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「強い国の弱いリーダー」が領土問題をこじれさせる

プレジデントオンライン / 2015年9月16日 11時15分

■台頭する中国に潜む強さのなかの弱さ

 領土問題は、その時々の国際政局をくっきりと映し出す「鏡」である。旺盛な国力を誇り、果敢なリーダーを擁する国家は、領土を押し広げようと攻勢に転じる。一方で、国力が傾きかけ、優柔不断な指導者しかいない国家は、領土交渉でも守勢に立たされる。いまの日本は、中国とは尖閣諸島、韓国とは竹島、ロシアとは北方四島(択捉島、国後島、色丹島、歯舞諸島)をめぐる領土紛争を抱えている。中・韓・ロの各国は、領土交渉に臨む日本の姿勢から日本の底力を推し測ろうとしている。

尖閣諸島は、日本が一貫して実効支配をしてきた事実は一度として揺らいだことがない。にもかかわらず、中国は突如として領有権を声高に主張し始めた。国連の調査で周辺の海域に石油資源が眠っていることが明らかになったからだ。

日中両国は、国交回復にあたって、あえて尖閣諸島の帰属を議題にしようとしなかった。解決を将来の世代に委ねることを暗黙の了解としていたからだ。当時の中国は、文化大革命で疲弊し、国際的にも孤立していた。国際社会への復帰を急ぐためには、隣国日本との領土紛争を避けたかったのだろう。

文革から抜け出そうとする1970年代の中国は、やがて「海洋強国」を呼号して周辺の海域に迫り出してくるようになった。確かにその後の中国は、目覚ましい経済成長を遂げ、GDPは日本を抜いて世界第2位となる。もはや、国際的な孤立を恐れることなく、尖閣諸島の領有権を声高に主張するようになった。

だが尖閣の領有権を主張する中国の対応も子細に検証してみると、強さを懸命に装いながらも、そこにいまの中国の弱さをはっきりと見て取ることができる。いったんこぶしを振り上げてしまった以上、国民の手前、簡単には下ろすことができないのだろう。

2014年11月、APEC(アジア太平洋経済協力会議)を機に日中の両首脳は2年半ぶりに会談した。習近平国家主席は、安倍首相に微笑みひとつ示さなかった。会談に先立って尖閣諸島と明示した合意文書のとりまとめにこだわり、領土問題で譲歩の姿勢を見せなかった。国家主席でありながら、その政権基盤がいまだに固まっていないことを窺わせて興味深かった。党幹部の凄まじい腐敗が頻発し、分離独立の動きや経済格差を抱える中国には、尖閣問題で柔軟に対応する余力がないのである。

尖閣諸島は日本が実効支配しているのに対して、竹島は韓国が実効支配している。韓国は、1952年、李承晩ラインと呼ばれる境界線を一方的に引いて竹島を自国領に組み入れ、現在も武装警察官を常駐させている。

■韓国は歴史問題の外交カードを弄ぶ

韓国もまた日本との国交正常化にあたっては、竹島問題を政治問題化させずに封じ込めた。にもかかわらず、従軍慰安婦問題で、日韓に緊張が高まると、竹島問題で攻勢に転じるようになった。過去の植民地支配という「歴史問題」のカードも使って対日攻勢をかけるようになった。「歴史問題」はときに軍事力よりも使いでのある交渉カードとなる。

当時の李明博大統領は、政権末期の12年8月、竹島に自ら上陸した。そして「韓国領」と書かれた岩の前でテレビカメラに収まってみせた。経済政策の失敗もあって、政権の求心力が弱まっていたさなかの出来事だった。国内のナショナリズムへ屈服したのだろう。こうした構図は、現在の朴槿恵政権とて変わらない。領土問題は、心ある指導者がいるときには、相互に自制が利いているのだが、弱い指導者は、不健全なナショナリズムに屈服しがちなのである。

外交交渉で領土問題が決着した例は史上きわめて稀だ。領土をめぐる外交交渉は往々にして双方の国の国民感情が絡んで妥協を許さなくなるからだ。たとえ政府間の交渉が決着したとしても、政治家は国内の議会を説得して批准(国内における最終的確認と最終的同意)を取りつけなければならない。

領土交渉で政治家は、相手国と国内世論という2つの戦場で戦い、勝利を勝ち取る必要がある。政府間交渉はなんとかまとめても、国内に渦巻くナショナリズムを抑え込んで、交渉の「手形」を得るのは容易なわざではない。

■強いリーダーがいる日ロは交渉しやすい

領土問題とはかくも苛烈なものなのだが、軍事的な解決の選択肢を持たない日本は、苦しくても外交に懸けるほかないだろう。とりわけ交渉相手が国内で圧倒的な支持率を誇っているときはチャンスである。

こうした観点から北方領土問題を見れば、地合いは決して悪くない。安倍晋三首相はロシアのプーチン大統領を新しい年には日本に招いて、領土問題に突破口を開きたいと考えている。ともに長期政権を築いて高い支持率を維持しようとしているからだ。

北方領土は1945年、日本がポツダム宣言を受諾して無条件降伏をした後にソ連が占拠し、現在もロシアが実効支配を続けている。日本は戦後、北方四島の一括返還を求めてきたが、日ロの溝は埋まっていない。

だが、北方領土というトゲさえ抜くことができれば、日本とロシアの間には大きな戦略上の摩擦はない。領土問題を解決し、日ロが戦略的な連携に動けば、日本もロシアも、中国という新興の大国の経済的、軍事的風圧を殺ぐことができる。

大局を見据えて外交を展開するには、結局、ナショナリズムという烈風に怯まない政治指導者の存在が不可欠なのである。

■尖閣諸島、竹島、北方領土をめぐる争い

▼尖閣諸島

【1895年】日本、尖閣諸島を領土に編入。

【1972年】日中共同声明、日中国交正常化。→当時の中国の力は弱かった

【2010年】尖閣諸島中国漁船衝突事件発生。

【2012年】日本政府、尖閣諸島国有化。中国各地で反日デモ発生。

▼竹島

【1905年】日本、竹島を島根県に編入し領有を再確認。

【1952年】韓国、李承晩ラインを設定し、竹島を組み入れ。

【1965年】日韓基本条約、日韓国交正常化。

【2012年】李明博大統領が竹島に上陸。→国内のナショナリズムに迎合

▼北方領土

【1855年】日魯通好条約で択捉島とウルップ島間の国境を確認。

【1875年】樺太千島交換条約で日本はロシアから千島列島を譲り受け、樺太全島を放棄。

【1945年】ソ連、対日参戦。北方領土占領。

【1956年】日ソ共同宣言。歯舞諸島、色丹島は平和条約締結後、日本に引き渡すことで合意。

※編集部作成

 

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外交ジャーナリスト 
手嶋龍一
(てじま・りゅういち)
1949年生まれ。NHKワシントン支局長として9.11テロ事件で11日間にわたる中継放送を担う。『ウルトラ・ダラー』など著書多数。最新刊に『賢者の戦略』。

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(外交ジャーナリスト、作家 手嶋 龍一 構成=宮内 健)

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