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五輪プレゼンがお手本! 相手の心を動かす「TEDトーク」

プレジデントオンライン / 2015年10月23日 9時15分

Michael Brands

アイデアを披露する場として世界的な人気を集めているTEDトーク。その特徴は、高いプレゼン能力に裏打ちされたエンターテインメント性だ。アイデアに他人を巻き込むトーク術については、学ぶべきところが多い。

スピーチの腕を磨くには、優れた話し手のスピーチを聴くことが大切です。現在はインターネットを通じて政治家や経営者をはじめ、さまざまな分野のオピニオンリーダーのスピーチを聴くことができます。

その代表例がTEDカンファレンスです。TEDとは、Technology,Entertainment,Designの頭文字を取った名前で、これら3つの分野から、世界に広める価値がある素晴らしいアイデアを発信することを目的にしたトーク・イベントです。

1984年にアメリカで始まったこのイベントは、今や世界中に広がりをみせており、これまでにビル・クリントン元米大統領や、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツといった著名人から、発明家や学者、建築家、音楽家、医療活動家など、第一線で活躍する1300名を超す人たちがメッセージを発信してきました。

2006年からはTED Talksとしてインターネットでの配信が始まり、1500本を超えるスピーチ動画を無料で閲覧できるようになっています。

■人々が知りたいのはアイデアよりプロセス

TEDにおけるスピーチは、なぜ人々を惹き付けるのでしょうか。その理由は、アイデア、伝え方、話し方の3つに整理して考えるとわかりやすいと思います。

もともとTEDは、広める価値のあるアイデアを世界に広げていく場です。では、世界に広める価値のあるアイデアとはどんなものか。それは陳腐な人まねのものでない、世界でただ1つのユニークな発見や経験と、そこから得た学びです。そうしたオリジナルのアイデアが数多く集まっていることが、TEDのスピーチにおける第一の特徴です。

自ら手を動かして見つけた発見や、びっくりするような経験を通じて身をもって学んだ教訓。それを当事者が自ら伝えるところに、TEDの醍醐味があるのです。

オリジナルなアイデアに行き着くには、挑戦のプロセスが不可欠です。しかし、何か新しいことに挑戦すれば、大なり小なり必ず失敗がつきまといます。そのなかでもがき苦しみながら困難を乗り越え、最終的に手にした成功。人々が一番知りたいところは、そのプロセスです。いかに葛藤を乗り越え、そこから何を学んだか。

成功の光のあたる側面にだけ焦点をあてるのではなく、その背景にある影の側面にまで心を開いて話していくことが、人を感動させる秘訣なのです。

では、オリジナルなアイデアをどうやって伝えているのか。TEDの2つ目の特徴がこの伝え方にあります。

TEDには、「18分以内で伝えきる」というルールがあります。18分あれば、たいていのアイデアは伝えることが可能です。そして、聞き手にとって、18分は集中力を十分継続できる長さです。加えて、インターネット配信を視聴するとき、動画の時間が長いと視聴に躊躇してしまいますが、18分以内であれば、ちょっと空いた時間を使って気軽に見ることができるでしょう。この18分以内というルールが、伝え方にいくつかの特徴を生み出してもいます。

話し手にとっては、アイデアや経験を実際に話そうとすると、18分という時間はかなり短いと感じるはずです。したがって、自分がもっとも伝えたいメッセージを明確にしなければなりません。この時間制限があることによって、そもそも自分は何を伝えたいのかということを明確にする必要に迫られます。直感的にはわかっている学びを改めて言語化する作業が必要になってくるのです。その結果、話し手のメッセージは非常に明確に研ぎ澄まされていくのです。

さらに、スピーチのオープニングは聞き手をハッとさせるように、単刀直入にストーリーや話の核心に入っていきます。通常のスピーチでは最初に自己紹介したり、話のテーマを簡単に紹介したりしますが、TEDではスピーチの直前に司会者がその役割を行うので前置きは不要なのです。

クロージングは本当に伝えたいメッセージを印象に残る言葉で伝えています。TEDに限らずクロージングはメッセージを聴衆の心にしっかり焼き付けるパートであり、オープニングと同様に非常に工夫が凝らされています。

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TED Talkの特徴

TEDの3つ目の特徴である話し方は、話し手が体をフルに使って聴衆に直接語りかけるスタイルが際立っています。そのための舞台装置も工夫されていて、TEDのステージに目を向けると演台がなく、ハンドマイクではなく、ヘッドマイクが使用され、スクリーンは後方上部に配置されていることに気付きます。つまり話し手と聴衆の間をさえぎるものが何もなく、目の前の聴衆に対し自由に語りかけられるようになっているのです。

