トップ当選。以来15年、市議を務め、この4月の西宮市長選に出馬し、現職を破って初当選を果たした。

「元リク」がメディアに登場するようになったのは2000年代前半からだ。代表格は、くらたまなぶ氏、藤原和博氏、松永真理氏、小笹芳央氏など。日本経済に閉塞感が漂う中、リクルートという企業と社員、OB・OGに注目が集まったのだった。

こうした経緯から「リクルートは優秀な人材をたくさん輩出している」などといわれる。たしかにその論拠には正しそうなものもある。

リクルートはとにかく採用活動に力を入れていた。創業者の故・江副浩正氏(※1)は「我々に続く人は我々より優秀でなければならない」「人を採れ、優秀な人材を採れ、事業は後からついてくる」などの言葉を残している。優秀な学生を探し出し、狩りのように採用するのである。江副氏が退任した後も、自分たちより優秀な人材を採ることにこだわり続けた。

また若い人にも大きな仕事を与える風土がある。優秀な人材は早くから抜擢するので、筆者が在籍していた約10年前から、20代の管理職は存在した。

しかし、だからといって「優秀な人が多い」とは言い切れないだろう。それは「著名人が多い」ということに過ぎない。裏を返せば、独立しやすく目立ちやすいというだけだ。

リクルートには以前、「独立支援」という名目の退職時の支援金の制度があった。私は31歳のとき、退職金とは別に1000万円の支援金をもらっている。現在、「元リク」として知られる人たちの多くは、こうした恩恵を受けている。

さらに「社員持株会(※2)」が存在し株価が上がり続けていたため、取得者は在籍年数が長いほど含み益は大きくなり、退職時には数千万円の売却益が得られるケースもあった。つまり、独立資金に困らない環境なのだ。

リクルート流の仕事術に注目が集まっていたころは、実績のない人でも簡単に著書を出版できた。本は「セルフブランディング」のツールになる。本人がどこまで関わったか分からない案件についても、自著では「オレの実績」になってしまう。私は「アレオレ詐欺」と呼んでいる。

つまり、「目立っている人が多い」という事実が、「人材を輩出している」というイメージにすり替わっているのではないだろうか。

そもそもなぜ辞めたのだろう。意地悪な言い方をすれば、社内で出世を目指すより、独立したほうがはやいと考える人も多かったのではないか。リクルートでは退職を「卒業」と呼ぶが、実際は「中退」に近い。

他方で「元リク」ではなく、現役の社員はどうだろうか。周囲では「リクルートも、みんな普通の人になりましたね」という声を聞く。私の実感にも近い。率直にいって、みんな普通の人になっている。現在の業容を考えれば、それでいいのではないかとも思う。

■根性営業から脱皮も「ヤンキー魂」は不滅

リクルートの強みは、利益と合理性を徹底的に追求する企業文化だろう。「利狂人」「理狂人」という当て字があるとも聞いたことがある。創業者の江副氏は圧倒的なカリスマをもち、一時期は「カリスマ社員」の活躍も目立ったが、そうした個人に依存するのは、経営として危なっかしい。営業や商品作りはシステマチックに、投資は合理的に行う。それが今のリクルートだ。「メディア」と「営業マン」が付いた投資会社のように変身した。総合商社が貿易から事業投資にシフトしたのに近い。方針に疑問を抱いた人は出て行く。うまい具合に血は入れ替わる。

最近は国内、海外を問わずM&Aに積極的だ。新規事業は自前にこだわらない。これからは営業力よりIT力だとみれば、理系人材を大量に採用し、そこに社運をかける。

言ってみれば、グローバル化もIT化もM&Aも、日本企業はどこも意識していることで、これがユニークな戦略だとはいえない。ただ、なりふりかまわず、利益、合理性、効率を追求する。その実行力の強さ。戦略と戦術のすり替え。言ってみれば、「ヤンキー魂」のようなものがリクルートの強みだ。

社内では四半期ごとに「キックオフ」と呼ばれるイベントをひらく。目標達成をみんなで褒め称え、事業責任者が次期の目標を「所信表明」のようにスピーチする。最後は「◯◯するぞ」「オー」という掛け声で締める。私が在籍していたとき、それは暴走族の集会のようにみえた。上場が承認された際、峰岸真澄社長は「人材派遣、人材紹介で世界一を目指す」とコメントしたが、これもヤンキーの全国制覇物語のようだ。

上場後も、そのヤンキー魂で世界制覇を目指すのだろう。ただし、大変に小物感のある社員を率いて。ヤンキー魂は昔も今も変わらないが、今はその鼓舞すらもシステマチックに行われている。

「元リク」も、そのうち「元ヤン」並みのブランドになっていくだろう。いや、もうなっている。仮にブームが再来したときも、それは今までの汗くさい営業マン、人事マンではなく、ひょうひょうとした事業プロデューサー、IT人材などだろう。

あのリクルート事件で世間を震撼させたいかがわしい企業の上場という奇妙な冒険は、暴走族の解散式のようだ。これからもヤンキー魂だけは持っていて欲しい。夜露死苦。

※1:えぞえ・ひろまさ。リクルート創業者。1936年生まれ。東京大学教育学部在学中より求人広告の仕事を手がけ、23歳で 大学広告(現リクルート)を創業。88年にリクルート会長を退任。2013年死去。著書に『リクルート事件・江副浩正の真実』(中公新書ラクレ)などがある。
※2:現在、リクルートHDの株主構成は公開されていないが、持ち株会社制に移行前の2011年3月期時点では、「リクルート社員持株会」の所有割合は13.89%で筆頭株主となっている。

(千葉商科大学専任講師 常見 陽平)

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