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定年退職の商社マン、69歳で介護資格取得。77歳でも現役の秘訣は「健康維持」

プレジデントオンライン / 2015年6月28日 10時15分

熊野忠孝さん(77歳)

ほどよい緊張感のある健康的な生活を送りながら、報酬も手にできる――。定年退職した後の「第2の仕事人生」を生き生きと充実させている人がいる。一方で、退職と同時に家にひきこもり、心身の健康も崩しがちになり、妻や子どもに疎んじられてしまう人もいる。両者の分かれ道はどこにあるのか。

■タバコ、酒を一切断って健康維持

前職と、あえて別分野の仕事に就いた人がある。伊藤忠商事の機械建設部門から55歳で関連会社に出向、63歳で退職した熊野忠孝さん(77歳)だ。

熊野さんは定年退職後に、別の会社に雇用され66歳まで働いた。しかし、「老後」を自宅でのんびり過ごしていたら体重が一気に増え、体調も崩すようになってしまった。

ある日、商社時代のOB会に出席した熊野さんは、介護施設の経営に携わっている後輩から施設のパンフレットを手渡される。入居対象者として、だ。介護が必要と見なされるほど不健康に見えるのだと自覚した。後輩と会話する中で、「介護の仕事をすればすぐにやせられる」と聞き、体力には自信がある熊野さんは施設にスタッフとして入る決意をする。

「私は変な性格をしていて、何事もタイムスケジュールを決めて取り組みたいのです。そのとき『70歳までに介護の資格を取ろう』と決意して、朝から晩まで専門学校に通って2カ月ぐらいでホームヘルパーなどの資格を取りました。後輩には『資格が取れたので私を使ってくれないか』とお願いしました」

自ら期限を切って集中して学習するのは、「変な性格」などではなく「できるビジネスマン」の特性である。介護施設に採用され、熊野さんの新しい毎日が始まった。

毎朝5時に起き、体力向上のために30分かけて歩いて最寄り駅へ。バスと満員電車を乗り継いで施設に到着するのが7時半。そこからは走り回るようにして働いている。洗濯物の片づけ、掃除、皿洗い、食事や入浴、トイレの介助……。レクリエーションの時間は「先生」役を回り持ちで務め、空き時間には麻雀の相手をすることもある。

「もちろん、勝たせるための麻雀ですよ。わざとふりこんだりして上手に負けることには自信があります」

芸は身を助く。商社時代に嫌になるほど経験した麻雀の技術が思わぬ場所で生きているのだ。

「私は昔から人の話を聞くのが大好きなのです。施設にはいろんな方がいますよ。魚屋さん、布団屋さん、クリーニング屋さん、真珠を売っていたというおばあさんもいます。商社マン時代とはまったく違う世界ですが、楽しい。認知症の人が話しているうちにちょっと笑ってくれることがあります。あれは本当にうれしいですよ」

熊野さんの出勤日は水曜から日曜日、時給制のアルバイトだ。「土日は電車が空いているし、うちにいても家内に庭の草取りをやらされるだけ」と笑うが、若いスタッフを土日は休ませてあげたいという心遣いもあるのだろう。元気に働く熊野さんのために、妻は毎日弁当をつくってくれる。

仕事には人一倍真面目な熊野さん。体調管理には気をつけている。1日に5箱吸っていたというタバコはきっぱりやめた。酒も飲まず、刺し身などの生ものも避け、睡眠時間もしっかりとっている。

「学校や会社関係などのOB会にも5年以上出ていません。楽しいけれど暇がないですから。その時間に寝て体力をつけたい。以前は友人が死ぬたびにショックを受けていましたが、最近は『少し先に逝ったんだな』と淡々と受け止めるようになりました。私は80歳まで働ければいいと思っていますが、先のことは考えないことにしています」

熊野さんは謙虚な姿勢を崩さない。介護福祉など社会的意義の大きい分野で働きたい後輩世代へのアドバイスを求めたが断られた。

「私の現役人生はもう終わっています。自分が楽しく働いているだけ。他人にアドバイスできることなんてありませんよ。体力とエコひいきしない心があれば、介護施設はいい職場の一つだとは思いますけどね」

ただし、子育て世代の正社員にとっては介護福祉の労働条件は厳しいと熊野さんは真剣な表情で付け加えた。そこにはかつて海外を飛び回っていた商社マンではなく、若い仲間と業界の将来を心配する現役の介護スタッフの姿があった。

(フリーライター 大宮 冬洋 伊藤千晴=撮影)

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