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なぜ「3.11」ディズニーのキャストの行動力が感動を生んだのか

プレジデントオンライン / 2014年12月4日 11時15分

■3.11、東京ディズニーリゾートで何が起きたか

2011年3月11日。この日、未曾有の自然災害が東日本を襲い、大勢の人の命が失われました。首都圏は交通機関が止まり、多くの帰宅困難者が発生。東京ディズニーリゾートでも、自宅に帰れなくなった人が多数発生しました。その日の来園者は、ランドとシーを合わせて約7万人。そのうち約2万人が園内で一夜を明かすことになりました。

ディズニーの対応は、迅速かつ柔軟でした。まず来園者を指定の避難所に誘導しました。ディズニーは5万人が3日間避難していても困らない非常食を備蓄しているため、避難中のゲストにさっそく提供しました。

避難所では、キャスト(ディズニーでは従業員のことをこう呼びます)がそれぞれの判断でゲストのケアをしました。あるキャストは、売り物のダッフィーのぬいぐるみをゲストに配りました。寒さを和らげると同時に、防災頭巾の代わりにしてもらうためです。

別のキャストは、寒さしのぎのための段ボールを配りました。段ボールは夢の国に似つかわしくないため、普段はゲストに見せてはいけないことになっています。しかし、非常時にそんなことは言っていられません。京葉線が動き始めたのは、翌日の3月12日。パークで一夜を過ごしたゲストたちは、心身ともに疲れた様子で帰っていきました。

約1カ月後の4月15日、パークは営業を再開しました。会社をこっそり休んで開園の列に並ぶと、テレビの報道クルーが来ていて、大勢の人が並んでいる様子を取材していました。テレビのインタビューを受けた人の中に、3.11の夜をパークで過ごしたゲストがいました。

「たいへんな目にあった場所に、なぜまた戻ってこようと思ったのですか」

記者にそう問われたゲストは、次のように答えていました。

「どうしても、ありがとうって伝えたくて」

サービス提供者にとって、これほどうれしい言葉はないでしょう。震災の日、パークにいたキャストたちも被災者です。一刻も早く家に帰りたい、家族の顔を見たいと思っていたはずですが、それでもキャストたちは顧客の安全と安心のためにベストを尽くした。その苦労も、「ありがとう」の一言を聞くことで報われたはずです。

■実際の行動を支える理念と仕組み

ディズニーではどうして未曾有の震災に対して迅速かつ柔軟な対応をすることができたのでしょうか。背景にあるのは、「理念」と「仕組み」です。

ディズニーには「SCSE」(Safety=安全、Courtesy=礼儀正しさ、Show=ショー、Efficiency=効率)という行動基準があり、各要素が優先すべき順に並んでいます。これによると、もっとも優先すべきは「安全」で、「ショー」は3番目です。このように企業として大事にすべきことが明確になっているので、現場のキャストは売り物のお菓子を配ったり、普段はゲストに見せてはいけない段ボールを配るという判断を下せました。

理念を具体化するには、仕組みも大切です。ディズニーは、「10万人の来園者がいるときに震度6の地震が起きたら」という想定のもと、綿密な避難計画を立てています。この仕組みがあったからこそ、ゲストを適切に避難所に誘導して、非常食を提供することができました。

理念と仕組みの2つに加えたい要素がもう一つあります。それは「行動」です。震災の日、キャストが「安全が大事だけど、上から指示を受けたわけじゃない」と逡巡していたら、どうなっていたでしょうか。たとえ「安全を第一に考える」という理念を掲げていても、それを唱えるだけで安全は実現できません。キャストが具体的な行動を起こして、はじめてゲストの安全は現実のものになりました。

避難計画という仕組みも同様です。実行されない計画は、中身がどんなに立派なものでも無意味です。ディズニーは、年に延べ180回の防災訓練を行っています。繰り返して実際に身体を動かして訓練したからこそ、いざというときにも慌てずに避難誘導ができたのです。

顧客に感動をもたらすには、自社の理念を明確にして、それを具体化するための仕組みを整える必要があります。ただ、それらが整ったからといって、感動が勝手に生まれるわけではありません。理念の明確化や仕組みの整備は、顧客に喜んでもらうための準備に過ぎません。準備したものを実行・実践してこそ、理念は現実のものになります。

自社の理念を実行に移せというと、「理念が抽象的なので、自分の仕事でどのように具体化すればいいのかわからない」と質問されることがよくあります。
理念は抽象的に表現されている場合が多く、通常、そこに具体的な指示は含まれていません。そのため理念を具体的な行動に落とし込めず、結局は何もしていない人が多いのでしょう。

■理念を具体的な行動に落とし込む

しかし、抽象的な理念も、突き詰めていけば必ず具体化が可能です。ディズニーの理念「We Create Happiness」も抽象的であり、具体的な行動に関しては何も触れられていません。しかし、ディズニーのキャストは「ゲストにとっての幸せは何なのか」、「どうすればゲストは幸せを感じるのか」と考え、具体的な行動につなげています。

たとえば「ジャングルクルーズ」というアトラクションでは、ゲストが乗り降りするときにキャストが軽く手を添えてくれます。これはゲストを安全に導くことがしあわせにつながると考えたからです。

ショップでは、ほとんどのグッズをゲストが直接触って確かめられるようになっています。このやり方を「ソフトセル」といいます。ショーケースに入っていれば、ゲストはわざわざ店員を呼んで開けてもらわなくてはいけませんが、ソフトセルなら商品を直接確かめられるので、自分のペースで買い物することができます。これもゲストのしあわせを突き詰めて考えた結果です。

表からは見えない仕事も例外ではありません。どのような職種でも、理念を具体的な行動に落とし込むことはできます。私は飛行機の荷物を受け取るターンテーブルを見て、その思いを強くしました。

外国の某航空会社のターンテーブルでは、スーツケースの車輪が外側に向いた状態で荷物が流れてきました。顧客の側からは取っ手に手が届きにくく、車輪をつかんで無理やり荷物を下ろしているおじいさんもいました。

ANAのターンテーブルは違いました。すべてのスーツケースの取っ手が顧客側に向いた状態で流れてくるのです。ANAの行動指針の中に、「常にお客様の身近な存在であり続けます」というものがあります。キャビンアテンダントなら、この理念は実践しやすいでしょう。一方、ターンテーブルに荷物を載せるのは裏方の仕事であり、作業員が顧客と直接顔を合わせることはまずありません。それでも作業員たちは「お客様にとって最高の価値とは何か」と考え、取っ手を顧客側に向けました。このようなちょっとした気配りが、理念を具体的な行動で示すということなのです。

ふと気になってJALのターンテーブルを見に行くと、こちらも取っ手が顧客側を向いた状態でスーツケースが流れてきました。私は日本企業の底力を見たようで、とてもうれしく思いました。

話を戻しましょう。自社の理念は、どのような職種や職場でも具体化できます。「顧客と接しないから」、「裏方の仕事だから」というのは言い訳に過ぎません。突き詰めて考えていけば、いまの仕事でやれることは必ずあるはずです。

(ヴィジョナリー・ジャパン社長 鎌田 洋)

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