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「東芝不適切会計」第三者委員会報告書で深まる混迷

プレジデントオンライン / 2015年8月20日 11時15分

■第三者委員会が混乱を助長!?

7月21日に公表された東芝の「不適切会計」に関する第三者委員会報告書は、歴代3社長が現場に圧力をかけるなどして、「経営判断として不適切な会計処理が行われた」「経営トップらを含めた組織的な関与があった」などと、経営者の責任が厳しく指摘しただけでなく、問題の背景となった企業風土についても言及した。この報告書を受け、田中久雄社長のみならず、前社長の佐々木則夫副会長、前々社長の西田厚聡相談役も辞任したほか、10人の取締役、執行役員が辞任した。

日本を代表する伝統企業東芝のガバナンスや企業風土を厳しく断罪した第三者委員会報告書は、マスコミ、世間からは肯定的に評価されており、東芝は、報告書で指摘されたガバナンスの改善に向けて、7月29日に社外取締役の伊丹敬之氏を委員長とする経営刷新委員会が発足し、再生に向けて取組みを始めているように思われている。

しかし、これまでの経過と報告書の内容を見る限り、今回の第三者委員会の活動には多くの疑問があり、東芝の問題をめぐる混乱を一層助長し、解決を妨げかねないように思える。

東芝は、4月3日に、社外の専門家を含む特別調査委員会を設置して、インフラ関連の工事進行基準に係る経理処理の問題について調査を行った結果、さらに調査を必要とする事項が判明したとして、5月8日に、第三者委員会を設置した。そして、有価証券報告書及び第1四半期報告書の提出期限の延長の承認を受け、6月25日株主総会では、前期末の決算報告を見送り、7月21日に第三者委員会報告書を公表。8月末に有価証券報告書、9月14日に第1四半期報告書を提出し、9月下旬に臨時株主総会が開かれる予定となっている。

まず疑問なのは、連結売上6兆円もの規模の会計処理に関する問題を第三者委員会で調査するのに、その期間が僅か2カ月余りと極めて短期間に設定され、調査対象も4つに限定されていることだ。そのような期間での限られた事項の調査では、問題の本質や根本原因を明らかにすることはおよそ不可能である。

最大の問題は、監査法人の監査の妥当性の評価は調査の目的外だとして評価判断を回避し、まさに「不正会計」の核心である会計監査人の監査法人との関係を調査対象から除外していることだ。

■監査法人は「だまされた」のか?

今回の東芝の問題は、工事進行基準における損失引当金の計上や、部品取引、在庫評価減の会計処理の問題など、会計上の「評価・判断」が絡む問題だ。会社側の会計処理の評価・判断に関して、監査法人が「適正な処理」と認めるかどうかが重要なのであり、不正な会計処理を行おうとするなら、監査法人の担当者に虚偽の資料を提示したりして「だます」か、監査法人に「見過ごしてもらう」しかない。

その点に関して東芝の役職員がどのように関わっていたのかが重要なのであるが、その点についての言及は極めて不十分なので、結局のところ、「不正会計」の問題の核心がほとんど明らかになっていない。

郷原信郎(ごうはら・のぶお)●弁護士、名城大学教授・コンプライアンス研究センター長

しかも、報告書は、一般論として、監査法人が不適切な会計処理を指摘できなかったことはやむを得ないかのような言い方をしている一方で、監査法人の対応に重大な疑惑を生じさせる事実を断片的に記述している。

米国の原子力事業子会社の発電所の建設受注案件について、新日本監査法人が、「未修正の虚偽表示」(会社が、監査人が適切と考える会計処理とは異なった会計処理を行った場合でも、影響の程度によっては、財務諸表は修正せず、「未修正の虚偽表示」として記載することが許容されるというもの)として処理した件について、「100億円程度であれば未修正の虚偽表示として処理することを許容する旨の(新日本の)発言があった」という東芝CFOの供述を記載している。「新日本監査法人は、かかる発言があった事実を明確に否定している」とは述べているが、東芝側が、監査法人側が損失先送りを認めるかのような発言をした、と説明しているとすれば、それ自体が監査法人に重大な疑念を生じさせることになる。