壇上をフルに使って動き回ったり、パフォーマンスを行ったりすることも可能で、生身の人間である話し手の迫力がしっかり聴衆に対して伝わりやすくなっているわけです。

もちろんスライドや映像も使用できるようになっています。言葉と体とビジュアルを総合的に使った究極のメッセージ発信の形が、TEDであると言えます。

■論理のなかに感情を挟み込む

ビジネスパーソンがTEDのスピーチを参考に、人の心をつかみ、行動に駆り立てるような発信力を身に付けるにはどうすればよいでしょうか。

説得力の源泉はロジック、エモーション、トラストという3つの要素にあります。

ロジックは説得力の基本で、スピーチやプレゼンを行うときは、次の2つのポイントが備わっているか常に確認することが大切です。

1つ目のポイントは、主張が明確で絞り込まれているか。1回のスピーチでたくさんのことを伝えようとすると、一番伝えたいことがぼやけてうまく伝わらないことが多々あります。「このテーマについて話そう」と意識していても「このことを伝えよう」とメッセージを明確に意識していないとき、こうした事態が生じがちです。TEDの登壇者がメッセージを研ぎ澄ませているように、1分の発言でも30分のプレゼンでも、伝えたいことを一言で言えるようにしましょう。

2つ目のポイントは、理由が明確で、事実とデータに基づいた主張を述べているか。メッセージは理由と一緒に伝えられて、はじめて聞き手は納得するものです。これが押さえられていないメッセージは、単なる自分の思いの空回りになってしまいます。

以上のロジックの部分に関しては戦略コンサルタントが書いたロジカル・シンキング、あるいはそれをベースにしたプレゼンテーション技術の本も参考になるでしょう。

プレゼンテーションについて勉強する多くの人は、ロジカルであることで必要十分だと考えてしまいがちです。しかし、実はそこに落とし穴があります。人の心を動かすためには、わかりやすくロジカルに話しているだけでは不十分です。特に、話の内容の当事者としてプレゼンテーションをする場合は、聴き手の感情に訴えかける必要があります。個としての思いを絡ませ、熱意を伝え行動に駆り立てることが大切なのです。

エモーションが必要と言うと「客観的な事実と主観的な思いをまぜこぜにするな」と言う方がいるかもしれません。そうしないためにはまずロジカルな骨格を最初につくり、そのなかにエモーションを挿入していくようにすることです。

「私はこう考える。その理由はこうである」とロジックを固めたうえで、自分の経験談や現場で起こっていること、たとえば新商品であれば担当者の開発にかける思いや試行錯誤を上手に挿入していくことで、客観的事実と主観的な思いをまぜこぜにしない話ができるようになります。

エモーションを挟みながらロジカルに話を組み立てる。そして、そのベースにトラスト、すなわち話し手の信頼感を届けることが大切です。わかりやすく、感情を込めていくら流暢に話をしたとしても、話し手を信頼できないと聞き手は安心してメッセージを受け入れることができません。

トラストを付け焼き刃で生み出すのは不可能です。必要なのは専門性と誠実さで、その人の話の内容が深い知識と経験に基づいていて、かつ日頃の行いが周囲から信頼されているものかどうか。うわべだけつくろって誠実さを演出しようとしても、聞き手はニセ者感を察知するものです。

■一人ひとりに話しかけてその場で信頼感を形成

最近、スピーチと言えばIOC総会におけるオリンピック招致が話題になりました。なかでも高円宮妃久子さまのスピーチは格調高く、伝統的かつ正統なスピーチの極みと言えるものでした。ある意味、動的でハイテク技術を駆使したTEDのスタイルとは対極的ですが、ここにも私たちの参考になるところがたくさんあります。

話し方と話の中身から久子さまのスピーチを見ていきましょう。話し方の最大の特徴はIOC評価委員一人ひとりに直接、語りかけるように話しておられた点です。聴衆全体を一まとめにとらえた話し方ではありません。

具体的な技術としては的確な「間合い」を取って聴衆が情景を思い描きながら話を聴けるようにし、大切な言葉を「強調」することで伝えたい思いを明確にし、聴衆へ「視線(アイコンタクト)」を送ることで「私はあなたに対して話している」というメッセージを伝えておられました。

久子さまはその目の動きからテレビカメラを注視するのではなく、ジャック・ロゲ会長をはじめとする委員一人ひとりを強く意識しておられることが感じられました。

様々な制約があるなか、久子さまの一人ひとりに語りかけるようなスピーチは、聴き手との間に強い信頼感を形成した。

話の中身については、皇族である久子さまにはオリンピック招致を直接的に訴えることができないという制約がありました。そんな状況の中で何をどう伝えるか、久子さまは主に3つのことを伝えられました。1つ目は、IOCの特別震災支援プログラムに対する感謝と称賛。2つ目は、皇室のスポーツへの理解と支援。3つ目は、IOCメンバーとの絆。一言一句に至るまで考え抜かれたスピーチでした。

