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やさしい母親のような上司を求める新入社員たち

プレジデントオンライン / 2015年11月2日 12時15分

『ザ・鬼上司!』(染谷和巳著・プレジデント社)

■いいのよ、できることだけやってね

大学を出て商社に就職した羽村君。

上司が“こっちの言い分”も聞かずに一方的に仕事を命じることに耐えられず、2カ月で退職。親類の世話で一部上場の製造会社に再就職するが、今度は仕事の内容が気に入らない、自分の能力を発揮できないと1カ月で退職。

その後も勤めては辞めるを繰り返しフリーターを続け、30歳近くになって流れ着いたのが荒田の会社。

若い人が皆こうだとは思わないが、こうした傾向を持つ人が増えているようである。

なぜ羽村のような人ができるのか。貧困、空腹を知らない、厳格な規律に縛られて生活したことがない。先生や親など周囲の人から叱られたことがない。こうした社会環境がすくすくのびのび育てた。これが1つの原因。

もう1つは15年以上もペーパーテストに明け暮れ、これでいい成績を上げれば優れた人間と見なされるという価値観を身につけてきたこと。問題集の問題を解く能力は伸びた。眠る時間を削って努力もした。そこそこの大学に入ったことで自信がついた。「自分は優秀だ」というプライドが高くなった。半面、自分の部屋で1人でいることが好きな人間になった。集団生活、人間関係といった分野では赤ん坊のままである。

この2つの原因から、気に入らないことはしない人、できることしかしない人、人と一緒に仕事することのできない人、組織不適合の人ができた。

こうした人々を「青い鳥症候群」と呼ぶそうだ。羽村が求めている青い鳥はどのようなものか。自分をお客様のように大切に扱ってくれる会社である。自分が好きなことを好きなようにできる会社である。失敗しても遅れても叱られない会社、「いいのよ、できなければ。できることだけやってね」とやさしく言ってくれる母親のような上司がいる会社である。

こんな会社があるわけがない。

■野球部出身者でも叱れば泣く時代

羽村は荒田の会社に1年半いた。さすがに青い鳥探しは諦めたようだ。先輩に怒鳴られて目を白黒させていたが辞めなかった。上司は「あいつは使いものにならない」と嘆いた。荒田が「あまりいじめないで、面倒を見てくれ」と言うので、上司は目をつぶり追及を手びかえた。

後輩が2人入社し、たちまち羽村を追い抜いた。それがこたえたようで辞表を出した。それにしても1年半よく持ったものである。

会社は羽村のような人をどうすればよいか。

第1は採用しないこと。

賢明な会社は運動部の学生のみを採用している。運動部員はしごかれ罵倒され練習を重ねる。体を鍛えることが同時に精神を鍛えることになる。監督やコーチのハードな練習命令を「はい」と聞いてその要求に応えた。諦めずに戦えば勝てることを知った。仲間と力を合わせれば、チームの力が倍加することを知った。

運動部にいた社員は仕事をいやがらない。「できません」とは言わない。暗い顔で泣きベソはかかない。入社して2カ月で逃げ出したりはしない。そのうえ集団生活に慣れている。誰とでもうまくやっていくコツを心得ている。ペーパーテストで優秀な成績をあげてきた秀才と比べてスポーツマンは現実派であり、会社にとっては即戦力になる人材である。

と断言したいところだが、この説も今は通用しなくなりつつある。

高級スーツの販売会社。全社員が運動部出身か体育会系。専務が言っていた。

「最近の新入社員、きつく叱ると泣くんですよ。高校の野球部出身がです。運動部も民主的になっちゃって、監督、コーチがやさしくなった。部員にお伺いを立てて練習メニューを作る。朝練はなし、もちろんシゴキなどありません。『巨人の星』の星飛雄馬のような根性のある学生ができるわけがない。だから会社へ入って命令されたり、叱られたりすると泣くんです。男がですよ。ウチはマスコミが体育会系の会社だととりあげてくれましたが、昔のような根性のある社員はほとんどいない。といって勉強しかできないペーパー秀才を採用する気にはなれない。これからも運動部の学生を採りますが、即戦力などにはとてもなりません」

勉強しない遊び人学生はもちろん、ペーパー秀才も運動部出身者も採用しないで済めば、それに越したことはない。

■新人を一人前にするのに研修も長期化

第2に採用したら仕事を教える前に、態度姿勢を矯正しておくこと。まっすぐ立っていられない。「はい」と返事ができない。挨拶ができない。話ができない。人の話を聞けない。集団の中で自己中心が目立つ。全部ではないがこれらが多くの若者に共通する欠点である。

会社はこうした欠点を放っておいて、新入社員にすぐ仕事の手順や技術を教える。そのほうが楽だからである。社員の抵抗も少ない。そのかわり、いつまでも「使いもの」にならない。

欠点を直すには訓練が適している。合宿による集団生活、それも知らない人と寝食を共にする。1人が不合格なら全員が責任をとる集団罰のある訓練。礼儀や生活のマナー、教官への服従、敏速な行動、話す、聞く、歌う、読む、書くなど基本能力を伸ばす訓練を行う。これにより仕事に立ち向かう姿勢、会社や上司に対する基本認識ができる。命令報告のルールが身につく。ここで逃げ出さなければ「使いもの」になる社員になれる。

第3の方法。これは会社の涙ぐましい気遣いを感じさせる。それは新人研修に気が遠くなるほど、たっぷり時間をかけることである。

目標、ノルマ、命令、競争といった怖いものに触れさせないようにする。できる限り仕事をさせない。現場に出さない。つらい目に遭わせない。学校の勉強の延長のように講義から入り、だんだんに実務訓練を取り入れ、少しずつ厳しくしていく。2カ月に半月出社して先輩や上司に慣れさせる。

研修の長期化は、仕事が難しくて教えることが多くなったからではなく、青年を会社に慣れさせるためである。短期の研修で仕事につけるとごそっと辞めてしまう。この損失は1年間遊ばせる損の数倍になる。これが長期化の理由である。

最近の大企業の新人研修は半年、1年はざらであり、1年半、2年というところも出てきている。入社式のあと研修所に送り込んで隔離する。難易度の高い技術習得のためもあるが、病原菌にいっぺんにやられてしまわないための配慮である。少しずつ免疫をつけて強くする。まるで病弱な人を空気のいいところでゆっくり療養させるように……。

人を大事にする「日本的経営」の究極の姿である。こんなゼイタクができるというのは羨ましいが、こうまでしなければ一人前の社員を得られない現実は泣けてくるではないか。

※本連載は書籍『ザ・鬼上司! 【ストーリーで読む】上司が「鬼」とならねば部下は動かず』(染谷和巳 著)からの抜粋です。

(アイウィル代表取締役 染谷 和巳)

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