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なぜ安倍政権は憲法改正を目指すのか-船田元(自民党憲法改正推進本部長)

プレジデントオンライン / 2015年4月16日 15時15分

船田元氏(自民党憲法改正推進本部長)

■憲法改正は来年夏の参院選後に

【塩田潮】2カ月前の2月4日に首相官邸を訪ね、安倍晋三首相と会談したと報じられました。憲法改正案の国会による発議とその後の国民投票の時期について、来年夏の参院選の後にという話で、安倍首相は「それが常識的」と言ったとニュースになりました。

【船田元(自民党憲法改正推進本部長)あれは非公開の会談でしたが、実質は公開みたいな形になってしまいました(笑)。いよいよ憲法改正の具体的な中身の議論がこの国会で始まる状況になったので、安倍首相が自民党総裁として、憲法改正の中身、タイミングをどう考えているか、2点を確認したいということで、お願いしてお会いしました。

【塩田】安倍首相はその2点について、どういう意向を示したのですか。

【船田】第1の憲法改正の内容については、環境権を始めとする新しい人権の追加、緊急事態における措置、財政規律条項など、私からいくつかテーマを挙げて申し上げました。各党で自由討議をしたとき、共産党と社民党を除き、憲法を変えたいという党が共通して言及していた点なので、そこから改正したいと話をしました。それに対して、それでいいとか悪いとかはおっしゃらず、すべて国会の議論に任せるという回答でした。

第2のスケジュールの点では、われわれを応援して下さる立場の方々から、来年の参院選に合わせて国民投票を、という声が昨年の秋くらいから出ていたんです。それはいかにも早すぎると思い、国会による改正案発議も国民投票も参院選の後ですね、と確認したかった。それを申し上げたところ、「それが常識的だね」という返事をいただいた。

【塩田】去年の1月から保利耕輔氏(元文相。現役引退)の後任として自民党憲法改正推進本部長をお務めですが、ご自身の憲法改正に対する基本的なお考えと姿勢は。

【船田】学生時代から、現行憲法の第9条について、自衛隊の存在すらも解釈でようやく成り立っているのはおかしい、独立国家としてきちんとしなければ、と思っていました。今も第9条の改正が憲法改正の1つの柱であり、肝であると思っています。その後、いろいろと憲法の中身を研究していくうちに、ほかの部分でも当然、改正すべき点、現状に合わなくなった部分がいくつかあるとわかり、総合的に議論するようになりました。

【塩田】この10年間で、自民党は、いずれも憲法改正推進本部が中心となって、小泉純一郎内閣時代の2005年に「新憲法草案」、2012年の谷垣禎一総裁時代の「日本国憲法改正草案」と、2回、憲法改正案を策定しています。両方とも憲法の全条項を対象とした全面改正案ですが、これから議論するに当たって、なぜ限定的な案を想定するのですか。

【船田】大前提として、国会法で「憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」(第68条の3)と決められていて、憲法改正は何回かに分けて行うことになります。国民投票法(日本国憲法の改正手続に関する法律)を決めるとき、国会法も改正して付け加えた。1回で全条項の改正をやるのは物理的に無理だから、何回かに分けて、ということです。

われわれも国民投票する国民のみなさんも初めての経験です。もちろん第9条が大事ですが、1回目からこれを扱うと、なかなか厳しいだろうということがあります。1回目で仮に国会が第9条改正を発議して、国民投票で否決される事態が起これば、多分、憲法改正は政治的にはしばらくできないでしょう。第9条以外に改正したいところがありますから、第9条改正は2回目以降にして、それ以外で、多くの政党、国民が賛成する項目から取り組んでいくのが現実的な対応ではないかと思います。

■修正して新しい憲法に生まれ変わる

【塩田】安倍首相は政権復帰の直後、2013年の春先まで、「衆参両院の総議員の3分の2以上」と発議要件を定めている現行憲法の第96条を、ほかの条項よりも先に改正を、と唱えていましたが、今回の1回目の改正事項では第96条の改正は取り上げないのですか。

【船田】総理はおっしゃっていません。一昨年は、祖父の岸信介元首相以来の懸案の憲法改正に取り組んで、「戦後レジームからの脱却」の総仕上げにしたいという思いが非常に強くあり、憲法について発言したいという気持ちが非常に強くあったのだと思いますね。

それであの発言になったのですが、批判を受けて、総理として学習をされたのではないかと思います。憲法改正の必要があり、改正したいという意欲は示していますが、あれ以来、内容についてはほとんどおっしゃらなくなった。

