世界から見た日本のビジネスマンのいい点、ダメな点
プレジデントオンライン / 2015年2月17日 11時15分
■正社員の需要が落ち込む仏、蘭
世界24カ国の主要都市に拠点を置き、人材紹介サービスを手がけるロバート・ウォルターズ。日本では、2000年からサービスを開始している。経営の現場でグローバル人材の確保が急がれるいま、その動向を、グループCEOのロバート・ウォルターズ氏に聞いた。
──日本におけるグローバル人材の転職市場はどのような状況か。
【ロバート・ウォルターズ】当社では、日本においてバイリンガル・スペシャリストに特化した人材紹介を得意分野としている。バイリンガル・スペシャリストとは、2カ国語以上を話し、かつプロフェッショナルな能力を有する人たちを指す。彼らを、正社員あるいは派遣・契約という雇用系態でクライアントに斡旋してきた。こうした人材は日本に限らず、世界のどの国、地域においても恒常的に不足している。
ただし、たとえば中国の景気失速に押されて、オーストラリアの景況感が下がったとすると、やはり雇う側も慎重になり、需要も多少は落ち込む。それでも、バイリンガルではない人材に比べ、グローバル人材の需要が景気の影響を受けにくいことは確かだ。
──求人数が伸びている国、そうでない国はどこか。
【ロバート・ウォルターズ】マレーシア、シンガポールを筆頭に、アジア全体で求人需要が高まっている。日本も堅調で、我々の調査では、14年第3四半期(7~9月)の求人広告数が、前年同期に比べ20%増加した。日本でも、語学が堪能かつプロフェッショナルなスキルを持ったグローバル人材への需要は高い。いま、そうした人材は売り手市場といっていい。
逆に低調なのが、フランスとオランダだ。ここでは正社員の市場が落ち込み、非正規雇用の契約数が伸びている。おそらく、ユーロ圏の景気への信頼感がいまひとつで「仕事があるだけで感謝しよう」という気持ちになっているからだろう。
日本人は正社員志向が強い。ただ、非正規社員が減っているかというと必ずしもそうではなく、過去1~2年ぐらいを見ると、こちらの数字も伸びている。
──日本のなかでグローバル人材を求めている業界・業種は。
【ロバート・ウォルターズ】すべての分野と考えていい。特に、医療・ヘルスケア、それからIT・テクノロジー、製造業、サプライチェーン、流通などの動きが活発だ。ファイナンスは元気がないが、コンプライアンスや会計監査といったところのニーズは強い。
当社が日本市場に参入したころは、投資銀行への人材紹介がビジネスの中心だった。堅調に推移してきたが、08年のリーマン・ショックで暗転してしまう。それ以降、当社は様々な業種・業態にもさらに力を入れていった。
と同時に、外資系企業だけでなく、日系グローバル企業の海外進出もサポートするようになった。日本では、大手やベンチャー企業を中心に、海外進出やM&Aなどによって、一気にグローバル化が進んだ。そのことにより、日本の企業自身が世界に通用する人材を求めなければならないケースが増えてきたためだ。
──日本のビジネスマンの長所と短所をどう見ているか。
【ロバート・ウォルターズ】私は来日後、いろいろな経験を通じて感じたことがある。それはホテルに行っても、飛行機に乗っても、日本人の仕事に対する倫理観が、きわめて高いということだ。ほかの国を見ても、これだけの美点を持っているところはないだろう。
問題点があるとすれば、フレキシビリティ、つまり柔軟性に欠けること。かつての日本には、日本的経営の象徴である雇用慣習として終身雇用と年功序列が生きていた。社会のピラミッドを大過なく上っていくことが、理想的なビジネスマン人生だとされていたなごりだろう。現在、そうした慣習は徐々に薄れてはいるが、他の国に比べて依然、柔軟性に欠けている。
もうひとつは実務的なレベルでの語学力だ。ビジネスの現場で英語を話せる人たちが圧倒的に少ない。
■外国人労働者削減のシンガポール
──日本以外の国にはどういう特徴があるか。
【ロバート・ウォルターズ】なかなか一般論化しにくいというのが正直なところだ。あえて、特定の国や地域の特性を決める3大要素を挙げるとすれば、国柄、仕事に対する倫理観、そして様々な規制に代表される法的な枠組みということができよう。
たとえば、イギリス人は勤勉な国民だといわれる。国を挙げてワーク・ライフ・バランスの推進を掲げ、柔軟な働き方ができるよう法整備を進めてきた。転職マーケットも大きく、現在は地方企業の雇用も活性化している。
一方、フランスは、国民性として、労働よりも余暇に大きな価値を見出すことがよく指摘される。そのためか、人々が仕事を探すに当たって保守性が顕著に表れる傾向がある。よって、非常に柔軟性のない市場になっている。
アジアに目を転じてシンガポールの転職市場を見ると、以前は法規制が少なく、マーケットの動きも活発だった。けれども、数年前から労働力に占める外国人の割合が全体の3分の1を超えないようにするという基本政策を進めた。それによって、柔軟性が低くなってしまった。
──そうしたなか、日本人がグローバルに活躍するうえで何が必要になってくるのか。
【ロバート・ウォルターズ】いまの20代を中心とした若い層は、自分たちの親を見てきて、会社におんぶに抱っこではもう成り立たないことを知っている。自分自身が企業戦士となって、会社のために奴隷のように働くのはごめんだと思っているのかもしれない。
また、若い起業家も格段に増えた。かつての日本では、生涯1社に勤め続けることが当たり前だった。その会社において、30代でキャリアを形成し、40代で足元をしっかり固めるのが理想とされてきたが、そこから外れると、何らかのテコ入れ策を考えなければいけなかった。だが、それは過去の話となり、自分の足で立とうとする若い層が増えていった。
当社を利用する20代、30代は、自分が勤める会社を冷静に、客観的に捉える傾向がある。転職先を選ぶ際、その企業がどのようなCSRの取り組みをしているかにも敏感だ。理想的なキャリアを歩むには、その会社に何年勤めればいいかを念頭に置き、会社を選択する人も多い。
これは世界でも同じ。こうした状況下で日本人ビジネスマンが活躍するには、まず自分たちが持っているコアとなる価値観、すなわち、強固な倫理性を大切にすべきだろう。
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1975年政治経済学位を取得後、トウシュ・ロス会計事務所、イギリス人材紹介会社大手マイケル・ペイジ・インターナショナル社を経て、85年にロバート・ウォルターズ社をイギリス・ロンドンにて設立。現在、世界24カ国で展開。日本では2カ国語以上の語学力を持つグローバル人材に特化した人材紹介サービスを提供している。
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(ロバート・ウォルターズCEO Robert Walters 岡村繁雄=構成 的野弘路=撮影)
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