安倍さん見て見ぬふり「実質賃金下落」「正社員カースト制度」~2014人事関連重大NEWS(前)
プレジデントオンライン / 2014年12月5日 8時45分
■2014年は働く環境が大激変した年だった
2014年の人事関連の話題のニュースは安倍政権の動きに始まり、安倍政権で終わったという印象だ。それだけ安倍晋三首相の言動に翻弄された1年だった。
筆者が選んだ時系列の重大ニュースは以下の通りだ。
1. 政府の賃上げ圧力“アベノ”春闘始まる
2. 女性管理職2020年30%目標で混乱する企業
3. ユニクロ大量の限定正社員化で強まる社員の階層化
4. 成長戦略に「残業代ゼロ」日本版エグゼンプション
5. 日本企業トップに「外国人経営者」の幕開け
6. ブラック企業の末路「ゼンショー休業店続出」
7. 日立、パナソニック、ソニー“年功制から離脱”
8. 2016年卒大学生、青田刈りが始まる
今回は1~4に関するニュースをおさらいしたい(5~8は、次回12月19日公開予定)。
■1. 政府の賃上げ圧力“アベノ”春闘始まる
今年の春闘は安倍首相の賃上げ要請による「官製春闘」と呼ばれた。成長戦略の3本の矢を打ち出したが、それだけで政府・日銀の公約である2%の持続的な物価上昇率の達成が難しいことが明らかになり、政府のなりふり構わぬ強引な“賃上げ要請”は、まるで戦時下の統制経済を彷彿させた。
賃上げ要請の舞台となった「政労使会議」では、復興特別法人税の廃止というアメと引き替えに経済界に賃上げ要請を行った。それだけではなく、経済産業省の局長クラスが直に企業のトップと会って賃上げを要請し、地方経産局長も地元企業を行脚して回った。財務省・金融庁も銀行・証券各社に同様の要請を行い、政府内では実際に賃上げしたかを“点検”まで行った。
その結果、労働組合の連合の集計では賃上げ率2%を超えたが、中小企業はわずかに平均555円アップ。ワンコイン程度の賃上げが現実。しかも物価変動の影響を加味した実質賃金指数は3.6%も下落した。
■2. 女性管理職2020年30%目標で混乱する企業
安部政権は2020年に女性管理職を30%にする目標を企業に要請したが、その裏では企業の人事担当者が四苦八苦。もともと女性社員が少ない企業では、社長命令で高い目標を設定し、暗黙裏に「女性枠」を設定し、2段跳び、3段跳びで課長に抜擢する企業も現れた。
そのとばっちりを受けた管理職候補の男性社員から「逆差別」の声も上がる企業もあった。住宅設備メーカーの人事課長は「夫婦の社員で妻が優秀であれば、出産後は早く復帰してもらい、代わりに夫が休職して育児に専念してもらうことも考えなければならない」と言うほど。社内結婚後は妻が退職して家庭に入るというのは、今は昔の話。国策遂行に業界横並びで従う経営者たちの裏で、今も職場の混乱は続いている。
(参考記事:部下0人……「女性管理職インフレ」が止まらない http://president.jp/articles/-/12707)
■3. ユニクロ大量の限定正社員化で強まる社員の階層化
ファーストリテイリングが傘下の「ユニクロ」で働くパート・アルバイトの半分強に当たる約1万6000人を正社員にすると発表。新たに雇用形態は店舗や勤務地を限定した「地域限定正社員」であり、今後2~3年で順次移行していく。
ユニクロに限らず、人手不足にある企業の正社員化も相次いだ。日本郵政グループも4月から「地域限定正社員」(新一般職)制度を導入。4月までに約1万1000人の月給制契約社員のうち4700人が新一般職に転換し、今後も増やしていく。
ユニクロは1万6000人を「R(リージョナル)社員」(地域正社員)と位置づけ、国内転勤型の「N(ナショナル)社員」とグローバルに異動する「G(グローバル)社員」の計3つの社員区分に分けて処遇していく予定だ。
日本郵政グループも地域限定正社員以外に「地域基幹職」(将来の管理者・役職者として組織目標達成に貢献することが期待される社員)という区分も設ける。
非正規に比べて処遇が向上し、雇用が安定することは結構であるが、身分や処遇がこのまま固定化される恐れもなくはない。両社の地域限定正社員の報酬水準は400~450万円。通常の正社員に転換できなければ生活も楽ではないだろう。地域限定正社員が普及することはよいことだが、非正規と正規社員のように新たな階層化を生み出すものであってはならない。
(参考記事:ユニクロ正社員、「N社員」と「R社員」の給与は天と地か http://president.jp/articles/-/12587)
■4. 成長戦略に「残業代ゼロ」日本版エグゼンプション
安倍首相は残業代や休日・深夜労働の割増賃金を支払う必要のない残業代ゼロの「新しい労働時間制度」の創設を6月発表の「成長戦略」(日本再興戦略改訂2014)に盛り込んだ。日本版ホワイトカラーエグゼンプションだ。
第1次安倍政権下で世論の反対で廃案になったが、今度は成長戦略の労働改革の目玉として装いも新たに蘇らせたのである。現行の労働基準法では労働時間の上限を1日8時間、週40時間(法定労働時間)とし、それを超えて働かせる場合は1時間につき25%以上の割増賃金(午後10時以降の深夜残業の場合は+25%の計50%、休日労働は+35%の計60%)を支払うことを義務づけている。
制度が実現すれば、この残業代が消えてなくなることになる。ちなみに2013年の一般労働者の月間残業時間は15.5時間、残業代は約3万1600円(毎月勤労統計調査、事業所規模30人以上)。年間の残業代は1人あたり約38万円になる。
現在は年収1000万円以上の高度の職業能力を持つ人材に絞って政府の審議会で検討されており、2015年の通常国会に法案を提出する予定となっている。ところが、衆議院解散が決まった直後から審議会はストップ。自民党の選挙公約にも記載されてはいない。選挙のじゃまになる争点隠しとの批判もある。
じつは当初は1000万円でも、翌年以降に800万円、600万円に下がることもあり得る。安倍首相自身も下がる可能性を否定していない。2014年6月16日の衆議院決算行政監視委員会で安倍首相は民主党の山井和則議員の質問に関してこう答弁していた。2人のやりとりはこうであった。
山井議員「5年後、10年後も1000万円から下がらないということですか」
安倍首相「経済というのは生き物ですから、全体の賃金水準、物価水準、これはわからないわけですよ。(中略)現在の段階における賃金の全体的な状況からすれば、今の段階で1000万円とすれば、800万円、600万円、400万円の人は当然入らないのは明確であります。今後については3原則に則ってしっかりと進めていくということであります」
安倍首相が言う3原則とは「希望しない人には、適用しない」「職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人材に、対象を絞り込む」に加えて「働き方の選択によって賃金が減ることのないように適正な処遇を確保する」という3つのことだ。
だが、これには年収要件は入っていない。最大のポイントは「高い職業能力を持つ人材」という対象であり、年収については経済情勢の変化という含みを持たせつつ、下がる可能性があることを示唆している。衆議院選挙で勝利し、4年間の政権を手中にすれば、引き下げるタイミングも早くなるだろう。
(参考記事:戦慄試算! 「残業代ゼロ」対象500万人で39歳は203万円収入ダウン http://president.jp/articles/-/13071)
※以下、5~8の重大ニュースは次回
(ジャーナリスト 溝上 憲文)
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