「パソコン事業における部品取引」の問題については、当該会計処理方法を悪用して見かけ上の当期利益を嵩上げしていたことが指摘され、報告書末尾に、毎期末月に損益が異常に良くなっていることを示すグラフが資料として添付されている。これを見ると、監査法人が不正に気付かないことはあり得ないように思える。実際に、監査法人に対してどのような説明や資料提示が行われていたかについては触れられていないので、そのグラフが添付されていることによって、監査法人に対する疑念が生じる。

このように断片的に監査法人に関わる問題が指摘されていることで、監査法人の会計監査に対する疑念が一層深まり、今後も、同じ監査法人に会計監査人を務めさせて良いのか否かすらわからない事態になっているのである。

■財務報告を適切に行えるのか

また、不可解なのは、2015年3月期末の決算が固まる前に、第三者委員会の調査が終了していることである。委員会報告書で指摘された「不適切会計」のほとんどは「損失先送り」であり、それによって2012年から13年にかけての決算が「意図的な見かけ上の利益の嵩上げ」と訂正され、損失が前倒しされることで、逆に、その後の期末の決算は上方修正されることになる。実際に、報告書による決算訂正で14年3月期末は304億円の上方修正であり、15年3月末は、訂正によってさらに利益が拡大するものと思われる。

一方で、過去の決算が損益悪化の方向で大幅に修正されることに伴って、「繰り延べ税金資産」「海外企業ののれん」の減損を行うことになれば、数千億単位で下方修正される可能性もある。

つまり、2015年3月期決算は、評価・判断によって大きくその数字が異なるのであるが、その会計監査を行うのは、上記のように、第三者委員会報告書で重大な疑念が生じる事実を指摘された新日本監査法人なのである。

しかも、東芝の財務部門のラインは、第三者委員会の指摘によって幹部が引責辞任に追い込まれており、財務報告を適切に行う組織体制が維持できているか否かすら疑問である。

このような状況で、8月末に提出が予定されている有価証券報告書で、2015年3月期決算の数字が開示されるのである。重要な評価・判断を含む決算内容を誰が信用するであろうか。

■誰のための第三者委員会か

このような事態が生じている根本的な原因は、東芝の第三者委員会が一体いかなる目的でいかなる性格の組織として設置されたのかが不明だということである。

設置の時点では、日弁連第三者委員会ガイドラインに準拠した委員会とされていた。同ガイドラインは、基本原則として「第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表する」と規定している。ところが、公表された報告書には、「本委員会の調査は、東芝から委嘱を受け、東芝だけのために行われたもの」と明記されている。

また、ガイドラインでは、「第三者委員会は、企業等と協議の上、調査対象とする事実の範囲(調査スコープ)を 決定する。調査スコープは、第三者委員会設置の目的を達成するために必要十分なものでなければならない」とされているが、東芝の第三者委員会の調査対象は、報告書によると、「東芝から当委員会に委嘱された委嘱事項」とされており、委員会側が調査対象の範囲の決定に関わった形跡はない。会計監査人の監査法人との関係という問題の核心を調査対象から除外したことについても、「委嘱事項ではない」ということで済ませてしまっているのである。

要するに、「第三者委員会ガイドラインに準拠する委員会」との外形をまとっているが、その実質は、独立の立場で、主体的に当該不祥事についての調査検討を行う委員会とはおよそ似て非なるものなのである。

このような第三者委員会報告書をベースに再生を進めようとしていることで、東芝の今回の問題をめぐる混乱はますます深まったと言わざるを得ない。

[参考資料]
第三者委員会調査報告書<全文版>
http://www11.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150721_1.pdf

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郷原信郎(ごうはら・のぶお)●弁護士、名城大学教授・コンプライアンス研究センター長
1955年、島根県生まれ。77年東京大学理学部を卒業後、三井鉱山に入社。80年に司法試験に合格、検事に任官する。2006年に検事を退官し、08年には郷原総合法律事務所を開設。09年名城大学教授に就任、同年10月には総務省顧問に就任した。11年のオリンパスの損失隠し問題では、新日本監査法人が設置した監査検証委員会の委員も務めた。『「法令遵守」が日本を滅ぼす』『検察の正義』『思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本』など、著書多数。
▼郷原総合コンプライアンス法律事務所 
http://www.gohara-compliance.com/

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(郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎)

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