熟年離婚で「損」するケース、「得」するケース
プレジデントオンライン / 2015年5月19日 8時45分
■“独立採算制”の夫婦が注意すべきこと
熟年離婚は、通常、子供が成人している場合が多いため、親権や養育費の問題が絡むことは少ない。一番の争点は財産分与です。離婚に際して、浮気など非があるほうの有責配偶者は慰謝料を払うことになりますが、財産分与は非のあるなしは関係なく折半が基本。婚姻期間中に築いた家庭の財産は、妻が専業主婦であろうと、半分は妻の内助の功で築かれたと見なされるからです。
例えば住宅。熟年ともなれば、住宅ローンを完済している夫婦も多い。夫名義で家を購入、ローンも夫名義で返済し終わったとしても、半分は妻の権利。売却益を分け合うとか、妻が家をもらう代わりに相当額を夫に払うなどの解決策があります。
借金も財産分与の対象です。住宅ローン完済前であれば、ローン残額の債務を2人で分け合うことになります。ただし、夫単独の名義でローンを組んでいる場合、離婚で折半が決まっても、銀行から見れば、返済義務者は夫。万一、返済が滞ったら、裁判を起こされるのも、強制執行されるのも名義人の夫です。
意外な盲点は退職金です。定年前であっても財産分与の対象になれば婚姻期間に応じて分与します。ポイントは、将来の支給が確実かどうか。公務員や大企業勤務で定年が近い場合は支給がほぼ確実で、支給額も計算できます。しかしながら、民間企業で40代前半だと退職金は現実的ではないとの理由で財産分与の対象になりにくい。また、将来の退職金の分与が確定しても、解雇や倒産などが発生した場合、事情変更による「調停」を申し立てるなどして分与条件を変えることは可能です。
財産分与に当たって、男性は財産の全体像を把握できていないことが多いので注意が必要です。結婚後に築いた財産は原則として分与対象になりますが、家庭の財産全体を把握できていなければ、本当の意味で折半できません。家庭の銀行口座は1つとは限らない。預貯金は給与振り込みとは別の銀行かもしれない。どんな保険に入っていて、解約したらいくら戻ってくるのか。株など証券類はないのか。こうした家庭の財産管理を妻に任せっぱなしは禁物です。
最近は万が一の状況(離婚)を想定して、お互いに一定額を家庭に出し合い、残りは自分のものとする“独立採算制”の夫婦が増えています。しかしながら、財産分与となれば、原則としてお互いの財産をすべて開示し合い、全体を折半することになるから要注意です。
相手が財産を開示しない場合、財産を預けてある銀行と支店がわかっていれば、裁判になっている場合は、裁判所から銀行に照会をかけて、口座の履歴を取得できます。しかし、銀行名だけでは、銀行側が照会に応じないことが多く。注意が必要です。これは保険など有価証券類すべてが照会対象です。相手がどこの銀行と支店を利用しているか全く予測ができない場合は、照会することも困難になるので、自宅に届く郵便物や相手の普段の行動から、取引のある金融機関を把握しておくべきです。逆にいうと、推測しにくい金融機関にヘソクリをつくられてしまうと、結局ヘソクリを隠されたままになってしまう危険性があります。
もう一つ問題になりやすいのが、妻の両親と養子縁組をしたいわゆる婿養子です。離婚が成立しても、養子縁組の親子関係は自動的には解消しない。離縁は離婚と同様に相応の理由がないと成立しません。特に妻側の両親が資産家の場合、夫は資産を相続できる前提で婿入りしているため、簡単に引かない。離縁してもらう代わりに、親側が“手切れ金”を渡すこともあります。
熟年かどうかを問わず、離婚裁判となれば、弁護士費用は着手金30万~50万円程度。報酬金50万円以上が目安ですが、ケースバイケースなので、まずは弁護士に相談するのがよいでしょう。少なくとも損をしない離婚にするためには、家庭、特に財産管理に積極的に関わり全体を把握しておくことが大切です。
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1979年、愛知県生まれ。私立滝高校卒。早稲田大学法学部卒業後、2005年弁護士登録。中小企業の企業法務や家事事件、交通事故、相続、離婚などの身近な法律トラブルを幅広く扱う。ラジオ出演や地方紙連載も。
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(弁護士法人柴田・中川法律特許事務所 弁護士 中川 彩子 構成=斎藤栄一郎)
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