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300年以上の歴史も! 藩校の伝統を引き継ぐ名門校

プレジデントオンライン / 2015年4月5日 10時15分

(左から)福岡県立修猷館、鹿児島県立鶴丸高校、修道中学校・修道高等学校

■江戸時代の藩校の伝統を引き継ぐ学校

公立高校の中には、江戸時代の藩校からの伝統を受け継ぐとされる学校がある。たとえば岡山の仮学館の流れを汲む岡山県立岡山朝日高校。源流をたどれば、約350年の歴史を誇る超伝統校である。松山の明教館の流れを汲む愛媛県松山東高校は2015年春の甲子園に出場し、話題になった。そのほか、会津の日新館の流れを汲む福島県立会津高校、佐賀の弘道館の流れを汲む佐賀県立佐賀西高校などが有名。いずれも各県を代表する高校として今も独特の存在感を放っている。

2015年の東大合格者数で躍進した福岡県立修猷館はもともと、1784年黒田藩の藩校・東学稽古所修猷館として始まった。開校の際に掲げられた孔子聖像は、今も修猷館に受け継がれている。明治になってからの初代館長(校長)の隈本有尚は東大予備門教諭をしていた人物。教え子には夏目漱石、正岡子規らがおり、夏目漱石の『坊っちゃん』に出てくる数学教師・山嵐のモデルともいわれている。

薩摩藩の藩校・造士館は学問を重んじたことで知られる島津家によって作られた。造士館は現在の鹿児島大学へとその系譜を引き継いだが、その紆余曲折の中で現在の鹿児島県立鶴丸高校が誕生している。校名は島津氏の居城鹿児島城の愛称「鶴丸」に由来する。西郷隆盛、大久保利通など、明治維新の立役者を多数輩出した。

廃藩置県を乗り越えた藩校の多くが公立の学校になったのに対し、広島の私立中高一貫校・修道は、藩校が私学として存続した珍しい例である。1725年、広島藩5代藩主・浅野吉長が「講学所」を作ったのが始まり。廃藩置県で一度は廃校になるが、旧藩主・浅野長勲が私財で浅野学校を設立。藩校時代に塾頭を務めていた山田十竹を校長とした。1881年これを修道学校と改名した。しかし官からの圧力で、浅野家は修道の経営から手を引かなければいけなくなった。公立の学校にとって修道は邪魔な存在であったからだ。そこで山田十竹は自ら修道を経営することにする。そして現在に至る。江戸時代から聖廟に祀られていた木主は今も修道に残っている。

これらの学校の生い立ち、歩みについては拙著『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』にさらに詳しい。

■藩校の「ノブレス・オブリージュ」

しかし不思議である。藩校で教えられていたものは儒学思想に基づく学問で、明治以降の近代西洋的な教育内容とは全く異なる。藩校から近代の学校制度へと、何が引き継がれたというのだろうか。

藩校は、武士の子息が支配階級としての学問を修める場であった。西洋風に言えば「ノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)」を身につける場所である。現在の学校制度や学習指導要領のような全国画一的な規格があるわけではなく、それぞれの土地で、それぞれの文化に根ざした教育が行われた。

それが良かった。もし藩校が画一的な制度によって全国的にその枠組みが規定される、自立的ではない組織だったとしたら、廃藩置県と共にすべての藩校が消滅していたに違いない。ところが藩校の実質は、各土地の文化や状況に応じた単なる「学びの場」であった。藩校という枠組みは消えても、ノブレス・オブリージュを受け継ぐ「学びの場の空気」は消えなかったのだ。いや、消さなかったのであろう。

小さなろうそくの火がもつその熱量を、大きなたいまつに移し替えるようなものだ。儒学を学ぶのか洋学を学ぶのかはさしたる問題ではない。世代を超えて受け継がれてきた「学びの場」に蓄積された「志」こそが財産なのだ。噛み砕いて言えば、「なぜ勉強するのか」という目的意識、「やればできる」という成功体験、「自分は何者なのか」という自己同一性など。これらが共有された「場」にある「共同体意識」こそ、学校の正体であり、教育力の源泉だろう。

たとえば戊辰戦争で辛酸をなめた会津の人々が、それでも会津を誇りに思い、日新館の威風を語り継ぐのは、どんなに貶められたとしても決して奪えない、奪われてはならないものがあるという「誇り」こそを守ろうとしているからではないか。それこそが人にとっての財産であるからだ。

そしてそのようなことが理解できる視野と認知と感性を持ち合わせた人を育てることこそが、教育の究極的な目的の一つなのではないかと、藩校の系譜を受け継ぐ学校の歴史は、語りかけてくるのである。

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おおた としまさ
教育ジャーナリスト

麻布高校卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業。リクルートから独立後、数々の教育誌の企画・監修に携わる。中高の教員免許、小学校での教員経 験、心理カウンセラーの資格もある。著書は『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』『男子校という選択』『女子校という選択』『進学塾という選択』など多数。

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(教育ジャーナリスト おおた としまさ)

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