なぜ教育熱心な親ほど子供を追いつめてしまうのか?
プレジデントオンライン / 2015年8月29日 12時15分
■過去の自分へのダメ出しが子供に向かう
「教育」という名の「虐待」が人生を狂わせることがある。なぜ教育熱心な親が、子供を追いつめてしまうのか。その心理に迫る。
まずよくあるのが、親自身に学業に対するコンプレックスがあるケース。英語の苦手な人ほど子供に英語を学ばせたがるのと同じだ。自分には学歴がなくて苦労したという親は、子供になんとしても学歴を授けようとする。
また一見高学歴であっても、実は東京大学に行けずに慶應義塾大学に行ったなどという場合では、成功体験と屈辱体験の融合が、わが子への歪んだ期待となる。「子供には成功してほしい」という顕在的な願いの一方で、「子供にも屈辱経験を味あわせなければならない」という潜在的な欲求が渦巻く。だから、自分の成功体験に基づいてわが子を激しく鼓舞する一方で、わが子の努力や成長を認めてやることができず、「お前はまだまだダメだ」というメッセージを発し続ける。それは実は、過去の自分へのダメ出しである。
一方で、非のつけどころのないスーパーエリートの親が子供に過度な勉強を強いて、子供をつぶしてしまう悲劇もある。医師の親が息子をなじり、最終的には息子が親を撲殺してしまった事件などがその例だ。
■最短ルートから外れることを過度に恐れる
人は誰しも、自分の人生しか知らない。常に最短距離を選んで歩いてきた人は、あえて回り道をして思わぬ感動に出合うような人生の楽しみ方を知らない。たった一度でも回り道をしてしまったらおしまいだと思ってしまう。
たいていの場合はどこかで回り道を余儀なくされ、その道程で思わぬ出会いに恵まれ、最短ルートを行くだけが人生じゃないと悟る。そこから人生の視野が広がり、味わいが深まる。しかし幸か不幸か常に最短ルートを進むことができてしまった人は、最短ルートから外れることを過度に恐れる。子供ができれば、子供にも最短ルートを歩ませなければいけないと思い込んでしまう。これが、高学歴の親が陥りやすい心理だ。
自分の知らない道を歩ませるのは怖いから、わが子にも自分と同じ道を歩かせたいと望んでしまう。そうやって自分の恐怖をわが子に引き継いで、自分だけ安心しようとする。しかし親の恐怖を引き継いだ子供もまた、恐怖を感じながら人生を歩まなければならなくなる。高学歴は手に入れられるかもしれないが、常に不安な人生だ。それが本当に子供のためだろうか。親自身が、恐怖心から逃れたいだけである。
学歴コンプレックスがあるにせよ、高学歴ルートから外れるのが怖いにせよ、人生の成功を学歴にとらわれているという意味で同じだ。コインの裏表でしかない。「学歴がないとまともな人生を送れない」という恐怖心を植え付けることで子供をコントロールしようとする。それがこのタイプの教育虐待の基本構造になっている。
■本当の意味で、「わが子を守る」とは?
あるイギリス人が、笑いながら私に話してくれた。「私の家は代々、名門校を卒業して、オックスフォード大学かケンブリッジ大学へ行くのが伝統でした。私も高校までは名門校に進学しました。でも、わが家系の200年の歴史の中ではじめて私が、オックスフォードにもケンブリッジにも合格できませんでした」。
相当なプレッシャーだったはずだ。しかし父親は「そういう人生もある」と認めてくれたそうだ。彼は今、日本で音楽関係の仕事に就いている。素晴らしい人生を送っていると語ってくれた。名門校に通い、オックスフォードやケンブリッジを卒業する人生だって悪いものではない。素晴らしい人生だろう。しかしそのこと自体が目的化すると、人生がそのルートに規定される。
わが子がそのルートから離脱するに際しては、父親にだって葛藤はあっただろう。しかしこの父親は、それを引き受けたのだ。恐怖を息子に引き継がず、自分の代で断ち切ったのだ。これこそ本当にわが子を守ることではないかと私は思う。
最近私は『追いつめる親 「あなたのため」は呪いの言葉』という本を書いた。そのために、壮絶な教育虐待の実態を取材した。ときどき言葉を失った。しかし教育虐待の闇を照らすことで、「教育とは何か?」「親の役割とは何か?」が見えてきた。すべての親と、未だに親子関係に葛藤を抱えるすべての大人に、読んでもらいたい。
(教育ジャーナリスト おおた としまさ)
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