なぜ目標を人に話すと、仕事のモチベーションが下がるのか?
プレジデントオンライン / 2015年10月5日 8時15分
■人に話すと、心は現実のように感じる
これから先を考えたとき、どんな立場で、何をしてみたいだろう。企業で役員になりたいかもしれないし、起業をしたいのかもしれない。あるいは、仕事はそこそこでいいから趣味の釣りの大会で優勝をしたい……。それぞれに、してみたいことが思い浮かぶことだろう。
どう実現していくかを考えて人に話すことは楽しく、思い浮かべるだけでも心がはずむ。また公言するだけで目標達成に近づくとする考え方もある。わかりやすい例では「ダイエット中だ」「禁煙中だ」ということで、目標を達成しやすくなるメカニズムがある。それは、人前でその行為をしにくくなるからだ。ところが、成功へのモチベーションになると、どうやら話が違ってくるようだ。心理学者のデレク・シバースは「目標は人に話してはいけない」という。
目標を達成するまでには、努力をして苦しい道のりがあるはずだ。ところが人に話した瞬間に、本来は実現するまで得られないはずの満足感が得られてしまう。そこでいい気持ちになり、目標を実現したように心が錯覚する。ここから努力が始まるはずなのに、満たされてモチベーションが低下してしまうのだ。
つまり、人に目標を語ることは、成功する前に満足感を得る“代償行為”をすることになる。代償行為とは、ある目標に到達できなくなったとき、代わりの満足を得るために元の目標に似た、別の目標に向かって行われる行動のことだ。
心理学者クルト・レヴィンは、「中断された行動と類似した行動に、代償行動として高い価値がある」としている。代償行動は実際の行動ではなく、空想したり言葉にしたりするだけでも可能ながら欲求は十分に満たされないため、心理的緊張はいつまでも残るという。
デレクによると、1933年心理学者ヴェラ マーラーは「他の人に認められると、心は現実のように感じる」ことを示し、2009年には心理学者ピーター・ゴルウィツァーがこんな興味深い実験をしている。
■なぜ、人に話してはいけないのか?
実験には163人が参加し、4つのテストを受ける。そのうち半分は自分の目標を紙に書いてみんなに発表するが、残りの半分は目標を口外しない。45分間で目標を達成するために作業をするが、やめるのはいつでも自由だ。結果は次のようなった。
▼目標を言わずにいた人たち
→45分間全部を使いきる。
▼目標を紙に書き口外した人たち
→平均33分過ぎたところで終了してしまう。
ここから、人に話してしまうことでモチベーションが下がってしまった様子がうかがえるだろう。自分の意識は「話す行為」を「実現する行為」と錯覚してしまう。そのため、目標について話さなくてはいけない事態が生じた場合は、自分が満足感を感じられないような「煙草をやめるんだ」ではなく、「煙草をやめるから、もしタバコを持っていたら言ってくれ」のような表現をするとよさそうだ。そして、社会的に認めてもらうのは、本当に想いが実現するときまで待ったほうがいい。
では、積極的にモチベーションをあげていくにはどうしたらいいだろうか? やる気が出るような環境をつくる……といっても曖昧だが、現実的にできそうなことがある。それは、脳を活性化させることだ。それは意外に簡単なことなのだ。
■脳の活性化だけでモチベーションアップ!
成人の脳の重さは約1350グラム程度だとされる。平均的な日本人30代男性の体重を68キロ程度だとすると、脳の重さは体重の2%弱にすぎない。ところが、この脳が使う酸素の量は、全身が必要とする量の20%にも及ぶそうだ。脳を活性化するコツは、血流をよくすることだという
以前に「歩くだけで発想力が60%アップする」とご紹介したことがあるが、脳により多く酸素を送り込むことで、頭は冴えてくる。酸素を送るためには血流をよくすることが必要だ。体を動かすだけでも血流はよくなり、脳は活性化して元気なる。すると、発想力が高まり、モチベーションが上がるのだ。
モチベーションを維持するために必要なのは、物理的には歩いたり動いたりして血流をアップさせて脳を活性化させること。それから、クリエイティブな発想とイノベーションによる刺激だ。モチベーションというものは、ほんのひと言「期待されている」と感じられるだけでグンと引き出せ、維持できるもの。あとは、人にうっかり話すことで、実現の前に満たされてしまわないこと。これが何よりも大切そうだ。
[脚注・参考資料]
Derek Sivers, Keep your goals to yourself, TED , January 2015
http://www.ted.com/talks/derek_sivers_keep_your_goals_to_yourself?language=ja
日本救急医学界 医学用語解説集 脳酸素消費量
(コミュニケーション・アナリスト 上野 陽子)
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