【塩田】憲法上は、内閣総理大臣は憲法改正についてなんの権限もありませんからね。

【船田】ありません。すべて国会です。

【塩田】憲法改正を実現するには国民の理解と支持が不可欠です。どういう憲法をつくりたいか、安倍首相は自ら明確にして国民に訴えなければ、支持は広がりません。

【船田】総理は中身について自分が言うのは控えるのがいいと思っています。われわれは2012年の憲法改正草案が総理の考える憲法改正の姿と理解しています。05年の新憲法草案はもっとおとなしかった。12年は野党時代でしたから、野党として自民党の原点に戻ろうという気持ちが強くて、少し勇ましいことも含めて、草案に入れ込んだ。そのとき安倍さんは、当然、関与していますので、ご自分の意見も相当述べられ、それが草案に反映されていると思います。

【塩田】12年の改正草案は、憲法の前文も全面的に書き替えることになっていますが、今回は前文の話は出ていないのですか。

【船田】前文は憲法全体の姿を反映する形にしなければいけない。私は、改正の中では最後で、何回かやった後、それを踏まえて前文を書き直すのが順番ではないかと思います。

【塩田】自民党には結党以来、条項別の改正という考え方ではなく、占領下でできた現行憲法に代えて自主的に憲法をつくらなければ、という自主憲法制定論が根強く存在しています。ですが、段階的に部分的に改正ということだと、現行憲法の修正となりますね。

【船田】修正です。

【塩田】安倍首相もかつて私のインタビューで「憲法改正案を下地から書こう」と話していました。下地から新しい憲法をつくるということとは違うのでは。

【船田】違います。確かに現憲法はマッカーサー草案が基礎にあり、押しつけられてできた部分、要素はありますが、戦後約70年、その中で経済成長も果たし、民主国家として先進国の仲間入りもできた。押しつけられたから破棄する、あるいはまったくゼロからというのは、革命以外にはできません。定着した日本国憲法を考えると、根っこから変えることはできないと思います。憲法を適切に改正し、部分的な修正を積み重ねていって、結果として新しい憲法に生まれ変わると思っています。私はそういう穏健な考え方です。

■三つの原則は絶対に変えない

【塩田】国民主権、平和主義、基本的人権の尊重は、現行憲法の基本原則で、国民に支持され、広く定着していると思いますが、基本原則の見直しも含めて議論するのですか。

【船田】これから衆参の憲法審査会の中で議論をしていくことになりますが、ここは改正していけないという、いわゆる「改正の限界」もあると思います。保岡興治・衆議院憲法審査会長はそこを非常に重視していて、三つの原則は変えない、と。各党で確認する必要がありますが、三つの原則は絶対に変えないことという点では、各党とも間違いなく共通だと思います。

【塩田】安倍首相は昨年12月の総選挙で、憲法問題を国民に訴えるべきだったのでは。

【船田】第96条の件がトラウマになっていたので、中身について自分が言うとうまくいかないとお考えになって、あまりおっしゃらなかった。自民党としては、草案はすでに示していますので、説明はしてもよかったと思いますが、これで改正すると言えば、国会での各党との議論を縛り、抑制してしまう。ほかの党は、自民党が勝手にやればいいということになり、3分の2を超えられなくなる。総選挙でのわが党の公約、総裁の演説などは、私は妥当だと思っています。

【塩田】これから2016年の参院選までに衆参の憲法審査会でどんな議論をするのですか。

【船田】変えるならどこを変えるか、項目を絞り込んで各項目についてどういう条文にするかという議論はしたいと思っています。ただ、来年の参院選前の通常国会で原案ができるかどうかは、ちょっとわかりません。

【塩田】来年の参院選で改憲案を示し、参院選後に発議すると国民に訴える計画ですか。

【船田】参院選で改正原案を示すことはちょっと考えにくい。衆参で3分の2を超える人に賛成をしてもらわないといけない。参院選で、わが党はこう直す、と勝手に言われると、まとまらなくなる。憲法改正を争点にするのは、考えられないし、考えたくない。

【塩田】国政選挙で憲法問題について国民に訴えることは必要ではないかと思いますが。

【船田】それは必要です。ただ、憲法改正に賛成の政党は同じことを言わざるを得ない。そういう意味で、説明をする機会にはなりますが、国民がどの政党を選ぶか、どういう人を選ぶかというとき、憲法の中身の問題を判断の材料にすることはないと思います。

【塩田】憲法改正案の発議の前、参院選と同時に衆議院総選挙も行って、憲法改正を論点にして国民に信を問うべきではないかという意見もあります。

【船田】衆議院も参議院も、選挙は政党や人を選んだり、政権を選ぶのが目的ですから、その政治選択と憲法改正を一緒にやると、議論がおかしくなってしまう。憲法改正の国民投票は、本来は別にやるべきです。国民投票にかけるべきものを参院選や総選挙のときに判断させるのは、違うのではないかと思いますね。

