新入社員の価値は「あつれき」をもたらすこと ~ナルシスト採用参加企業に聞く(後編)
プレジデントオンライン / 2015年2月6日 15時15分
「ナルシスト採用」で女装コスプレ趣味の男子学生に内定を出したITベンチャー・ソノリテは、一般的な就活に違和感を持つ若者を対象とする「就活アウトロー採用」でも多くの若者を採用してきた。コスプレ男子内定の真相に迫った前編(http://president.jp/articles/-/14429を参照)に続き、後編では、就活アウトロー採用によって社内に起きた組織の変化について、ソノリテ・齋藤和政社長に聞いた。
■月に一度、“何をやってもいい日”
【若新】就活アウトロー採用で入社する人たちには、会社に刺激や影響を与えてくれることを望んでいたという話でしたが、実際にどのような変化がありましたか。
【齋藤】既存の社員がいい意味で焦っています。SEの仕事は忍耐を必要とするところがあり、それに我慢強く真面目に取り組む社員がこれまでは大多数でした。一方で、アウトロー採用で入社した新しい社員は、従来の就活のやり方に違和感や疑問を持つような若者たちなので、疑問に思うことは口にするし、自分が納得できないことはやりたくない。もちろん、やらなきゃいけないと自分で思ったことは責任を持ってやり遂げてくれます。
新しい社員が言いたいことを言い、既存の社員がそれまで常識だと思ってきた考え方や仕事のやり方がどんどん覆されています。ただ、既存の社員も頭が硬直した人たちではないので、少しずつ変わってきていますよ。
【若新】具体的にはどんなふうに変わってきているのですか。
【齋藤】社内でいろんな意見が出るようになりました。それらが新しい社内制度や取り組みにつながっています。例えば当社には、「Make My Day制度」といって、月に一度、何をやってもいい日があります。ルールは2つで、(1)一日中寝ているのはダメ、(2)何をやったのかを社内ブログで報告すること。この2つを守れば、出社せずに、どこで何をやってもいいことになっています。
これはアウトロー採用の社員の発案ですが、既存の社員からは「そんなことやって売り上げが下がったらどうするんだ」とか、「お客さんに迷惑がかかるんじゃないか」という反対意見がでました。社内で議論した結果、自分たちの創造性を高めるためにやろう、と制度化しました。
また、最近は、ニコニコ生放送を始めました。駆け出しの芸人さんを連れて来てニコ生で紹介するというもので、これも社員同士でやりたいことを話し合うなかで生まれた企画です。これをやったからといってすぐに利益につながるわけではなく、面白そうだから始めましたが、システムのプログラマーだった既存の社員が「僕がプロデュースします」と手を挙げたのは意外でした。任せてみると、ニコ生にすごく詳しいんです。本当はこれがやりたかったんじゃないの、と思うくらい(笑)。
「好きなことをやっていい」という環境を与えたことで、仕事で見せる能力のほかにいろんな才能や興味関心、得意分野が開花しています。だったらこんな仕事を任せてみようか、と私としては考えたりもします。これらは新しい変化ですね。
■パフォーマンスよりも「変化」
【若新】齋藤さんの話を聞いてつくづく思うのは、僕が提供するサービスは「就活アウトロー採用」や「ナルシスト採用」のように「○○採用」と名前がついていますが、本当は採用サービスではなく、組織変革の取り組みだということです。こんな仕事があるから、それにマッチする人を探すのではなく、その人を採用することで、その人とともに組織が変わっていき、開発されていく。このことが重要な気がします。特にアウトロー採用の場合、従来の形式的な就活からはみ出した彼らを、また組織の枠にはめようという発想はナンセンスです。
齋藤さんは、管理職の社員がマネジメントしにくそうな人をあえて採用して、組み合わせていますよね。一般的には部下として扱いやすい人を採用したがる傾向がありますが、そうしていない。それはおっしゃたような、いい意味での「あつれき」による化学反応を期待してのことですか?
