学歴や金ではない、人気と愛情の格差
プレジデントオンライン / 2015年8月4日 11時15分
■ダメでウザいけど人気があるやつって?
とある東大卒の上場企業経営者にこんなことを聞かれました。
「ニートたちの中にも、うまくいく人と、いかない人の、格差ってあるの?」
僕は、全員がニートの「NEET株式会社」や、就活を辞めた既卒者向けの「就活アウトロー採用」など、多数派の枠からはみ出したマニアックでひねくれた人たちの集まるコミュニティをいくつかつくっています。
そんな、一見「社会的にダメなやつ」の烙印を押された者同士のコミュニティの中でも、みんなから受けいれられて人気のあるやつと、受けいれられずに不人気なやつがいます。
面白いことに、人気のあるやつはその「ダメなやつコミュニティ」の外に出ても、やはり人気者なのです。自分の考えたサービスを使ってくれる人が増えたり、ちゃんと企業から内定をもらえたり、人気の効力はコミュニティの枠を超えていきます。
人気か不人気か。その違いを考察してみると、学歴や経歴、家柄なんかではありませんでした。そして、持っているお金や知識量の差でもありませんでした。ケチで、ズレたことばっかり言うのに人気なやつもいれば、言動はすごくまともなのに不人気なやつもいます。
それはなぜなのか。ちょっと極端な例ですが、僕たちが運営しているコミュニティの中にいる、J君の話をしようと思います。J君は、相手の話はすぐに遮り、大声で自分の話ばっかりしています。みんなで議論しようという時も、自分の話はとまりません。はっきり言って、かなり「ウザいやつ」です。しかしJ君は、不思議とコミュニティに受けいれられていて、彼なりの役割を担っています。
■条件なしに自分を肯定できるか?
J君をみていて分かることは、人の邪魔はするけど、傷つけることはしないということです。空気が読めず、場面に応じた言動や適切な振る舞いはさっぱりできませんが、人をなにかと攻撃したり、その評価を下げたりするようなことはしません。とにかく人なつっこく、隙あらばやたらと絡んできて、なんやかんや話に入り込んでくるのですが、自分と他人を比較して、けなすようなことは言いません(酒癖は最悪のようですが)。
とにかくウザいけれども、やたらと愛情深く、なんか応援したくなってくるのです。
聞いてみると、J君はとにかく、両親から無条件に愛されて育ったようです。母親からはいつも、「人と違ったり、勉強ができなかったりしても、家族はそのままのあなたが好き」と言われてきたようです。「◯◯ができるから好き、△△だからすばらしい」という条件付きの評価や肯定ではなく、「なにもなくても、なにもできなくても、そのままでもいい」という条件なしの肯定と愛情をちゃんと受けとってきた人は、自分のことを「無条件肯定」できるようになり、高いセルフ・エスティーム(Self-esteem:自己肯定感)を持つことができるようになると言われています。
ここで重要なのは、家族など身近な人からの愛情によって自分を無条件肯定できる自己肯定感の高い人は、自分と他人とをやたら比較したり、激しくけなしたり攻撃したりしないということです。そして、自分を受けいれてもらえるコミュニティを見つけることができるのだと思います。
■人気の格差の正体は……
僕は、人気の格差は「愛情の格差」でもあると思っています。
学校での成績や習い事の成果が優秀だったとしても、「また100点、あなたはずごい」「一等賞で、誇らしい」といってその点数や順位、結果ばかりを評価されていると、自分は「優秀という条件付き」だから価値がある、と思うようになってしまって、自己肯定感を持ちにくいようです。もちろん、その家族に愛情がなかったわけではないのでしょう。でも、どうしても成績優秀だとその結果ばかりを評価してしまいがちです。
そうやって「条件付き」で育つと、進学や就職もうまくいって一見順調な人生を歩んでいるようにみえても、無条件には自分の存在を肯定できず、自分の存在意義や立ち位置を守ることに必死になり、勉強や仕事のライバルを攻撃したり、ひどく妬んだり、時には傷つけたりしてしまう人が多いようです。こうなると、なにかピンチに陥った時や、うまくいかなかった時、もしくは何かにチャレンジしようとする時に、それこそ“人気”がなくて、同僚や仲間から応援してもらったり助けてもらったりすることができなくなってしまいます。
学校や会社、ありとあらゆる社会生活において、評価や価値の「条件」はついてまわります。それでも、僕たちはどこか未熟で不完全な存在であり、思わぬ激変に巻き込まれ「なにものでもない」ちっぽけな存在に立ち戻ってしまった時にも、それを受けいれてもらうことができる人気と愛情を持った人間でいたいものです。
(慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役 若新 雄純)
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