なぜディズニーは5000億円の巨額投資をするのか?
プレジデントオンライン / 2014年12月5日 12時15分
■未知なるものに出会ったとき人は感動する
顧客はいったいどのような場面で感動を覚えるのか。ひとことでいうと、未知なるものに出会ったときです。どれほど質の高い商品やサービスも、すでに経験しているものなら顧客にとっては想定内といえます。感動を起こす条件は、顧客の想定を超えること。これまでに経験したことのない価値を提供できたとき、顧客は心を揺さぶられます。
もちろん、未知なるものなら何でもいいわけではありません。顧客が感動するのは、出会った瞬間に「これこそ自分が求めていたものだ」と感じる商品やサービスです。未知なるものの中でも、顧客に潜在的なニーズがあり、具体的に提示されてはじめてそのニーズに気づかせてくれた商品やサービスに、顧客は感動を覚えます。
本人も気づいていないニーズが満たされたときに感動が生まれるのだとすると、企業が取るべきアプローチも見えてきます。まず、顧客の潜在的なニーズを把握すること。そして、潜在的ニーズを満たす商品やサービスを具体化して提案すること。これがうまくいったとき、CSは満足レベルを超えて感動レベルに達します。
潜在的ニーズは顧客本人も無自覚なので、いくらアンケートを取ってもわかりません。
企業にできるのは、想像することだけ。「顧客はこんな商品を望んでいるのではないか」、「こうしたサービスをすると、顧客は驚くのではないか」と勝手に想像して、それを具体化するしか道はないのです。
ただ、想像するしかないからといって、破れかぶれになる必要もありません。想像力は、観察によって磨けます。何もないところから想像するのは「空想」に過ぎませんが、観察したディテールを材料にして考えを組み立てれば、想像は現実感のある「仮説」になります。仮説の精度を上げるには、対象に好奇心を持って観察すること。これに尽きます。
■ディズニーシー開園は危険な賭けだった
顧客の潜在的ニーズについて仮説を立てたら、それにもとづいてつくった商品やサービスを、勇気を持って提供することも大切です。たとえ仮説の精度が上がっても、仮説が外れるリスクはつねに存在します。しかしそれを恐れていたら、いつまでも仮説を検証することはできません。外れるリスクを受け止めたうえで、勇気を持って実行に移す。その姿勢が必要です。
その点でいうと、ディズニーシーの建設に踏み切ったディズニーの決断は秀逸でした。東京ディズニーランドには、米国のディズニーランドというお手本がありました。「ビックサンダーマウンテン」や「スプラッシュマウンテン」といったアトラクションも、アメリカで実績があり、安心して導入することができました。
しかし、「海」をコンセプトにしたテーマパークは、世界のディズニーで初めて。まさに未知なるものであり、ディズニーファンに受け入れられるかどうか、確実なことは誰にも言えませんでした。しかも、シーの建設にはとてつもない投資が必要です。仮説が外れて顧客にそっぽを向かれれば、会社が傾きかねません。それでもディズニーは、リスクを取ってシーの建設を決断しました。その結果がどうなったのか、あらためて言うまでもないでしょう。
未知なるものを新しく作り出そうとすれば、必ずリスクは伴います。逆に言えば、リスクを取らない会社に新しいものは生み出せないし、新しいものを生み出せない会社が感動を引き起こすこともできません。そのことを胸に刻んで、一歩前に踏み出してほしいと思います。
「未知のものが感動を呼ぶといっても、1回出会って感動してしまったらもう未知のものではなくなるのだから、すぐに飽きられるのではないか」と疑問を抱く人もいるでしょう。たしかに最初は新鮮な商品やサービスも、2度目、3度目と経験するうちにインパクトは薄れてきます。人間の心理を考えれば、やがて飽きを感じるのは仕方のないことです。
■「ディズニーは永遠に未完成」の意味
では、企業は顧客が飽きる様子を眺めているしかないのでしょうか。もちろんそんなことはありません。ここでご紹介したいのは、ウォルト・ディズニーの言葉です。1955年、カリフォルニア州アナハイムに世界初のディズニーランドがオープンしたとき、ウォルトは次のように語りました。
「ディズニーランドは、けっして完成することはありません。世界に想像力があるかぎり、永遠に成長し続けます」
ディズニーが未完成というのは、完成しないまま見切り発車でオープンさせたという意味ではありません。現時点では最高のものだが、いまが終着点ではなく、つねにベストを更新していくという意味です。
顧客の心を震わせる商品やサービスについても、同じことがいえます。未知なるものを顧客に一度提供できても、そこがゴールではありません。顧客を感動させたことに満足することなく、さらに想像力を発揮して新しい価値を生み出し続けていくことで、顧客の心をつかみ続けることができるのです。
実際、ディズニーが長く愛されているのも、スクラップ&ビルドを繰り返してきたからです。アトラクションでいえば、「カリブの海賊」は映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の要素を取り入れてリニューアルしたし、「シンデレラ城ミステリーツアー」のようになくなってしまったものもありました。いずれも人気のあるアトラクションでしたが、ディズニーにとっては未完成。ゲストにさらなる感動を与えるためには、絶えず変化を続けてきたのです。
今年10月30日、オリエルタルランドは今後10年間で5000億円を投資して、ディズニーランドのファンタジーランド再開発や、ディズニーシーの新エリア開発を行うことを発表しました。現在、業績は絶好調ですが、そこに満足せずに変化を続ける。そこにディズニーの強さがあります。
(ヴィジョナリー・ジャパン社長 鎌田 洋)
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