このように話し方と話の中身の両面から、久子さまは聴衆との間にラポール(心と心の架け橋)を築くことに成功されたのだと思います。

とくに久子さまのスピーチから私たちが参考にすべきは、聴衆を集団としてとらえず、一人ひとりの個人に語りかけるように話すことです。現実問題として何百人もいると個々にアイコンタクトを送るのは不可能ですが、なんとなく大勢に向けて話しているときと「あなたに伝えたい」という思いで話をしているときでは、伝わり方が大きく異なるからです。

▼プレゼンはオープニングで大きな差がつく
▽一般的なオープニング

皆さん、こんにちは。今日は雨で足元が悪い中、講演会にお越しいただき、ありがとうございます。この講演会を主催してくださった○○社の○○様には、お忙しい中、数々のご無理を申し上げたにもかかわらず、素晴らしいセッティングをしていただいたことに、心より御礼申し上げます。

先輩方を差し置いて、私のような若輩者がお話しをするのは、誠に僭越であり、恐縮しております。また、私は講演が不慣れなもので、このような場でお話しするときは、いつも緊張してしまいます。万一、見苦しい点がございましても、ご容赦いただけたらと存じます。

リーダーにとって、スピーチやプレゼンテーションは大切です。今日お集まりの多くの皆さんは、社員の前で、お客様の前で、株主の前で、マスコミの前で、話をする機会が数多くあると思います。しかし、最近、ある新聞社が行った、社長500名を対象にしたアンケート調査では、半分の5割の人が、スピーチやプレゼンテーションに苦手意識を持っていることが示されています。

今日は、この調査結果を参考にしながら、スピーチやプレゼンテーションを行う際に大事なことをお話しようと思います。あまり目新しい話はないかもしれませんが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

▽TED的オープニング

ここぞというときに、相手の心をつかみ、動かす。皆さんが、責任ある地位に就くほど、こうした力が求められるようになります。そのためには、物事をロジカルに説明することを超えて、人の心を突き動かし、行動に駆り立てる強力なメッセージ発信力が必要となります。

私はかつて、ソニーの盛田昭夫さん、出井伸之さんの直属スタッフとして、スピーチ・ライティングのサポートを行いました。盛田さんは、アメリカとの経済摩擦に直面しましたが、理不尽な主張には真っ向から反論しました。「いつも『勇気、勇気』と自分に言い聞かせているのですよ」と語ってくれたことを思い出します。出井さんは、森内閣の下でIT戦略会議の議長に就任し、「世界最速のインターネット網を整備する」と提言しました。全閣僚と財界首脳が出席する「御前会議」の場でも、正しいと思うことを主張する姿勢を見せてもらいました。

2人のトップのサポートを通じて、私は、リーダーシップの鍵を握るのがメッセージ発信力であることを知りました。いざというときに、瞬時に聴き手を惹き付け、意識と行動に影響を与える、強力なインパクトを持つスピーチやプレゼンテーションを行う力が、いかに大切であるかということを肌で感じました。

今日は、そんな経験を通じて私が学んだ、スピーチやプレゼンテーションの3つの秘訣について、お話ししようと思います。

▼佐々木繁範氏が選んだTED Talkベスト3
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Andrew Heavens

▽「私がやってみせた風力発電」ウィリアム・カムクァンバ
William Kamkwamba: How I built a windmill
【内容】14歳のとき、発電用風車を作った経験をもとに、2度目のステージで語る。(写真は1度目)
※感動の本質は、自分を信じて挑戦し、それを懸命に伝える姿にあることがわかる。

https://www.ted.com/talks/william_kamkwamba_how_i_harnessed_the_wind?language=ja

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Andrew Heavens

▽「宇宙に関する大きな疑問を問う」スティーブン・ホーキング
Stephen Hawking: Questioning the universe
【内容】宇宙はいかにして始まったのか? 生命は? 我々は孤独な存在なのか?
※瞳の動きで操作する機械音声で、人類の叡智を懸命に伝えようとする姿が心を打つ。

https://www.ted.com/talks/stephen_hawking_asks_big_questions_about_the_universe?language=ja

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James Duncan Davidson

▽「人生最高の贈り物」ステイシー・クレマー
Stacey Kramer: The best gift I ever survived
【内容】衝撃的な経験がいかにして最高の贈り物になるか。実体験に基づいた学びを3分で語る。
※ストーリーテリングの威力を感じさせる素晴らしいスピーチ。

https://www.ted.com/talks/stacey_kramer_the_best_gift_i_ever_survived?language=ja

 

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佐々木繁範(ささき・しげのり)
1963年、福岡県生まれ。ソニーを経て独立。著書に『スピーチの教科書』(ダイヤモンド社)。

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(佐々木 繁範 構成=宮内 健)

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