■憲法改正は政局にしてはいけない理由

【塩田】来年の参院選の後、もし発議要件を満たして改憲案の発議ができた場合、憲法改正の国民投票を次の総選挙と一緒にやる方法もあります。衆議院議員の任期満了は2018年12月なので、国民投票と総選挙は同時になると想定する人もいます。

【船田】今のところ想定していません。別々にやると費用が無駄ではないかという意見もありますが、民主主義は手間を省いてはいけないというのがわれわれの考え方です。最初からダブル選挙を目指して国民投票を考えるのは、ちょっと違う。それぞれ国民の判断を仰ぐのが正しい道だと思います。

【塩田】憲法改正には、参議院で3分の2超( 162議席)を確保できるかという「参議院の壁」と、国民投票で過半数を得られるかという「民意の壁」が立ちはだかります。まず来年の参院選で一発で壁を越えられるかどうか。自民党だけでは40も不足していますが。

【船田】参議院は数が足りませんね。来年の参院選で、自民党だけで届かないし、憲法改正に賛成する人たちで3分の2を超えるかどうかも、まだわかりません。非常に厳しいと思います。ですが、とにかく3分の2を超えることを目指していく。参院選の結果、どうするかは、そのときになってみないとわかりません。参院選前は、現有勢力の下で賛成が3分の2を超えるという前提で議論していきます。

【塩田】現状では自民党と維新の党と次世代の党が憲法改正に前向きで、公明党は「加憲」と言っています。民主党は改憲派と護憲派が混在しています。実際に憲法改正となると、各党は党議拘束かける可能性があります。

【船田】ありますね。

【塩田】民主党の岡田克也代表は「安倍政権の下では憲法改正には賛成しない」と言っていますが、憲法改正問題が軸となって、現在の与野党の枠組みを越えて、改憲勢力と非改憲勢力に政界が再編されていくというシナリオも視野に入れていますか。

【船田】政界再編や野党の再編、あるいは与野党が境界を越えて動くことになれば、これは政局になります。政局が前面に出たときは、憲法改正の議論は多分できなくなる。波静かで政策を議論できる状況でなければ、憲法改正は難しいのではないかと私は思います。

ですから、政党の中に手を突っ込んでやるのは、いっさい避けるべきです。現在の各政党の勢力図の中で、できるだけ憲法改正に賛成する政党を増やしていく。民主党でも、テーマによっては憲法改正はいいよというところまで来ています。岡田さんが安倍政権では駄目とか言っていますが、それこそ政局を狙った発言で、邪道です。憲法改正は誰が首相であろうと、国会のみんなで決めて改正という方向に行けば、国民投票に行くべきものです。岡田さんの考え方はおかしいと思っています。

■野党が再編されていないことが問題

【塩田】もう1つの国民投票での「民意の壁」は。

【船田】それは大変ですね。でも、国会で3分の2を超える状況になれば、賛成した党の組織の中で当然、運動が展開されるはずです。私自身は心配していません。現在の世論調査の数字は、憲法改正の是非を問う設問に第9条への賛否が入っていたり、自民党の憲法改正草案を念頭に置いて、そういう方向の憲法改正に賛成かどうかという聞き方が多い。そうなると、拒否反応や懸念は国民の間に当然ある。1回目の憲法改正の中身となるテーマを明確に示した上で改めて世論調査をしてもらいたいと思っています。

【塩田】安倍首相は今年9月の総裁選で再選すると、2018年9月まで任期があります。そこまでに必ず1回目の国民投票を、と考えていて、「常識的」と言った来年の参院選後の16年後半から17年に発議、国民投票を想定していると見られます。1つ気になるのは、17年4月の消費税再増税との関係です。次は増税法に景気条項は付きませんが、それでも16年の秋から暮れに最終的な政治判断が必要になります。その時期が憲法改正案の発議と重なり、もしかすると増税実施の前後に国民投票となるかもしれません。その影響は。

【船田】それは仮定の議論です。変動要因もあるので、一概には言えません。ただ消費税再増税の問題と憲法改正の話は、できるだけ絡めずに議論していきたいと思っています。

【塩田】憲法以外のお話をお聞きしたいと思います。1990年代に自民党を離党し、二大政党政治の実現を目標に、新生党、新進党と歩んだことがありますが、現在の「一強多弱」の状況を見て、政党政治の現状、民主主義のあり方について、どう受け止めていますか。