【齋藤】そうです。むしろ、それしか採用基準はないと言ってもいいくらいです。新しい人が加わることで、既存のこの人がこう変わるといいな、という期待があります。新しい社員がどこまでパフォーマンスを上げられるかは未知数ですが、既存の社員に変化が起きるだろうということは確信があるわけです。
【若新】齋藤さんのおっしゃるとおりで、個人をトレーニングしたり、モチベーションを開発したりすることには限界があると思っています。この人はこういうタイプだから、こういう仕事を与えればパフォーマンスが出るとか、こうトレーニングすればこう成長する、という単純なものではありません。
それよりも、その人が組織内でどのようにパフォーマンスを発揮し成長していくかは、周りの人との「関わり合い」にヒントがあると思います。「この人と一緒だから頑張れるし、やる気も起きる」ということがあるじゃないですか。つまり、「関わり合い」の変化をどうつくるかのほうが重要なのです。
とはいえ、あつれきを乗り越えてプラスの方向へ変化するような社員の関係性をマッチングするのは、かなりのセンスが問われますね。
【齋藤】ええ、難しいです。うまくいかないことも多々あります。
【若新】その場合は、配置転換ですか?
【齋藤】そうですね、本人に配慮しながら配置転換します。うまくいかない時は僕自身落ち込みます。でも、ミスマッチを恐れて何もしないよりは、ずっといいと思うんです。その証拠に、関係性を重視した組み合わせを意識するようになってから、社内はどんどん明るくなっています。同好会的な馴れ合いによる明るさではなく、お互いに刺激し合える関係なのでエキサイティングです。
■「あつれき」によって、会社が進化する
【齋藤】もちろん、アウトロー採用者が入社してみて期待や想定と違うことはたくさんあると思います。実際に何の仕事をするのかという話になれば、「本当はこれがやりたかったのに」という思いはあるでしょう。そこで大事なのは、お互いにどれだけ信頼し合えているか、エンゲージできているかだと思います。うちの会社の社風や人に愛着を持って、一緒に働きたいと思ってくれている人なら、多少期待と違うことがあっても、逃げずに留まってくれるはずですから。
【若新】深いところで、お互いの理解というか、信頼関係の土台さえできていれば、日常的な業務で多少は想定と違うことが起きても、歩み寄りや修正がしやすいですよね。
【齋藤】そう思います。それに、「この人とは合わない」とすぐにあきらめてしまってはいけないと思うんです。どうしても合わなければ配置転換しますが、関係性を簡単にあきらめないことが大事だと思いますね。
【若新】同感です。よく「相性がいい」とか「相性が悪い」とか言いますが、相性なんて人間が概念的に生み出した都合だと思います。関係を築こうとすれば、どんな人とも「関係そのもの」を生むことはできます。ところで、内定を出すということは、いわば恋愛が成就した段階だと言えますが、その後本人が入社して、良好な関係を続けていくうえで意識していることはありますか。
【齋藤】つねに変化していくことでしょうか。新しい社員が一人でも加われば、会社は変わらなければなりません。既存の社員も変化するし、もちろん私も変化する。仕事も変えていく必要があるでしょうね。新しい人に仕事が合っていなければ、その人に合った仕事をつくる。それが上司の仕事です。仕事の穴を埋めるために採用するのではなく、集まったメンバーでどういう仕事ができるのか、個人の長所や持ち味を生かせる仕事は何かを考えていきたいですね。
一番変わったのは私自身かもしれません。新しい社員がもたらす刺激やいい意味での「あつれき」で既存の概念が打ち崩されて、社内には自由に発想できる環境が生まれつつあります。そこで生まれる発想がビジネスにつながるかどうかはわかりませんが、きっと仕事に好影響を与えるだろうという前提のもと、ふり切った経営ができるようになりました。これはアウトロー採用やナルシスト採用に出会えたことが大きかったと思いますね。
【若新】ありがとうございます。アウトロー採用で新しい人が入ってきたことで、想像とは違う部分もあったかもしれませんが、新入社員の価値は、その「あつれき」によって組織を変化させることだと思います。変化し続けるそのプロセスにこだわっていけば、相応しい進化が生まれるはずです。そうやって、気づけば会社が色鮮やかに変化を遂げていて、ソノリテさんがさらに発展していってもらえれば僕もうれしいですね。
(慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役 若新 雄純、ソノリテ代表取締役 齋藤 和政 前田はるみ=聞き手、構成)
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