【船田】「一強多弱」は、基本的に今の衆議院の選挙制度の結果としてそうなったのではないと思います。制度ではなく、運用の問題です。特に自民党が勝っているのは、われわれからすれば、野党のみなさんが各党の主張を曲げない、あるいは狭い考え方で運営しようとしていて、それで割れて、野党が再編されていないという状況こそ問題です。

二大政党政治、政権選択選挙でいくには、野党のみなさんが自民党に対抗できるもう1つの新たな政党をつくる方向で努力しなければ。政権交代は2009年の総選挙で1回起こりましたから、起こらないということはない。今後もあると思います。

【塩田】振り返って、新進党の運動が不発・空中分解に終わったことをどう思いますか。

【船田】最初から寄せ集めでしたね。基本政策において、各党がもともと持っていたものを捨て去って新しいものをつくるという努力を、しようと思ったけど、できなかった。それだけの能力がなかったと言わざるを得ませんね。民主党も基本的な考え方、政策においてさまざまなものが残っていますので、その危険性があります。よそのことは言えないけど、自民党だって、それはあります。でも、自民党はいざというときにまとまります。

【塩田】なぜ自民党はいざというときにまとまるのですか。

【船田】割と物の考え方が柔軟です。それからいろいろな分野から人が集まっている。出身が非常に多様化しているんです。それから、憲法第9条の話ではありませんが、国としての安全とか緊急事態における対応には、個々の考え方の違いを乗り越えて協力しようというモチベーションや発想が自民党にはあると思います。

■私益よりも公益、国益を重視する

【塩田】非常に難しい時代ですが、現代の社会で、政治は国民に対してどういう役割を果たさなければいけないと思いますか。

【船田】世界の中での日本の役割、日本がやるべき仕事を、政治がきちんと見つけて、そこを伸ばしていくのがとても大事だと思っています。

【塩田】その場合の政治家の使命と条件は。

【船田】私益よりも公益、国益を重視する。私益を捨てる覚悟も必要というのが政治家の要諦ですね。

【塩田】政治リーダーは条件とどんな資質を備えていなければいけないと思いますか。

【船田】冷静さ、大局観、自らを捨てる覚悟の3つです。

【塩田】政治家としてこれだけは、という達成目標は何ですか。

【船田】やはり憲法改正を少なくとも1回はやりたい。もう1つは日本の科学技術です。基礎研究は優秀ですが、応用のところに行かない。「死の谷」とか言われています。応用までつなげて、科学技術で日本が世界をリードし、優位に立てる状況をつくりたい。

【塩田】長い政治生活で、今までで一番嬉しかったことは何ですか。

【船田】憲法改正手続に関して、投票年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げましたが、公職選挙法改正をプロジェクトチームの座長としてまとめることができたのが非常に嬉しかった。もう1つは11回、当選したこと。続けられたということです。

【塩田】逆に一番苦しかったことは。

【船田】それは逆に2回、落選したことです。落選すると、要するに歯車が全部、逆に回る。いわゆる名誉がずたずたになる。落ちると、「ただの人」以下です。人間として、全部、剥奪された上、ゼロじゃなく、結局、マイナスになる。

落選を経験すると、自分の考えだけですべてが動くなんてことは全然ないとわかりまして、人の話をちゃんと聞いて、妥協できるときは妥協しよう、と。そういう意味で、度胸が据わったというか、柔軟になったというのは、落選のお陰かなと思っています。

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船田元(ふなだ・はじめ)
衆議院議員・自民党憲法改正推進本部長・元経済企画庁長官
1953年11月、宇都宮市生まれ(現在、61歳)。栃木県立宇都宮高校、慶応義塾大学経済学部卒。25歳で79年の総選挙に旧栃木1区から出馬して初当選(以後、2回の落選を挟んで当選11回)。曾祖父の元田肇(元衆議院議員、元鉄道相)、祖父の船田中(元衆議院議長)、父の船田譲(元栃木県知事、元参議院議員)に続く4代目の世襲政治家。初当選後、慶大大学院社会学研究科修士課程修了。宮沢喜一内閣で経企庁長官を務め、93年に自民党を離党して新生党の結党に参加する。新進党に参加した後、97年に自民党に復党。自民党憲法調査会長、憲法改正推進本部長代行などを経て、2014年1月から本部長。夫人は元参議院議員の畑恵(現船田恵)。著書は『日本をよくする本―将来世代を重視する政策ノート』『政界再編』。「学問をすることの大切さを明確に示した」と福沢諭吉を尊敬。時間があればやりたいと思うのは「ロードバイクと天体観測」と話している。

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(作家・評論家 塩田 潮 尾崎三朗=撮影)

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